教育委員会人事

久しぶりに時事ネタで。教育関係では何かと話題の愛知県犬山市より。

◎教育委員増員の条例改正案を提出へ=学力テスト不参加の愛知県犬山市
愛知県犬山市の田中志典市長は4日、教育委員の定数を現在の5人から6人に1人増員するための条例改正案を8日に開く臨時市議会に提出することを決めた。同市は教育委員による多数決で、文部科学省全国学力・学習状況調査(全国学力テスト)へ全国で唯一、不参加を決めている。田中市長は同時に、テストへの参加に前向きな教育委員候補の任命も議案として提出する予定。
同市教委は今年2月、教育委員の採決で反対3人、賛成2人となり、2年連続の不参加を決めた。
時事通信 4月4日

議会にしてもそうですが,最近は財政危機という観点からどちらかというとこういう委員会ものの定数を減らすことが多いと思われるわけですが,これは増やす方のお話。おそらくこれまでに減らしてきたおかげで定員までにバッファーがあったということなのではないかと思われますが。しかしこの事例はなかなか興味深い。前に学会報告で論文を書いてみたこともあるのですが(そういえばほったらかし…),教育委員は首長が選任できるものの,前の首長が選任した委員については,現在の首長は「再任しない」というかたちでしか働きかけることが困難であるために,新しい首長が選ばれてから,教育委員会がその首長によって選任された委員によって構成されるまで,タイムラグが生じることになる。そのために,犬山市のように新しい首長は学力テストに参加しようとしても(前の首長によって選任された)教育委員会の多数が反対するから参加できない,という事態になるわけで。
この事例の場合は,そういう事態を早めに変えるために委員の人数自体を変えてしまうとともに,イレギュラーに現市長によって選任される委員を一人加えるという,何と言うかそれまでの「ゲームのルール」を変えてしまう方法。もちろんこういう「ゲームのルール」を変えること自体,市町村に権限があるわけですから別に問題はないと考えられるものの,ある「ゲームのルール」の中で行われる「ゲーム」におけるプレイとその「ゲームのルール」自体を変えるプレイが,いとも簡単に同じレベルの意思決定として行われてしまう,という点では極めて示唆的ではないかと。実はこれって,知事の多選制限を条例で決めるのと似たような話なのではないかと思われます。多選制限っていうのは「ゲームのルール」だと思われるわけですが,それ自体を変える手続きとしては他の条例と変わるわけではないわけで,本当に制限されたくない首長にとってはそれほど意味がある条例ではない,ということは割りと予想できます。もちろん,「自分勝手に変えたと思われたくない」という規範が働くから普通の条例とは違う,という向きもあるとは思いますが…。ただ,だからといって国が一律に多選制限をするのは地方分権という観点からは望ましくないのではないかと思われます。そうすると,地方自治体の中で,例えば首長からの発議を禁止したり変更に議会の特別多数決を必要としたりすることで,「ゲームのルール」として変更が難しいものと,そうではない普通の意思決定とをある程度分けておくことも考えられるべきなのではないか,と思ったりするわけですが…やろうと思えば今でもできるもんなんですかねぇ。