第40回会合(2008/4/2)

分権委も丸一年で今回が40回目の会合。よく考えたら一年って51週なわけで,その中で40回会合をやってるっていうのはなかなかハードスケジュールですね。しかし少なくともあと一年半(増田大臣の前倒し発言より)は続くわけで,それ考えたらなかなか大変なものです。この観察記録も僕がいまのポジションを離れてどこかの常勤職に就くことができたら時間が取れなくなって終わりかなぁ,なんて思っていたのですが,残念ながらこの四月には決まらず…ということで。どこまで続くのやら(泣)。
まあ繰言はいいとして,今回は都道府県労働局(厚労省)・地方環境局(環境省)・地方航空局(国交省)のヒアリング。特に労働局が非常に長めのヒアリング(約1時間半)となっています。まずその労働局について,ここでは労働基準・労災保険・職業紹介・個別的労働紛争処理といったような内容が議論になります。ちょっとややこしいところもあるのでまずは簡単に論点の整理というか厚労省の主張を。論点を全て網羅できているかわかりませんが,まあ僕は別に厚労省の人間でもないので,自分が聞き取った程度のことしかかけないわけですが。

(労働基準関係)

  • 労働基準行政は憲法に基づいて一律の基準で運営されており,国の捜査権・刑罰権などとも絡むために,地域の実情や他の施策との関係はない
  • むしろ労働基準行政を執行する際には企業振興や産業誘致など都道府県の施策と利益が相反する
  • 職員養成などについても,県の財政力や優先施策を考えると定員が確保されない
  • 事務処理基準を確定する,というのも非現実的
  • 先進諸国でも労働基準は国がやっている

労災保険

  • 給付が行われると,労基法で罰則をもって定めている事業主の災害保障責任を免責するものであり,刑罰の免除なので,労働基準と併せて国が一体的に行うべき
  • 保険なので,運営責任とともに財政責任がある
  • 認定基準を設定するのも難しく,補完のために人事上・業務運営上の統制を行っている

(職業安定)

  • 地方が行う事業は,地域の実情に応じたものであるが,現在行っているのは30都道府県で,規模も小さい
  • ナショナルミニマムということで公共の職業紹介
  • ILO88号条約で,国の指揮監督のもと行われるものであり,法定受託事務ではダメ
  • 労使の意見は重要,労働団体・使用者団体も国による職業紹介を求めている
  • 雇用保険制度との一体的な運用が重要であり,保険と職業紹介を分離させたイギリスでは一度失敗している
  • 広域的な労働移動があり,企業側も本社が一括して申し込んでいる
  • 地域の実情に応じるのは大事,国の施策と相俟って行うのが大事(地方と連携)

(個別的紛争処理)

