大阪府議会における選挙区割り変更の議論とその問題点

大阪市は出直し市長選挙で色々止まっているように見えるが、大阪府では非常に興味深い動きがある。それは、2015年統一地方選挙に向けた選挙区割の変更である。以前の記事でも書いたように、大阪府では2011年6月(前回統一地方選挙の直後、いわゆるダブル選挙の半年前)に議員定数を109から88に大幅に削減することを決め、それに合わせて区割りを行っていた*1。この改正条例はまだ一度も施行されてはいないものの、2013年12月6日に国会で公職選挙法が改正されたことを受けて、もう一度区割りの見直しがテーマとされるようになる。で、大阪府でも、早速12月9日に「議員の定数及び選挙区並びに各選挙区において選挙すべき議員の数に関する特別委員会」が開催されてその見直しが議論されはじめる。
公職選挙法の改正は、この資料がわかりやすいが、大阪府に関して言えば重要なポイントは2つある。1つはこれまで選挙区として(のみ?)活用されてきた「郡」という単位を考える必要がなくなり、町村という単位で隣接している他の市町村と合併することができるようになった、という点。もう1つは、これまで「市」としてみなされてきた政令市の区が「市」としてみなされなくなり、政令市を2つ以上の区域に分ければ区を自由に合区できる*2ということになった点がある。1点目について、大阪府泉南郡熊取町田尻町・岬町)が飛び地になっていて選挙区としては不自然という問題を抱え、また大阪市という区の人口が相対的に少ない政令市を抱えているために、十分に議論の対象となるのである。
この改正は、色々と経過措置があるので、議員定数と選挙区割を変えたばかりの大阪府がすぐに変更する必要はない。しかし、公選法改正をきっかけとして特別委員会が招集され、改正の議論が始まることになった。12月9日の会議記録を議会中継で見る限りでは、基本的には飛び地の解消ということで議論が始まっているように見える*3。飛び地を解消した上で、2月中に議決し、1年以上の猶予期間を置いて2015年の統一地方選挙を迎えるというかたち。ただ、この会議記録を見るとどうも民主党議員(住之江区選出)が最後の方で飛び地以外の合区を検討したらどうか、ということを言っているようである。
この間、1月に特別委員会を開催するとかそういう話もありつつ、結局市長の出直し選挙で選挙区割自体が争点となる環境が生み出されていく。2月20日の特別委員会で具体的に出された提案を見てみると*4、非常に特徴的な提案が行われていることがわかる。
まず維新の会であるが、基本的に2011年6月からの変更はほとんどなく、飛び地となっている泉南郡選挙区だけを隣接の市と合区する。泉佐野市+熊取町泉南市田尻町阪南市+岬町で、泉南郡選挙区を1減らす分全体の定数も減る模様。ただ総定数については聞いてた限りちゃんと説明がなかったので、ひょっとしたら泉南郡で減らした分どこかで1つ増やすかもしれない。その場合は箕面市豊能郡選挙区ということになるかなと。
次に自民党。基本的に「配当基数が1未満の10選挙区を任意合区」するという方法。配当基数というのは「選挙区ごとの人口」を「議員一人当たりの人口」(大阪府であれば大阪府人口/議員総定数(=88))で割ったもので、これが1に満たないということは人口が少ないのに過大代表されている選挙区であることを意味する。これはまさに公選法改正を利用するかたちになっていて、政令市である大阪市堺市の中では、福島区此花区(1)、天王寺区浪速区(1)、大正区西成区(2)*5となっている。そして、維新の会が定数を減らした住吉区堺市北区堺市南区では定数が1から2に戻されることになっている。その他を見ると、合区の対象となるのが柏原市藤井寺市(1)、泉南市阪南市田尻町+岬町(1)の他、四條畷市大阪狭山市高石市がそれぞれ定数2の大東市・富田林市南河内郡泉大津市泉南郡と合区して定数2となっている*6
さらに興味深いのは公明党民主党である。両者の主張は「配当基数1未満を解消する」ということで、該当する選挙区は全て合区される(23選挙区)。その結果、現在62(維新提案では61)の選挙区が31にまで減り、1人区は6となる。その考え方は、政令市の選挙区を「衆議院小選挙区の区割りで割る」(ただし守口市門真市にかかる大阪6区部分は旭区と鶴見区のみ)というもので、それぞれ大阪1区(5)、大阪2区(4)、大阪3区(5)、大阪4区(5)、大阪5区(5)、大阪6区(2)となるほか、堺市が北区東区美原区(4)と西区中区南区(4)に分けられる。その他も衆議院選挙区単位の影響が強くて大阪7区である吹田市摂津市(4)、11区である枚方市+交野市(5)のほか、寝屋川を除く12区である四條畷市大東市(2)がある。一応その他も挙げておくと、柏原市藤井寺市(2)、富田林市南河内郡大阪狭山市(2)、泉佐野泉北郡高石市(2)、貝塚市泉佐野市+熊取町(2)、泉南市阪南市田尻町+岬町(2)といったところが合区され、余った2議席箕面市豊能郡守口市議席が増やされる(1→2)*7
