第39回会合(2008/3/27)

最近は頂いた本と分権委の会合しかブログを更新してない気もしますが…。せっかく2008年になって新しいカテゴリのタグを作ったのに全く使う機会がないのは残念なところ。まあ時事ネタを書こうとしても,民主党どないすんねんくらいしか書きようがないのかもしれませんが…。しかし今回の騒動の民主党をみていると,(1)意外とコミットメントする能力がある,(2)しかもなぜかコミットメントコストが異常に低いらしい,ということがわかったような気がします。(2)については前からそういうところがあって,コミットメントしようとするのに結局その能力がなくてできなかった,ということは往々にしてあったのでしょうが,今回は日銀総裁人事にしても暫定税率にしてもコミットメントをしたまま乗り切った,と。短期間でそんなに議員の行動様式が変わるわけではないでしょうから,やはり参議院という第二院で多数派を形成することができるようになったことで,政党としての凝集性が高くなったということでしょうか。
さて,分権委について。今回は総務省(旧郵政省系)の総合通信局厚生労働省の外局とされる(三条委員会に「外局」という書き方をしていいのか疑問だが)中央労働委員会出先機関である地方事務所,それから内閣府沖縄総合事務局が対象となっています。感想から言うと,今回はあんまり実りのある話ではなかったような感じ。というのは通信局にしても中労委にしても沖縄総合事務局についても,何やってるのかよくわからないところがあって,委員の側も普段より若干ツッコミ切れてないのではないかという感じの印象がありました。まああくまでも個人的な印象ですが。
総合通信局については,委員長が最近よく使う論法ですが,「戦後60年くらい全く区割りが変わらないのはどうなんだ」という話が中心だったような。その関係で露木委員がNHKの記者をしてたときの経験から,九州総合通信局が熊本にあるのは理由がない,なんで時代に合わせて変えないんだ,という話が。しかしこの手の話はまあ台風みたいなもので,ヒアリングに出ている人は大変でしょうが,どうも積み重ねにはなりにくい。電波行政については全国一元的な行政が必要ということらしくて(つまり権限移譲しても法定受託事務),あんまりこの手の話で議論しにくいということなのかもしれませんが…。その中で,唯一松田専門委員がCATVなどで地域のコミュニティ・サービスをやっていることを考えると,全て国の機関がやるのではなくて,CATVなどで地方との役割分担を考えていかないといけない,というコメントが。まあ答えとしては「考えます」というくらいなんですが。
報告資料を読む限り,そういうときに問題になっていくのは,規制権限の移譲の議論と似たようなもので,地方に規制権限を渡すことで,CATVや地方局に出資することもある地方自治体が規制主体になってしまい,利益相反が起きてしまう,ということのようです。技術の専門性とかそういうのもあるんでしょうが,その辺の話は僕はよくわからないし,しばしば「出先機関の方もそんなに専門性を持ってない」という反論(?)が起こることを考えると,さしあたり社会科学の研究者にとっては利益相反の方が大きな問題のように思われます。ただこれは,農地の話なんかと違って,どういう競争状態があるかという議論が前提になるような気がします。というのは,そもそも複数の業者がいて,競争が成り立っているならそこにわざわざ地方政府が乗り出していく必要がないですし,逆に業者が全くいないなら,政府がサービスを提供するのも正当化されるところもあるわけで。だいたいこの規制がなんのためのものかはいまいちよくわからないところもあるのですが(電波なら多すぎると問題,というのでしょうが,CATVはよくわかりません),移譲できそうな事務を同定した上でもう少し丁寧な議論をしないと始まらないなぁ,と思うわけですが。
