大阪維新の会(5/15追記)

[研究][地方政治]橋下新党の追記として書こうと思ったが,調べ始めると分量が多くなってきたので独立のエントリに。橋下新党=「大阪維新の会」についての報道があった後,まあそのとおり橋下知事を代表として「大阪維新の会」が発足し大阪府議会で24人(自民党に続く第二会派)集めたのに加えて,大阪市議1人と堺市議5人集めて府下の地方議員30人というわりと大きな所帯で始まることになった。大阪市堺市の議員が入るのは当然と言えば当然だが,府議会の動きばっかり見てたのであんまフォローしてなかったのでちょっと驚いた。しかし堺市市議会の構成を見ると,公明党が第一党(13人)で民主党(11人),共産党(8人)と続き,自民党大阪維新の会が5人になっている。よく考えたら橋下知事の応援を受けて堺市長が誕生してるわけだから,市長は実質的に「大阪維新の会」が抑えているわけで,それを考えればある程度の議員が移動するのはまあ予想されることだろう。
首長という点から言えば,大阪市の重要なベッドタウンであり,「都構想」を考える上では視野に入りうる東大阪市についても市長が都構想に賛成を表明している。こちらについても以前市長は既にその旨Twitterでつぶやいていたわけでまあある程度既定路線と考えられる。ただ若干よくわからないのは,周辺市を考えたときに重要な問題のひとつになりそうな豊中市では4月25日に市長選挙が予定されているにもかかわらず,相乗りvs.共産党という枠組みで選挙が行われ,「大阪維新の会」系の勢力は入ってこない。ひとつには,当初から戦線を広げすぎると失敗するから大阪市堺市から重点的にスタートするという割と賢明な判断がありうるし,またもうひとつには因果的にどちらが先なのかよくわからないが,府議会の定数8のうち2人が「大阪維新の会」に入ってる東大阪市と定数5で誰も「大阪維新の会」議員がいない豊中市の違い,ということなのかもしれない。そもそも勝つための地盤を想定できないというか。
さて,この新党の初めての選挙は大阪市議会の補選ということになりそうで,これはもともと定員2の福島区なわけですが,補選という小選挙区の形式になります。ここは非常に興味深くて,2007年の統一地方選挙の結果を見ると,もともと自民党の現職が二人いるところに,自民・自民・民主・共産の4人が立候補して,1位共産党(6852票),2位自民党(6069票),3位民主党(4120票),4位自民党(3949票)ということで,共産党が勝ったという選挙区になってます。今回は,この勝った共産党の議員が参議院議員選挙に出馬することに伴なう補選ということです。実は大阪市会から参議院議員選挙に出馬するのはもうひとり自民党議員がいて,僕は当初この人の後を決める選挙かと思い込んでいたのですが,生野区選出のこちらの方はまだ市会議員を続けることで,今回の補選ではなく参議院選挙と同時に行われる補選で後継者が決まるそうです。この辺に関しては,吹田市の議員さんが憤ってますが,背景には選挙戦略があると考えられていて,議席を手放す共産党としては投票率が低いと思われるかたちで補選をした方が,有利に組織票を集めることができるから今回の単独補選の日程になったのだ,という話も。
この議員さんが書いているように,小選挙区形式の選挙なので,共産党の思惑と違って投票率が上がれば,組織票とは関係ないところで風に乗ったところが強くなると考えられます。現状では,前回の民主党候補と共産党の後継候補,それから橋下新党の候補者ということで,民主党に追い風が吹いてた2007年統一地方選挙という選挙でも民主党(新人)は共産党(新人)に負けてるわけですから,たぶん今回も旗色悪い。しかも自民党に入れてた候補者が新党に流れる可能性も高いわけで。そう考えると,新党は選挙戦を有利に進めることができるようにも見えますが,そこでまたややこしい話が。

橋下“維新”府議はやジレンマ 自民が公認候補…党籍除名も
5月23日投開票の大阪市議補選福島区選挙区(欠員1)で、自民市議の長男で秘書の太田晶也氏(38)が出馬に意欲を示していることが21日、分かった。自民党府連に公認を求める方針。
しかし自民の公認候補が立候補すると、戸惑うのは橋下徹大阪府知事が代表を務める地域政党大阪維新の会」に加わった自民党籍の議員たち。維新は独自候補の擁立を決めているが、自民府連幹部の中には「反党行為をした場合は除名もある」という厳しい意見もあり、関係者からは「究極の選択になる」との声があがっている。
晶也氏は同選挙区選出の太田勝義市議の長男。選挙区定数は2で、当選すれば親子での議席独占となるため世襲批判も想定されるが、晶也氏は「地元出身者として福島区の将来を考えていきたいと思っている。父の後援会の賛同を得たうえで出馬したい」と話しており、自民支部内で調整がつけば、来週にも府連に公認申請をするという。
市議補選では、維新が会社役員の広田和美氏(46)を擁立する方針で、地域政党の“初陣”としての注目されている。
維新にはこれまで30人の地方議員が加わっているが、ほとんどが自民出身で党籍を残したまま。自民党籍を持つ維新府議の1人は「過去の選挙では公認候補以外を応援して処分されなかった人もいる。仮に処分を考えているのなら釈然としない」と話す一方、別の府議は「できれば自民の公認候補を落とす選挙にはかかわりたくはない」と打ち明けた。