これはそれぞれの政党の選挙戦略と密接にリンクしていて非常に面白い。維新は1人区で「維新かそれ以外か」という決戦を挑もうとし、公明党民主党議席が増えるように選挙区定数の規模を大きくしようとしている。そうすれば定数5くらいのところでは1議席は見込めるからだ。そしてその中間が自民党ということになっているわけだが、この中間というのが自民党にとって望ましい選挙戦略とリンクすることになっている。
自民党案の戦略的なところは、1人区の合区が中心となっているところである。ここで現状の1人区というのは誰が議席を持っているかを考えると、基本的に維新の会の議員なのである。そうすると、1人区を2つくっつけると維新の会の議員同士が戦うということになるわけだ。より悲惨なのは泉南市阪南市田尻町+岬町で、泉南郡の議員がどこを地盤にしているかにもよるが、へたらしたら1人区に維新の会の議員が3人、という状況に追い込まれる。そうすると維新の会の議員としては、維新の会にいるよりも、反維新に転じて自分の持ち票を加え、維新だけで戦おうとするライバルを出し抜こうとするのは全く不思議ではない。ちょうど今日「維新府議が離党へ 幹部は“ドミノ倒し”懸念」という記事が出ていたが、この議員はまさに自民党案の合区対象となっている藤井寺市選出議員というのはあまりにもわかりやすい。こういった維新を離脱する議員を拾っていけば、1人区でもそこそこ戦えるというのがまあ立派な選挙戦略、ということになるわけだ。
最近の報道では、公明党民主党自民党案に擦り寄るということになっている。まあ彼らにとっては現状より自民案の方が望ましいのは明らかなので不思議はない。ただ、現在の府議会では、維新が過半数をもっていないといっても、自公民だけでもやはり過半数を持っていない。まあ共産党も維新より自民案の方がマシだと乗ってくることが予想されるが、その後で問題になるのが「去年の泉北高速鉄道で維新を辞めた4議員」というところなのである。これらの議員が維新側につけば、維新は過半数を取ることができるのだが、そのようなインセンティブがあるだろうか。
想定される結論から言えばおそらくそれはかなり難しい。上の自民案で太字にした住吉区堺市南区は、維新案で定数が2から1に削減されるところであったとともに、実はこの泉北高速鉄道で維新を離れた議員がいるところなのである。彼らにとって、定数1で現職2人という状況で戦うのと、定数2で戦うのとどちらが望ましいかは言うまでもない。また、高石市泉大津市泉北郡と合区ということになって、定数2に維新議員が2人ということになり、両方とも当選することは極めておぼつかない。自民案も維新案も定数2から1に減らす堺市中区選出の議員にとってはどちらでもほとんどど変わらないとしても。(すみません、堺市中区はもともと定数1なので変わらないですね。コメントありがとうございます)
このように、偶然の要素も多分に含まれるとは思うが、大阪では次の府議選挙を見据えて、選挙区の区割りが政治的な有利・不利と密接に関わる状況になっているのである。選ばれる議員が自分たちの有利・不利を考えて選挙制度を設定することに問題を感じない、というのであれば良いのかもしれないが、このような制度は明らかに「民意」を歪める可能性が存在する。そもそも多数制的に代表を選出するか、比例制的に代表を選出するかという基本的な哲学がないままに数合わせで選挙制度をいじるというのがいかに問題か、ということを大阪の事例は示していると思われる。しかも、現在大阪府市の特別区設置協議会ではさんざん区割りについてもめているのに、「代表」を選出する選挙区では単純に人口に合わせて合区をしたり、衆議院選挙区単位で合区をしたりするという提案が簡単になされてしまうのもちょっと理解し難いところがある。やはり、「どのように民意を反映するか」という観点から地方の選挙制度を抜本的に見直す必要がある、ということではないだろうか。

*1:2011年5月定例会に原案可決された6号議案を参照。

*2:従来も議員一人当たりの人口が少ない区では合区ができたはずだが、20の政令市の中でそれをやっていたのは人口が少なすぎて強制合区になっていた堺市美原区と東区だけである。

*3:2月20日の会議録から推測すると、公選法改正にかかわらず維新としては泉南郡の飛び地を解消しようとしていたとのこと。

*4:ていうか文字通りインターネット録画を「見て」文字起こしをしたので間違えている可能性はあります。こんな資料は絶対公開すべきだと思うんですが、府議会事務局の方がもし見ることがあったら是非公開して下さい。

*5:大正区の人口が少ないため。西成区も人口が減っているが、前回選挙まで単独で定数2であり過大代表となっていた

*6:なお大東市と富田林市南河内郡は維新の提案では定数1なので、純減ではない。

*7:民主党公明党の違いは、最後の2議席を振り分けるかどうかというところで、公明党は振り分けて、民主党は定数削減ということになっている。