第72回会合(2009/1/27)

最近は久しぶりに国会図書館におこもりでデータの入力。やっぱりデータを打ってると,何となく仕事してる気になるのがいいなぁ。それに,データを入力しているだけで,何となくいろいろな傾向らしきものについての仮説を思いつく機会がある(ような気がする)ので,なかなかこれを人に頼むことができないわけで。時間資源を使えるときにしかできない贅沢なやり方なんだなぁ,ということなんでしょうが。
贅沢なやり方,といえばこの分権委の観察もそうですが,これもはや72回。2月は18日の予定も含めて結構バタバタと入っているようで,置いていかれないようにしなくては。で,この第72回ですが,前半は大田弘子政策研究大学院大学教授から,大田氏が座長を務めた「地方分権21世紀ビジョン懇談会」の議論についての報告と,小幡純子上智大学教授から,小幡氏が座長代理を務めた新地方分権構想検討委員会の議論についての報告がありました。後半では,事務局からこれまでの財政的な部分における地方分権の議論の経緯が報告され,それに関する委員間の討議が行われています。このブログでは,普段は議論されたことから順番に書いていくのですが,今回は後半に議論された歴史の部分を先に書いてから,前半の最近の議論を書いた方が整理しやすいので,そういうかたちでまとめてみようと思います。

分権改革の経緯(税財政)

事務局は,この資料をもとに,税財政関係の経緯をまとめてますが,これは結構わかりやすかった。簡単にまとめると,税財政の議論のスタートは,いわゆる一次分権改革のときの「第二次勧告」であり,国庫補助負担金の見直しを進めるという文脈の中で,補助金と負担金の区分を進めることで見直しが進められたといいます。その後第五次勧告では公共事業の財源問題が議論され,2000年に出た「意見」では補助金と負担金の区分立法を考えるべきであるとされていた,と。この部分は71回で,補助金と負担金を分けるべきだ,とする井伊委員の提案に対して西尾代理がこれまでの経緯からその区別を最後までやりきるのは難しいのではないか,と指摘したところに対応するようです。あとで井伊委員がこの「意見」のときの補助金と負担金の分類を示すように要請していますが,事務局のスタンスとしては,この「意見」は第一次分権委が「負担金として考えたもの」を取り上げるというもので…とやや消極的な感じ*1。まあ結局のところ負担金・補助金という切り口からはうまくいかなかったわけで,第一次分権委の最終報告(2001年)では,「未完の分権改革」における税財源の充実確保方策として,

先の第2次勧告以降の種々の状況の変化を踏まえ、第2次勧告のときとはアプローチの仕方を変え、今回は国庫補助負担金の廃止・削減という切り口からではなく、国と地方の税源配分のあり方の改革とこれに伴う国庫補助負担金・地方交付税のあり方の改革という切り口から地方税財源の充実確保方策について再検討

ということが書き込まれます。要するに,地方税源について提言であり,第一次分権委が取ってきた「補助金改革」というアプローチから,地方税の比率を高めるといういわば現在のアプローチに変わってきたということになります。
続いては,地方分権改革推進会議についてはほとんど触れられず,2002年に経済財政諮問会議で策定されたいわゆる骨太2002で「三位一体」というキーワードが含められたことから三位一体改革がスタートしたという話になり,(分権会議の議論を経て)骨太2003では「国庫補助負担金については,概ね4兆円程度を目途に廃止・縮減等の改革を行う」という方向性が明示された,と。これをベースに2004年度から制度改革(〜2006年度)が行われ,2003年度にはまず芽だしで1兆円の補助金改革が行われます。次いで骨太2004で3兆円の税源移譲の規模が明記されて,地方六団体に対して補助金見直しの改革案作成を依頼(2004年6月),大激論の結果総理に提出(2004年夏),11月には政府・与党合意,というのは割と印象に残っているところ。そしてその後もう一度「国と地方の協議の場」において地方団体と議論が進められて,郵政選挙後の2005年11月に政府・与党合意がまとまった,という経緯になっています。
三位一体改革後,次の段階の分権論議として重要になってくるのが,この会合でヒアリングが行われた,総務省に設置された地方分権21世紀ビジョン懇談会(2006年7月最終報告),それから六団体の地方分権推進本部に設置された新地方分権構想検討委員会(2006年11月最終報告)になります。ビジョン懇では新地方分権一括法への言及がなされ,実質的に現在の地方分権改革推進委員会ができるきっかけとなったとされていますし,新地方分権構想検討委員会でも,その中間報告で分権一括法について言及され,分権委の創設を後押しするひとつの要因になったと考えられます。というわけで,この二つの会議について検討することは,分権委のルーツを振り返るということでも結構重要な意味を持っている,ということになるわけです。

