第85回会合(2009/5/28)

ようやく久しぶりにヲチ記録が追い付いてきました。ヲチがもたもたしている間に分権委の方は第三次勧告の大きな柱のひとつとされている義務付け・枠付けに関して,中間報告を取りまとめようということになっています。この85回会合では,その中間報告の素案についての小早川委員からの報告がメインとなっています。
小早川委員の報告ですが,これはまあ後でも議論になるようになかなか複雑でわかりにくいものとなっています。なぜ複雑になっているかというと,要は大雑把にやってあとで省庁側から細かい揚げ足取りのようなものを食らわないように,議論の対象を細かく分類して,それぞれの分類についてなるべく細かいメルクマールを立てて判断しよう,ということになっているからだと思われます。本来はその分類と,メルクマールの妥当性について議論すべきだと思われるのですが,分類については一応二次勧告で済んだということになっているうえに,メルクマールというものがどうしても抽象的なものになるためになかなか議論は盛り上がらない,と。でまあそういう報告をなるべく簡単にまとめてみると,まず二次勧告で指摘した3つの重点事項,すなわち(a)施設・公物設置管理の基準,(b)協議、同意、許可・認可・承認,(c)計画等の策定及びその手続,について構ずべき措置の方針について議論するのがこの報告の趣旨となっています(これが分類)。具体的に何をするかというと,まずこれらに関する現行の義務付け・枠付け規定そのもののは原則廃止するということにしたうえで,廃止が困難である場合にはそれぞれ次の方向で見直す,と。つまり,(a)施設・公物設置管理の基準については,その基準の設定を条例へ委任すること,(b)協議、同意、許可・認可・承認については,より弱い形態(の関与)への移行すること,(c)計画等の策定及びその手続については,「できる」規定化・例示化等により単なる奨励へ移行すること,とされています。このときにどういうものが「廃止が困難」で,またどの程度関与を弱めるかというのを判断するのがメルクマールというやつで,実質的にはここのところが議論になるはずなのですが,非常に抽象的なうえに細かくて議論に専門性が必要になっていて,実際問題としてはなかなか議論が難しい,と。委員間の意見交換でも,結局のところ「もう少しわかりやすくならないか」というのがほとんどを占めています。
その中で,ひとつ実質的にきわめて重要な意見が出されたのが,(a)施設・公物設置管理の基準,のところ。すでに書いたように,ここでは義務付け・枠付け規定を廃止することが困難な場合には,国の法令ではなく条例によって基準を定めることができるように,条例へ委任を行うという方針なわけですが,もう少し具体的に言うと,条例委任する際の基準設定を類型化して,「参酌すべき基準」と「従うべき基準」に分け,後者は真に必要な場合に限定(士業関係の基準など)するとのこと。「参酌すべき基準」を十分考慮した結果としてであれば,地域の実情に応じて異なる内容の基準を定めることは許容されているものであることから,見直し対象施設等基準のうち必要最小限のものを,条例制定に当たって「参酌すべき」基準として規定することは許容することとされています。で,この「参酌すべき基準」が,地域の実情に応じて地方自治体が条例で異なる内容を定めることを許容するものであることから,地方自治体の条例による国の法令の「上書き」を許容したものということができるとされています。この点について確認を行った西尾代理の発言は非常に興味深いので抜き出してみます。

従来この委員会がスタートして以来,義務付け・枠付けの緩和に取り組むのだといってきたときに条例による上書き補正権のようなものを認めてもらうと言葉としてしばしば使ってきたと思うんです。最終的に詰めた作業をしてきて,今回ひとつの結論的な考え方として出ているわけですが,そのときに従来上書き補正といってきたのは,法令の書き方を「参酌すべき基準」型に書き換えてもらうという意味なのだと。そしてそうしてもらうことによって自由に条例で基準が設定できるようにしていこうと。それが従来言っていた「上書き補正」ですよ,ということを宣言していると。つまりね,「上書き補正」という言葉を使うと,パソコン時代でパソコンのワープロ機能を皆さんお使いになる時代になると,前書いていた文章のうえにみなさん文書を書いてぽんと上書きをしますと,昔の文章が消えて新しい文章にさっと変わるわけですよね。上書きっていう表現を使うとそういうイメージがあると思うんです。ですから国の法令にこう書いてあるとその文言とぜんぜん違う文言を条例で書けるという意味だったんじゃないのかと,こう理解していた人がたくさんいるんじゃないかと私思うんですよ。最終的に何が可能で何が好ましい形かをWGで全て検討してきて最後にたどり着いた結論は,要するに従来「上書き」といってきたことは法令の基準の定め方を「参酌すべき基準」で定めてもらう,そういうかたちに直してもらうと。それによって条例制定で独自基準を作ることを可能にしてもらうと,これが従来言ってきた「上書き」です,と,小早川さんが言い直しているということだよね。それをみんなが理解していないと昔言ってた「上書き補正」と違うんじゃない,という反応が出るかと思って,念のため。

要するに,「上書き補正」というと国の法令について,自治体が自分の判断で,国の法令の言葉を変えたりして(この場合)基準を定めることができるような権利を付与するイメージがあるけど,今回のまとめだとその前の重要なステップとして国が法令の基準を「参酌すべき基準」にするというステップが必要になるよね,という確認かと思われます。国の基準の文言を変えるわけではないけど,条例の実質的な制定権の幅を広げようと,これが従来からの「上書き補正」に当たるものですよ,とする理解が示されているわけです。西尾先生の懸念としては,「これで上書き補正なのですか」という疑問が出るかもしれない,というところにあるようで,少なくとも委員の間ではいろいろ詰めた結果こういうのが一番現実的なやり方だと判断したと理解すべきではないかという見解が示されています。そうすると,ここでいう「上書き」=「参酌すべき基準」を考慮して自治体が独自の基準を決めること,自体は論理的に整理すれば一種の条例への委任であり,そういう意味では「上書き」は既に部分的に存在しているパターンであると。まあ率直に言って,分権委を以前から観察している中でもこれ以上のことが言えるとは思えませんでしたが,きっとこのあたりが妥当なところで,あとは「どの程度の規模で「参酌すべき基準」への変更を行うか」というところが問題になってくるのではないかと思われます。
小早川委員報告のあとは,井伊委員提出資料についての説明。井伊委員が提出した4月24日の資料をベースに,地方財政計画の平成20年度の数字を用いてマクロのシミュレーションを行ったものが提出されています。国と地方の役割分担の見直しをするなかで,地方は事務の実施者であって実施するかどうかを決定するのが国である事業が大きい中で,事業を行う決定をする権限とその財政的な責任を一致させることを根本的な考え方として,現在の分権委の議論よりも強い前提を含めたシミュレーションがなされています。丹羽委員長からは,事務局とも相談してマクロだけではなくてミクロも欲しいというコメントが出されていましたが,事務局はシミュレーションの前提が大事であり,それを委員会で決定してないと,前提を事務局で仮置きするのは難しいとの反応。ここで議論されるべき「前提」が今後の税財源の議論の中でどの程度見えてくるかが重要なのかな,というところです。