第38回会合(2008/3/18)

今回は割りと盛りだくさん。冒頭に猪瀬委員が地方整備局関係の公益法人(〜建設協会・〜建設弘済会と呼ばれるものなど)関係について,道路特定財源の無駄遣いが起きている,ということで独自の資料を提出。分権関係に絡めて,出先機関から公益法人への発注の問題や,誰が決裁権者になっているのかなどいくつかの質問を国土交通省に出すということで。
それから日本経団連との意見交換ということで,松下電器中村邦夫会長はじめ日本経団連道州制を検討している委員会の代表が道州制と分権の話について意見表明を。日本経団連としては,基本的に道州制を目指すというシナリオの中で,道州制の前提として十分に地方分権が進んでいることが重要,というように位置づけているようで,露木委員が「道州制特区を活用するのか」と質問したのに対しても,それはあくまでも実験ということで,最終的には道州制を全面的に導入することがゴールと考えている感じ。ここでの道州制は,二層制で基礎自治体は1000程度,というイメージだそうです。まあ道州制が前面に出てきたプレゼンテーションであったわけですが,その中でちょっと目を引いたものが一つ。税財源の話で「交付税の一部を譲与税に振り替える」というものなのですが,この手の提案はいままであんまりなかったんじゃないかなぁと。しかしよく考えたらイギリスでも2006年の改革のときに交付税のように基本的に差額補填のような考え方で運用されていたRevenue Support Grant(交付税と同じで厳密に差額補填しているわけではない)から,そのうち大きな部分を占める教育補助金を特定補助金として外した上で,配り方をほとんど譲与税みたいな感じに変えているので(形式的には差額補填ではなくてRelative needsに沿って配分,これも激変緩和みたいなのがあって厳密にRelative needsで配分しているわけではないみたいだが),この提案っていうのはそんなに無茶なものではないと思われます。ただ,譲与税みたいにして配ると結局のところ人口が多いところにたくさん配分が行って,また「格差拡大だ」とかわけのわからない話になってくるような。しかし「格差拡大」っていうことを言ってる人たちが全ての自治体が交付団体になればいいと主張するのは余り聞いたことがない。個人的にはすっきりする解決のひとつだし,財源の方はそういうかたちにして,後は地方の行政的な裁量をなるべく大きくしていくという考え方だって十分アリだと思うわけですが。
経団連のあとは西尾委員による出先機関の整理についての考え方の説明。出先機関の整理に当たっては,「国と地方の二重行政の排除」という観点から基準を作り,この基準に基づいて委員会が事務を仕分けして各省に提示する,というお話です。委員会で仕分けをするっていうのはかなり大変な作業じゃないかなぁ,と思うわけですが,これは委員が分担してやるのかそれとも事務局がやるのか…いずれにせよ,会合で話に出ていた第二次勧告のための中間報告というやつがいつごろかにもよりますが,出先機関以外の本丸の話を進めながらこれをやるというのはかなり大変な作業になりそうな感じです。
ちなみに西尾委員の分け方というのは次のようなかたちです。

1「地方でも同様の事務を行っているもの」
(1)「重複型」
事務・権限が法令上一の主体に専属させられておらず、国と地方がそれぞれ処理することが許容されているもの(例:民間事業活動の支援、普及啓発など)については、地方に一元化して実施することを基本として、新たな「区分け」の線引きを行う。
(2)「分担型」
事業規模の大きさや事務・権限の対象範囲等によって国と地方が役割分担しているもの(注)(例:公共事業、許認可・監督など)については、地方に事務・権限を移譲することを基本として、現行の「区分け」の線引きを見直す。
(3)「連絡・調整・関与型」
国の出先機関が行っている地方から本府省への許認可、協議、補助金交付等の申請、報告等に関する経由・連絡事務や、地方が実施する事務に関して、国の出先機関が広域的な見地等から調整し、又は関与を行っているもの(例:ほとんどすべての行政分野に共通)については、原則として廃止する。
なお、地方の区域を越える広域調整や関与を国が行うことがどうしても必要な場合には、原則として本府省等が行うことに改める。

