第44回会合(2008/4/25)

随分空いてしまいましたが4月下旬に行われた第44回の会合を。そんなに楽観的に見積もっていたわけでもないのですが,やはり新規の授業二つ持ちながら論文書くのはそれなりにしんどいっす。5月も投稿論文の修正とか要旨提出とかあるので微妙に時間取られそうですが,まあGWよりはマシだと思って頑張らなくては。本文を初めから書くのは次は8月までお休みする予定ですが,いい加減博論のclosingもしなくては。
さて44回会合は,環境省文科省の公開討議,それから道路財源についての委員間の討論ということです。環境省は唯一「前向き」と(新聞に)評価された回答だというのを先に見ていたので,どんなもんかなぁと思いながら会合を見てたのですが,そんなに他と違うかと言われると難しい。まあ確かに感じとしては前向きなような気もするのですが,うがった見方をすると,実は次の文科省がどうしようもないのでそれとの引き合いで評価されているような気も無きにしも非ず,なわけですが。
環境省との討議のテーマは,

  • 公害規制事務の処理について権限移譲すべき市町村の範囲を拡大すべき
  • 循環型社会形成推進交付金については,本来の趣旨に立ち戻り,協議会の義務付けという国の関与を廃止すべき

というもの。前者について具体的に論点となったのは,大気汚染関係やダイオキシン規制について立ち入り事務の権限を特例市まで移譲すべきではないか,ということ。特に西尾委員から,県によっては条例による事務処理特例で特例市まで移譲されているところもあり,一方でそうでないところは特例市は権限を持たず,ばらつきがあるのでこの事務については揃えて特例市まで下ろすべきではないか,という問題提起が。これに対して環境省のほうでは県と市の関係で権限移譲される現状を認めつつ,そんなに軽い問題でもないので全部の特例市に下ろすかどうかは検討したいということで。まあこれはよく出てくる問題ではありますが,(負担が増えるので)そういう事務が欲しくない自治体というのはあるわけで,それについてどう考えるかというのが論点になるようです。分権委としては,そこは制度全体の整合性を採るようにしたいということですが,環境省のほうとしては関係団体の意見を…ということになる。でもこれ正直よくわからないんですよね。権限移譲した結果うまくいかない地方自治体に環境省が介入するというのは理解できるように思うのですが,結局今の議論は「いやだ」というところがあるからやらない,という感じ。しかし中央省庁は自治体が「いやだ」ということを他にかなりやりまくっているわけで,個別の自治体の「いや」を聞くときには何か他に理由があるのではないか,と若干勘ぐってしまう(のはこの会議をずっと見てるからかもしれませんが)。
交付金については,協議会の義務付けと言う関与を外しても,交付金の要綱で細かく規制を続けたら一緒だろう,という批判が。環境省としては,趣旨に沿って要綱の見直しもする,という「前向きな」表明をしているので,とりあえずそれを待つしかないようなところがあるわけですが。この交付金環境省の予算のかなり多くの割合を占めているそうで,横尾委員からは本当に大丈夫なのか?という趣旨の発言が何度か行われていましたが,環境省としては一応趣旨に沿って見直す,という回答が(だから「前向き」という評価に繋がるんでしょうが)。ただ横尾委員から「もう交付金を止めて財源移譲したら?」という意見が出ると,それは公債マターになるので税源移譲では考えにくい,という反応が。まあ国交省でもそうなんでしょうが,結局のところ省庁の側も借金の上に成り立っていて,その借金で地方を縛るという結構皮肉な状況になっているわけで,三位一体改革のときにも施設整備関係でもめたこの議論にどっかでまとめて踏み込む必要もあるんだろうなぁ,と思わせる感じでした。
課税自主権の話はちょっと飛ばして文科省について。文科省への質問は以下の感じ。