三位一体改革の評価

事務局による,これまでの経緯の説明を受けた委員間の討議では,三位一体改革をどのように評価するかというところに議論が集中していました。論点となったのは,交付税改革の評価,というところです。事務局の先の資料では三位一体改革の成果が次のようにまとめられていたのですが,

国庫補助負担金改革 約4.7兆円
税源移譲 約3兆円
地方交付税改革
地方交付税及び臨時財政対策債
約△5.1兆円

委員からは,補助金改革と税源移譲はペア(補助金のスリム化はあるが)だとして,交付税改革について補助金改革・税源移譲と関連があるように見えるのはどうか,という指摘がされていました*2。事務局の説明では,「骨太2003」における,交付税の財源保障機能については縮小していくという記述に基づいて,地方財政計画の歳出を意識的に縮小していくという方針が取られ,それをもって交付税の財源保障機能の縮小だという位置づけている,と。地方財政計画が縮小していくと,その歳出に見合って交付税が結果としてはじかれるが,そういうことで削減されていったのが2003年(交付税18.0,臨時財政対策債5.9,合計23.9)から2006年(交付税15.9,臨時財政対策債2.9,合計18.8)にかけて5.1兆円になるということで。委員からの意見としては,まずはこの時期には経済状況がよくて地方税の増収があったことを考えると,単純に交付税改革の結果とはいえないのではないか(井伊委員・露木委員),というものが。これは重要な点でしょうが,増収の中で地方財政計画の規模が大きくならず,かつ不交付団体の収入が増えて水準超経費が膨らんだ,ということを考えると,そもそも三位一体改革における交付税改革を「量」の問題に落としていいのかという問題を惹起するような気がします。ほかに出ていたのは,特に丹羽委員長から,交付税の「前借り」とも説明されていた臨時財政対策債の性格がよくわからん,と。これがよくわからないのはそのとおりで,まあ今後の議論のひとつの論点になるのかもしれません*3