  • 「複線型」のシステムであり,どちらかに一元化を図るのではなく,国と地方が連携を図るべき
  • 国が処理する労働相談件数のほうが,都道府県よりも圧倒的に多い

まあこんな感じでしょうか。で,意見交換なのですが,これがなんと言うかもうほとんど地方が「できる/できない」の結構悲惨な水掛け論という感じで。聞いている印象としては,委員の側は労働基準/職業紹介をあまりはっきりとは分けずに,金と人を地方に移譲すれば地方でもできるだろう,という話をする傾向があり,厚労省の側はそうは言っても地方でやると統一的な基準が作れないし,財政力の弱いところはこの分野にお金をかけなくなるだろう,という議論をするかたち。厚労省の議論については,労働基準の方では確かにそうだろうなぁ,というところはあります。そのポイントというのは,上とも少しダブりますが(1)都道府県のほかの事務との利益相反がありうる,(2)政策の優先順位として低くなる可能性があり十分な資源が配分されないかもしれない,というところ。ただし,議論の中では労働局が所管する事務をみんな一緒に議論しているようなところがあるので,きちんと労働基準行政についての問題として議論されていないのが若干気になります。前にも扱ったことがありますが,個別労働紛争の処理についてもおそらく同じようなところがあり,ここでの厚労省側の指摘を踏まえた議論を消化せずに分権という主張をするのは少し性急という印象があります。まあそれでも現状が全て好ましいか,といわれると,井伊委員も少し指摘していたように,これまでの制度の結果として現在のサービス残業大国みたいなところがあるわけで,単に「集権的」にやることがただちに望ましいかというと若干難しいところもあるのではないかと思います。そういう意味では分権したときのメリット・デメリットと現行制度のメリット・デメリットをきちんと比較考量すべきだと思いますが,まあこれはこの委員会の話だけでもなくなってきてしまうのかもしれません。
[地方分権]規制権限の分権と二重行政
[地方分権]続・規制権限の分権と二重行政
一方の職業紹介については,厚労省の主張というのはILO88号条約があるんだ,という以上のことがどの程度あるのかよくわかりません。しばしば,雇用保険関係と職業紹介を切り離すとイギリスでは濫給の問題が起きた,ということを言うわけですが,正直なところどういうロジックでどの程度の濫給が発生することになったのかは説明がないのでよくわかりません。いやその筋の人には当たり前なのかもしれませんが,少なくともこの委員会で根拠として主張するにはそれなりにキチンと説明する必要があるのではないかと…。地方の側からすると,職業紹介事務については産業政策などと関連付けて行うメリットはあると考えられるわけですが,そういう趣旨の発言が出ると突然また労働基準の話で返事が来る,みたいなかたちでちょっと議論になっているとはいえないところがあったように思います。ただ,興味深い議論として鳥取県の例という話がありました。これは鳥取県「ふるさとハローワーク」というものではないかと思うのですが,要するに,ハローワークが撤退する地域で県がハローワークの機能を代替的に行う,というものだそうです。これについて厚労省は県と連携を深めてハローワークのデータやノウハウを提供していく,という話をしています。さらに西尾委員が「雇用保険の認定はどうしているのか」と尋ねたところ,現在は別の窓口すなわち雇用保険の受給認定は厚労省ハローワークのところに行かなくてはいけないものの,今後(利用者の利便性を考えて)受付の窓口を一本化することを検討したいという回答をしています。それができるのであれば,順次そういう「ふるさとハローワーク」のようなものを増やしていけば,国のネットワークを利用しつつ県が独自に職業紹介をやる余地が広がっていく,ということで,分権委の「中間的なとりまとめ」の線から言えばかなり望ましい状況になるのではないか,と思われます。ただし,都道府県にそのための財源や人員があるかどうかは別問題で,そういう独自の職業紹介をやる余地を広げるためには,現行のハローワークの財源・人員を少しずつ都道府県に移譲するという話が出ざるを得ないのではないか,そしてそれにはまた強硬に反対する,ということになるのではないかということが予想されます。つまり,この方法で都道府県の職業紹介事務を順次拡げるとしても,都道府県の側に財源・人員が足りない過渡期的な措置をどうするかというのが問題になるだろう,と。でも,厚労省側の,利用者の利便性を考えて雇用保険の認定の受付窓口を都道府県の職業紹介のほうでできるか検討するというのは,僕がここまで分権委の議論を聞いてきた中では数少ない建設的な提案であったのではないかと思います。
また,やや分権委の議論と離れますが,もう少し丁寧に考えれば,職業紹介関係を地方が行う場合には,ある程度Race to a bottomの問題があるのではないかと思われます。市場化テストと同じでしょうが,いわゆる「民間で出来る」部分と同じように「地方で出来る」部分というのは確かに存在して,その部分を地方に任せれば,地方自治体同士でサービスの競争をするかと思いますが,そのときに(1)租税収入を上げるためになるべく自分の自治体の中で仕事を紹介する傾向を持つ可能性,(2)実績≒租税収入向上につながりにくいような生活保護レベルの(福祉的な)就労支援には消極的になる可能性,のようなものはあるのではないかと思います。このうち,(2)のほうでRace to a bottomが生じて,再分配色の強い職業紹介事務が成り立たなくなってしまう,と言う可能性があるかもしれないのかなぁ,と思いますが,現在のところ職業紹介事務がこのあたりの職業紹介についてどのくらいまじめにやっていて,どのくらい実績を上げているのかはよくわからないところで…。ナショナル・ミニマムというからにはそういう再分配的な職業紹介事務を国がやるというのは重要なような気はしますが,現在の厚労省生活保護事務に対する態度を見ると,あまりそこだけ,ということにはならないのではないかとも思ったり。
地方環境事務所については,かなり厳しく存在意義を問うような話が多く,アクションが遅い(横尾委員),他の出先機関との統合をすべき(露木委員),といった議論が出ています。公害関係は昔から都道府県がイニシアティブを持っていたところで,不法投棄対応なんかでも都道府県の方が熱心にやっているという主張もあり,環境事務所の仕事としては国際的な廃棄物の移動への対応が主になるのかなぁ,という感じがします。そうであれば確かに税関や経産局との関係が検討されてもいいのかもしれません。また,環境事務所となる前からの環境省出先機関の仕事として,国立公園・国定公園の管理というものがあります。以前国交省ヒアリングで「都市公園」というのがあったのですが,これとの違いがよくわからないということもあり,結局「いろいろなところが成り行きで公園としてもつ」という現状が批判されることになります。国交省にしても環境省にしても,公園管理の「専門性」ということをいうのですが,これは何度聞いてもわかるようなわからないような理屈で…この辺の話についてはいつも横尾委員がどの程度の専門性か,学位や資格を持っているのか,という趣旨のことを尋ねるのですが,結局のところOJTでやるという話になり,ならば他の機関でもできるではないか−いやできない,というまたもや水掛け論に陥る傾向があるような気がします。
[研究][観察]第34回会合(2008/2/6)
最後は航空局。これは時間にしても20分ほどで,東京・大阪の二つだけということもあってそれほど激しい議論にはなってないような感じですが,猪瀬委員が全部本省でやればいいじゃないか,ということを主張していました。国交省側の回答としては,「航空局が行う企画立案の事務量が多すぎるのでできない」というものだったのですが,正直これはよくわかりませんでした。事務量が多すぎるといっても現在は行われているわけで,地方航空局の人員を本省に戻せば本省でできるような気がするのですが…なんかそういう問題でもないんですかね。あとは前も出てきたような話ですが,今年の法改正で一種空港と二種空港を国管理,三種空港を地方管理として分類を簡素化する中で,現在の二種Bも国か地方に振り分ける,という話に対して,松田専門委員が二種Aの中でも地方に任せることができるものがあるだろう,と突っ込むのですが,これはやや時間切れな感じもあり,あまり議論としては大きなものにはならずに終わる感じです。しかしまあ空港が「ネットワーク」の中でどういう位置づけになってるのかっていうのは分権委だけで議論するのは結構難しいような感じも…。まあそれ言い出したらみんなそうなのかもしれませんが。