  • 教職員人事権の移譲と給与負担について,中教審の平成17年度の答申では前向きだったのに19年度では慎重姿勢に転じている,この間どういう事情の変化があったのか
  • 人事権と給与負担が都道府県にあるために教員が地域に根ざしにくい,これを一体として市町村に移譲すべきで,特に中核市には早急に移譲すべき
  • 移譲について文科省としての方針が見えない,当委員会の中間とりまとめを真摯に受け止めたようには見えない,この場で議論の方向性と結論の時期を明確にして欲しい
  • 市町村立幼稚園の認可,保育所は届出制,指定都市立の幼稚園は届出制,認可の適否について検討するというが,いまさら認可を必要とする理由はあるのか

これに対する答えとしては,まあ要するに「地方の方で意見の一致がないから進まない」という話。いま協議会を作って広域での人事権のしくみや給与負担のあり方について議論しているので,複数の類型的な案を提示し検討しながら進めて行きたい,という回答になります。何を言われても地方自治体で意見が一致していないということだけを繰り返し,しかもどの程度反対があるのか?という質問には答えないという状況なので,なんともいえないところですが…せめて政令市に移した結果としてどういう事態が起きたのか,くらいはデータとして見せても,と思ったりするのですけどね(文科省の主張をフォローするような気もするし)。実のところ,省庁としては「前向き」だけども地方の側の意見が多様だから返事できない,というスタイルは環境省とおんなじような気もするのですが,何で文科省の方は後ろ向きと判断されるのかはやや不思議。
その理由があるとするなら,財源の方でよくわからない議論になってるからかもしれません。教員人事権を既に政令市に移していて,じゃあ財源も一致させるべきだ,少なくとも神奈川県では県と政令市(横浜・川崎)がそれで合意しているのだから移せばいいじゃないか,という主張があるのですが,これに対しては「広島県は教員人事権を県に返せと言っている」と言います。個人的にはここで広島県の話をするのはどうかと思うのですが,まあそういう主張を地方自治体の自律的な意見として認めるとして,広島県広島市が合意したら教員人事権を戻し,逆に神奈川県では財源も移し,というスタイルで何がまずいのか?と聞かれている反論には全くなっていないと思われるわけです。まあこういう反論をしているので「後ろ向き」と捉えられるんでしょうけど。市町村立幼稚園の認可を都道府県に取らなくてはいけないのを,届出でいいでしょう,という主張に対しても「幼稚園を運営したことがない自治体もある」という理由を挙げてしまうと,「信用していない」と捉えられて「分権の趣旨がわかってない」と言われてしまうわけですし。まあ言い方だけのせいでもないでしょうが,言い方って大事だなぁ,と思ったりします。
で,あと課税自主権について委員間で議論があるのですが,これはちょっと面白かった。中心的な問題としては,一般財源化は望ましいとしても,一般財源化されると地方に回ってくるかわからない,という問題があって,これに対処する必要があるだろう,という議論。西尾代理が丁寧にまとめておられましたが,その問題には対処すべきであるとしても,加えて地方整備局を縮小してそれに見合った財源を移譲することや,地方に回ってくるはずの道路財源を確保するための具体的なやり方まで一次勧告に盛り込むのはちょっと難しいだろう,ということ。委員の中には,地方が財源不足に苦しんでいるときに整備局のマッサージチェアみたいなものは納得できないし,せっかく道路財源が注目され,一般財源化も議論されている今だからこそ,この話を勧告できちんとやるべきだ,という人もいる一方で,どちらかというと委員の大勢としては一次勧告で触れるとしても具体的に何か言い切ることは難しいだろう,というような印象が。そういう意味では非常に常識的な議論だったわけですが,ただ,この議論で面白かったのは,最後の方で委員間でちょっと揉めた感じになったときに,丹羽委員長がかなり毅然として捌いていたところ。この分権委のはじめの方ではそういう場面も見られていて,丹羽委員長のリーダーシップについてブログでも言及したことがあったのですが,最近はあんまり気づかなかったので久しぶりだなぁ,と。ただやはり,特定の委員や委員の多数に流されるのではなくて委員長が毅然と差配するというのは重要なんだろうなぁ,と。これから委員間での議論も激しくなることが予想される中で,よいところなのではないか,と個人的には感じていたのですが,どうなるもんでしょうかねぇ。