「ビジョン懇」と「検討委員会」

というわけで話は前半に,まず地方分権21世紀ビジョン懇談会座長の大田弘子政策研究大学院大学教授ですが,ビジョン懇は三位一体改革の直後に分権改革がひと段落してしまい,その後進めるきっかけがなくなったときに「出口」の方を考えてみようということではじまったとのこと。竹中総務大臣(当時)ペーパーとして10年後の方向性が示され,それをもとに報告が組まれたということです。当時は夕張市の破綻問題が起きた直後だったこともあって,この自治体の財政破綻の問題を軸として議論が進められたということですが,各論の新分権一括法による自治事務の執行基準の条例化(=義務付け・枠付けの見直し),税源配分の見直し(3年程度をメドに国:地方=1:1),交付税改革(簡素化・不交付団体の増加),国庫補助負担金改革(地方の裁量拡大・直轄事業負担金の見直し)など,完全に今の分権委に繋がってくる論点が提示されています。若干の違いといえば,交付税改革のところでいわゆる「新型交付税」が強調されているのですが,最近はあんまりこの議論を聞かなくなったということでしょうか。
次いで報告されたのが,新地方分権構想検討委員会委員長代理の小幡純子・上智大学教授。税財政に関する部分は,この委員会の中間報告をベースに報告されていたようですが,そこでの提言は,「地方行財政会議」の設置,地方消費税の拡大,交付税の「共有税」化,補助金改革,国・地方を通じた歳出改革,財政再建団体基準の透明化,など。特に一番初めに地方行財政会議の問題が出ているところが目を引きます。これは三位一体改革補助金の補助率引き下げという,地方にとって好ましくない結果が生まれたことから,「国と地方の協議の場」では不十分で,国と地方の代表者が協議をする場を法律で設置すべきだ,ということで。ただまあ前に一度考えたことがあるのですが([研究][観察]地方行財政会議),どのように位置づけるかは実際かなり難しいでしょうし,西尾代理や小早川委員からのツッコミに対する応答を聞いている幹事では,この委員会でもあんまり細かくは詰めていないとのこと。
委員を含めた討議の中で問題になったのが,ひとつは地方消費税の話。「検討委員会」では消費税の地方の取り分を増やす,という話がありますが,普通に考えて問題になるのは,消費税率を上げて地方消費税を増やすのか,それとも消費税率をそのままで地方の取り分を増やすのか,という論点。既に交付税の原資として消費税(国分)の29%が使われていることもあるわけで。一方ビジョン懇の大田教授は,現在のように国の消費税が上がると自動的に地方の取り分も増える制度はよくないという独立税化の主張をしています。消費税導入で国では二つ内閣が潰れた,地方が増税するなら行政改革しろ,という圧力が必要である,ということで。
それから交付税の話として二つの論点が。まずはビジョン懇が強調する新型交付税だと格差が広がるのではないか,という指摘に対して,大田教授は現在の交付税では格差を是正するために基準財政を細かく決めて配っているが,人口当たりの歳入が等しくなるようなかたちが望ましいのではないか,と。ざっくりいうと,歳出を保障するという考え方よりも,(歳出するための)歳入を保障する,という観点から新型交付税が重要であるということを主張しています。なお,この新型交付税については「検討委員会」の方からは粗すぎるし配り方の決定に地方を入れるべきではないか,という指摘があるようです。あとは,「検討委員会」が提案する,交付税特別会計直接繰り入れ。会合後半でも論点になっているところがあるのですが,「検討委員会」は特別会計の借り入れや特例加算,臨時財政対策債などによる借り入れを基本的に止めて,交付税の原資は国税から繰り入れる法定率の引き上げで対応するべきだ,という議論を出しています。これに対して委員からは(地方の取り分を増やすという)消費税との関係はどうするのか,という論点や,法定率の引き上げは政治的に難しいのではないか,という指摘が。まあ本来的には,国が地方に義務付けている仕事の量との見合いで考えることができれば…と思うわけですが。
総じてそんなに両者がかけ離れたことを言っているという印象はありません。小幡教授によれば,どちらかというとビジョン懇が「競争」を重視するのに対して検討委員会では「助け合い」を重視するということでしたが,各地方自治体がどうしても置かれてしまう競争の条件をなるべく平等にしようとするビジョン懇の姿勢も重要だと思いますし,単に地方が国からしわ寄せを受ける存在ではいけないという検討委員会の姿勢も重要でしょう。これらの議論を見る限りでは,ある程度方向性は限定されていて,そのなかでどのように議論を組み立てていくかが問題,という感じはするのですが。

*1:残りはさしあたり「補助金として考えたもの」に,ということで,やや法定受託事務自治事務の区分に似ているのかもしれない。

*2:この辺りの経緯については,昨日紹介しました北村亘先生の『地方財政行政学的分析』の他,東京大学社会科学研究所編『「失われた10年」を超えて<2>小泉改革への時代』所収のご論考をどうぞ。

地方財政の行政学的分析 (大阪市立大学法学叢書)

地方財政の行政学的分析 (大阪市立大学法学叢書)

「失われた10年」を超えて〈2〉小泉改革への時代

「失われた10年」を超えて〈2〉小泉改革への時代

*3:前回会合で厳しい質問をしていたと思われる日経の磯道真記者が,2月12日付けの日経新聞の記事で臨財債が「交付税の先食い」になっているという記事を書いてました。ちょっと手元にないのですが,こちらもどうぞ。