第63回会合(2008/10/30)

昼ごはんになんとなく天ぷらを買ってきて,適当に天丼を作ってみたら無駄に味が濃くてげんなり。やっぱり慣れないことはするべきでないのか,それとも練習なのか。あと,残り物をみんな食べようとしたらみんな味が濃かったのもダブルパンチ。
それはいいとして,第63回の会合は厚生労働省に関する義務付け・枠付けのヒアリングと,政府・与党が発表した「生活対策」で掲げられた,「道路特定財源一般財源化に際し、1兆円を地方の実情に応じて使用する新たな仕組みを作る」という部分についての議論。ちなみにこれは「地方公共団体支援策」だそうです。

厚生労働省

厚労省ヒアリングは,介護保険事業者に関する指定基準や「地域包括支援センター」に関する基準,それから児童福祉施設の最低基準,児童自立支援施設の職員に関する身分規程,障害福祉関係のサービス基準と居宅サービスの要件緩和,と非常に多岐にわたるものです。で,実際のところ意見交換は議論を深める前にどうしても時間切れという傾向になってます。しかしこれらは議論としての大筋はほぼ同じで,要するに委員側としては「全国一律の基準が厳しすぎるから,基準を最低基準ではなく標準/参酌基準にして,条例で幅を持たせるべき」という主張をして,それに対して厚労省が「むやみやたらに縛ろうとしているのではなく,国に納められた税金を入れるから一定のサービスを確保する必要があり(仕方なく)最低基準を作っているんだ」という反論をする,ということの繰り返し。井伊委員もおっしゃってましたが,例えば介護関係の老人福祉施設における職員の配置基準が3:1(職員1人につき入所者3人)か5:1かでどのくらい入所者の生活の質が変わるかという情報がない中ではこれは完全に水掛け論になるわけです。
基本的に水掛け論の中で,重要だと思われる部分は横尾委員と厚労省のやり取りと,その後の露木委員と厚労省のやり取り。まず横尾委員とのやり取りについては,横尾委員が「最低基準ではなく標準にするべき」と主張すると厚労省側は,最低基準への上乗せ*1は現行制度でもできるのだから,標準にしてあとは地方で決めるというのはサービスの質を下げることでしかない,という反論をします。それに対しての横尾委員のコメントは「地方を信じていない」というもので,まあどうも噛み合ってない感じ。しかしその後の露木委員のコメントを加えると,少し見えてくる気がします。上述の,職員の配置基準について根拠がない,という井伊委員の指摘に対する「平均が2人台である」という厚労省の回答を踏まえて,露木委員は「平均から最低基準を導き出すのはおかしい」という実に真っ当なコメントをします。このコメントに対する厚労省の回答は,基本的に横尾委員に対してしたものとほぼ同じ。つまり,(厚労省が出している最低基準一般に当てはまるかどうかはとりあえず措くとして)いくつかの基準においては全国平均みたいなものを基にして最低基準を考えているところがあるわけです。だとすると,現在の最低基準が地域によっては高すぎる,ということもあるのかもしれない,と。
政治学行政学の議論からもこういう指摘ってあるわけです。いわゆる「政策波及」ですが,福祉政策や公害政策において,いわゆる先進自治体が高い基準を設定することを受けて,回りの自治体がそれを見て学習し,同じように高い基準を設定していくと。そしてそのうち国がその基準を採用して「最低基準」として自治体に守るように指示するわけです。国が「最低基準」として定めると,当然それがキツイと思う自治体があるわけですが,そこには補助金なり交付税なりを充てることで何とか守れるようにしていくと。しかしこれをやると,先進自治体としてはせっかく他の地域に先んじてたという特徴が失われてしまうし,またもともとそんなに高い基準を設定していなかった自治体としては財源があるうちはいいとしてもお金がこなくなると今度はそれを維持していくのが難しくなる,と。まあ今は「最低基準」を上げることが行き過ぎてそういう状況になっているような感じがするわけですが。

日本の政府間関係―都道府県の政策決定

日本の政府間関係―都道府県の政策決定

自治体政策過程の動態―政策イノベーションと波及

自治体政策過程の動態―政策イノベーションと波及

厚労省ヒアリングはだいたいこういう感じではあったのですが(労働省関係の公共職業訓練もあったのですが,これはちょっと短すぎて論点がいまいち僕にははっきりせず),やや気になったのは児童自立支援施設の職員の身分規定についてのところ。現在は事務を持っている都道府県あるいは政令市の職員でなくてはいけないことになっていて,委員はこの規定をやめて民間人でも職員になれるように求めています。厚労省は公設民営については慎重に検討する,というものの,身分規定については「専門性が高い職員に」ということで維持するという回答。しかし,この職員の専門性というのは微妙に怪しいのではないかと。僕が愛読するSPA!の10/28号でこの特集をやっていたのですが,県の職員がやることで,「福祉」の文字だけ同じで畑違いの現場からいきなり飛ばされ,3−4年で異動になってしまう,と。特に支援が必要とされる自立支援施設でそんな簡単に職員が異動になるのは厳しい,という話なわけですが,それはそうなのだろうなぁ,と。民間人が職員に就く,といってもどのくらい定着できるかというのはもちろん問題としてあるわけですが,じっくり定着できる可能性がある職員を増やすという意味でももう少し考えられてもいいのではないかと思いますね。しかも,この自治体職員のローテーションが多いというのは普段中央省庁が「自治体に任せず国でやる」論拠にしてるわけですし。

道路財源について

総理の1兆円を地方に,という発言を受けて急遽議論されることになったテーマなわけですが,この1兆円というのが,(1)新たに一般財源化される道路財源の中から1兆円出て行くのか,現在の道路整備臨時交付金(7000億)をベースに追加するのか,(2)恒久的な措置なのか一次的な措置なのか,という肝心なところがわからない,という問題点はあるわけですが,猪瀬委員・露木委員を中心に,配り方はともかく総理の発言に反応して分権委の見解を出すべきだ,ということに。結論としては,建設国債を充てるような一時的なものではなく,税源移譲を行うことで1兆円を地方に渡すべきだ,という見解を採ることになったようです。
猪瀬委員と特に松田専門委員が強調していたのは,第一次勧告を踏まえた国交省の検討では,仮に地方に国道の管理が移管されたとしてもそれほど大きいものにはならず,地方整備局の人員を移管するほどのものではないということ。1兆円財源が移れば,国交省としても直轄事業が減っていくわけで,現在の規模で地方整備局の人員を維持することができないから,整備局から地方に人を移管するという方向に弾みがつくだろう,ということです。直轄事業負担金と国庫補助金を交換してお金の流れをすっきりさせる,という猪瀬委員の重要な提起についてはあまり突っ込んだ話はされなかったと思いますが,まあそれは措いておいても1兆円の移管によって直轄事業を実質的に減らし,人の移管を進める契機にするんだ,というのが分権委のひとつの方向性になっていくようです。今日現在の政府・与党の「生活対策」を見てもそれほど詰まっているわけではないようなので,これからしばらく「1兆円」の定義を巡って政治的なやり取りが激化することになるのでしょうけど。

*1:職員の配置基準で言えば,最低基準より入所者あたりの職員を少なくすること