次は中労委。これはご興味がある方は見ていただくとよいのではないかと思いますが,もうなんというか大変ですねぇ,と。中労委が何をしているかというと,ざっくり言うと集団的労使紛争の調停で,現在ではそのうち特に特定独立行政法人の労使紛争に関する調停と,複数の都道府県に跨る民間の労使紛争の調停ということになります。地方分権の観点からすると,実は後者の複数の都道府県に跨る民間の労使紛争の調停を権限移譲するかどうか,というのが問題になりそうなところですが(前回の西尾メモでは「分担型」の典型),今回は地方事務所絡みだったこともあって特定独法の話が中心に。特定独法,というとなかなかわかりにくいところですが,中労委がもともと主にやっていた,いわゆる三公社五現業の労使紛争の調停からの流れにあるものだそうです。で,その対象となる人員は,昭和60年度に116万人いたのが,国鉄が抜けた昭和62年度に36万人,さらにたぶん2001年ころ(説明者が「昭和19年度」といったのでよくわからず)には郵政・林野と8つの特定独法で31万6千人,郵政民営化の結果現在では6万2千人と。現在は8つの特定独法と国有林野事業なのですが,このうち国立病院機構はいま非公務員化の話が出ているそうで,ここにいる4万8千人が抜けるともう中労委の調停対象となる特定独法は1万4千人程度しかいなくなる,ということです。それで,地方組織も含めてこれまでの組織を維持する必要があるのか?ということでかなり厳しいツッコミを受けていくことになるわけですが,中労委の方としては,郵政民営化や仮に国立病院機構が非公務員化されても,その過程で労使紛争が起きるかもしれないから現在の組織が必要だ,という主張をしています。
委員長を中心として,たまに委員の側から地方事務所の仕事は地方でもできるでしょ,という議論が出てくるのですが,これはまあやや乱暴ではないかと。特定独法は国でやっていることを考えると,下手に「国と対等」の地方を入れるとちょっとchain of delegationが混乱するように思います。それよりも,むしろこれだけ調停対象が減っていて,さらに件数が減っている中で中労委自体をどうするか,という議論(これはおそらく分権委の議論ではない)がないとどうしようもないような気がします。しかも,平成15年度以降申し立てられた事案っていうのは病院か郵政だというわけで…。その結果現行の制度を残したまま,ということであれば,松田専門委員が指摘したように,「ほとんどの特定独法は東京か大阪」にあるわけで,それに合わせて地方事務所を再編する,というのは自然だと思いますが。まあ最後に猪瀬委員が指摘した「中部事務所が管轄している新潟(の病院)に行くのは,名古屋より東京の方が近いでしょ」って言うやり取りとかはもうあまりにもグダグダなのですが,結局のところ現状を所与として,関連する官僚の人たちに「この出先機関は要りません」と言わすのはまあ無理なわけで。そういう要る/要らないを判断するという意味での当事者能力がないのに,そういう議論をするよりは,全体のシステムの中で分権委が突っ込めるところがどこなのかを判断した上で,的を絞った議論をしていく方がベターだと思うところですが(ってきっとマスコミ受けはしないんでしょうがorz)。
最後は内閣府沖縄総合事務局。ここについては沖縄の特殊性を鑑み…っていうのもあるのでしょうが,あまり潰してしまうという話よりも,他の機関となぜ統合されないのか(西尾委員→防衛施設庁,井伊委員→厚生局・環境事務所)という疑問が多いところ。この答えは同じで,それは「沖縄振興計画」といういわば「親」計画で規定されているから,というもの。で,この計画は沖縄県の発議でできてるから,県の意向を踏まえたものになってますよ,という主張に続きます。まあそらそうなんだろうなぁ,と思いつつ,逆にここで県の意向を強調するのはどうなんだろうと思わないこともなかったりして。国の出先機関なわけですから,国の仕事をしてますということを言わないと,北海道と一緒でまた沖縄県と総合事務局を合併しろ,という議論は出て来うるのではないかと思うわけで…(今回は露木委員がおっしゃってましたが)。ここは中労委の話に近いですが,他の機関との統合を進めるべし,という議論が正論であったとしても,結局のところ総合事務局の人たちが判断できるわけではない,ということで,その辺りをどうするのか,というのが分権委の課題になっていくような気がします。例えば出先機関に関する勧告で統合の方針を打ち出すのか,あるいは他の政治的な部門に委ねるのか,結構難しいところですが,そもそも「どういう風に決めていいのかわからない」ものについて,決め方を示していくことができれば,それなりに意味があるのではないかと思ったりもするのですが。