現職市議の息子が出馬意欲,ということでこれはキツイ。まあ国政でも有名どころでは河野洋平河野太郎というのはありましたが,あれは一応選挙区が違うわけで,今回はその選挙区すら同じ。まあ「補選」というのを活かして地盤を動かすことができれば(いわば同じ地盤を「二回使う」ことができれば),当然有力な候補になるわけです。とりあえず補選で勝っておいて,次の選挙ではオヤジが引退,みたいな筋書きは,議員の個人的な選択としては十分に合理的でしょう。また自民党としても確実に議席が取れることは望ましいわけです。一方で,新党の方としては,以前のエントリでも触れているように基本的に「離党」はせず,「離団」という不思議な形式に留めている,いわばわりと明らかに二股かけてるわけです。しかしここで対立を全面に押し出してしまうと自民党から出ていかないといけないかもしれない,と。
記事を読む限り自民党側は強気な感じですが,その選択はかなり難しいと思われます。二股かけるというのは,実際に二股かけている議員たちのみならず,将来どうなるか分からないことを考えると自民党としてもそれなりに望ましい状態だと思われます。しかしもしどちらかにコミットすることになれば,そのあと後戻りもできず,国政にも悪影響が出るかもしれない。一番問題なのは府下唯一の衆議院議員に近いと考えられる府議が新党の方に行ってるというところ。ここで決裂すると,衆議院議員がどう動くか,というのは非常に注目されることになると思われます。単純に橋下新党が国政を目指していれば話は早いでしょうけど,現状では地域新党なわけだし,まさか新党Hiroshi'sに行くわけにもいかないだろうし。
じゃあ国政はどうするのか,というと,それについての議論もないわけではない。この記事にあるように,大阪府自治制度研究会が4月22日から発足したわけですが*1,やはり大阪府大阪市の合同から大都市制度を議論することを狙うものとして設立されるかたちになる。その内容とありうべき問題については既に松井望先生が議論されていて,その「大阪都」理解については全く同意するところですが,これからまだ見ぬ大都市制度の議論がどこへ展開されるかが注目できるかと思われます。個人的には,たびたび強調するように全国的な動きにつながりうる大都市制度の議論をテコに,今回の新党騒ぎと絡むところもあるかな,と思っていたのですが,一番ありそうな新党Hiroshi's→日本創新党との連携は今回のところ出てこない模様*2。まあはじめから国政に行くのではなく,地方での政治活動からスタートするというのは,政党というものの成り立ちを考えたときには自然かとも思いますが。やはり理屈としては,「大阪ではある程度まとまったのに,国が言う事聞かない。同じような問題を抱えている大都市よ,立ち上がれ!」っていう流れが必要になるのかな。たちあがれ,はもうとられたけど。

追記

その後,5月7日にさらに自民党から維新の会へ二人加入し,15日にはもう一人加入した。15日の「離団」によって,維新の会が最大会派になるとのこと。

大阪維新の会」最大会派へ 自民ベテラン府議が離団届
大阪府議会(定数112)の自民党府議団(27人)に所属し、幹事長も務めた奥田康司氏(当選5回、高石市選出)が、会派に離団届を出したことがわかった。橋下徹知事とともに「大阪都」を目指す府議会会派の大阪維新の会(26人)入りを希望している。離団が認められれば、維新の会は自民党府議団と並んで最大会派になる。
府議団は14日の議員団総会で奥田氏の扱いを協議する方針。同氏が離団し、維新の会に入会することになれば、自民党府議団は約半世紀ぶりに最大会派から転落する。
同氏は取材に「(自民の)会派運営が不透明で理念が見えない」と説明。大阪都構想に賛同しているという。
府議会事務局によると、自民党府議団は保守合同を受けて1956年4月に結成。60年代前半から最大会派を維持してきた。昨年4月の時点で49人いたが、橋下知事が唱える府庁移転をめぐって内部の対立が激化し、若手らの離団が相次いだ。

やはり「大阪都」から攻めているのは大きい。現在の大阪府議会の選挙区と会派構成を見ると,大阪市内選出の議員は自民党が多いものの,市外に出ると維新の会の議員がぐっと多くなる。これは当然ながら,例の都構想を軸としているので,それに賛成可能な議員から集まっていくと大阪市外からになるということだろう。もうちょっというと,県議が賛成可能かを考えるときには,関係する市議の影響も大きいと考えられる。自分を支持する市議が反対しているのに県議だけ突っ走るとあとが怖いということで。そうすると,あんまり考えたことないので粗くおけば,さしあたりは自民党大阪市内を中心に形成される府内の「ローカル・パーティ」の性格を持つことになるのかもしれない。いや,「大阪市」をベースに考える議員団が「自民党」を作っているという方が正しいかも。そうなってくると事態は相当複雑。考えないといけないのは,「自民党」というラベルがどういう意味を持ちうるのかということか。既に中央では政権を失っているので,当面はラベルの効果は期待しづらいが…次の(自民党が絡む)政権交代への期待による,ということなのではないか。

*1:傍聴可能とは…会議ヲチャーとしては見たかったけども,さすがにその場にいるのは無理かw

*2:しかしこの党の「政策指針」のひとつに「いのちを大切にする!」が入ってるのがなかなか味わい深い。まあこの辺いろいろありそうですが。