2「現在は主に国のみでその事務を行っているもの」(「国専担型」)
我が国の社会経済情勢の変化を十分に踏まえた見直しを行い、地方自治体の自主性及び自立性の発揮、地方自治体による総合行政の確立、住民の利便性の向上、国と地方を通じた行政の簡素化及び効率化といった観点に資するものについては、事務・権限の地方への移譲や廃止等を行う。
特に、地方が独自の施策を行わざるを得ないもの(例:地域における雇用や交通の確保など)に関連する国の出先機関の事務・権限については、これをできる限り地方に移譲する。

会合では法定受託事務を移譲しても自治の拡充には繋がらないんじゃないか,というテーマで,特に法務局関係の登記事務をどうするかが議論されていましたが,このメルクマールであれば,特に問題になるのは1(2)「分担型」でしょう。もちろん2についても(運輸局とかそうですが)今国でやっていてなかなか地方に権限移譲しようとしない,という問題はあると思うのですが,それよりも現在役割分担ができていることになっているものについて,役割分担の在り方をガラッと変えるようにするのはかなり大変だし,理念的な裏づけが必要になる感じがします。1(1)と1(3)が基本的に地方に一元化となっているのに対して1(2)についてはそこまで踏み込んでいないというのがそれの表れですが,実は(1)と(3)って(2)と比べて新しい事務だったり相対的に重要度の低い事務だったりするのではないか,と思われます。
最後に,知事会の代表として知事会長と京都府知事が出席。前に一度知事会長が軽く触れた出先機関の整理に関する知事会の提案を説明します。この提案,都道府県単位の出先機関は原則廃止するだとか,ブロック単位の機関も基本的には廃止の方向だとか,かなり勇ましいことを言っているのですが,実のところ知事会でも必ずしもコンセンサスを取れているわけではないということ。都道府県単位の出先機関であっても,事務の性質上残していてもいいものがあると思われるわけで,それを理屈付けせずに「都道府県単位だから」という理由でばっさり落としてしまうのはちょっとどうかと思ったりするわけですが。で,整理によって2万人くらい削減できる一方で,これまで出先機関でやってきた事業のうち地方で実施すべき事業の費用(国庫補助事業は除く)が2兆6000億円,ということなのですが,また出ましたよ2兆6000億円。この数字ってだいたい消費税1%くらいだということなのですが…,ほんとにいろんなところでこのくらいのロットの数字が出てますねぇ。なお,今回の初めのゲストである日本経団連が「道州制導入を前提とした」検討であったのに対して,知事会の側は「道州制は考えない」ということ。この辺りの立場の違いも,これからの議論に影響があるのかもしれません。
意見交換では,広域連合の話がもっとも活発に議論されていたと思われます。はじめに露木委員から出された,都道府県間の広域連合で横の調整ができるのか?という質問に対しては,「都道府県間で難しければ本省が出てくればいい,少なくとも出先機関に意味はない」という答え。まあそうかなぁ,という感じで,知事会から「都道府県間だけでできる」という答えではなかったのは却ってよかったのかもしれないと思ったり。さらに小早川委員から,(a)広域連合になると住民の目が届かないのではないか,(b)(例えば「ナショナル・センター」が必要なような事務で)現在国が抱えている専門のスタッフを,広域連合が抱えるというようなことは可能か,という趣旨の質問。(a)については,県→広域連合と見ると住民から遠くなるように見えるかもしれないが,国→広域連合と見ると,これはむしろ自治の拡充だという答え。それは結構納得いくような感じ。(b)については,なんだかあまり意図が伝わってなかったような気がします。他には麻生会長から「九州では広域で様々な政策連携を行っている」ということで,僕も論文に書いたことがある産廃税の例など。最後にやっぱり職員のやる気が出る制度にしないとね,ということでだいたい意見交換が終了,という感じでしょうか。
今日聞いていて日本経団連と知事会のスタンスとしては大筋では変わらないものの,「将来の道州制」についての考え方という一点で大きく異なっているところがはっきりしたような気がします。まあ分権を前提に道州制,という日本経団連が,都道府県に権限をある程度移譲されたのちに都道府県合併,のようなことを考えているのか,それとも別の方法で道州制の導入を考えているのかはよくわかりませんが。まあ知事会のほうも広域連合ということを言ってるわけで,それが上手くいったら道州制特区,というのもありうるのかもしれません。…しかし広域連合か合併か,ってまさに市町村合併みたいですねぇ(H海のK先生の修論でこの話が出てきたような気がしますが)。