選挙雑感

本日とうとう総選挙公示,ということで小選挙区比例代表制の立候補者が確定した。比例区では前回強気に出して実際かなり下位まで当選した自民党が今回ちょっと弱気な出し方をしていて,民主党がかなり強気に出している,具体的には小選挙区立候補者が全員復活当選した場合の準備が違うのが興味深い。もしこの名簿が事前の情勢で「無駄な候補者を出さない」方に振れるのだとしたら,やっぱり前回総選挙でも公示の前からある程度自民党の大勝利は分かってた,ということなのだろう。当時はあんまり選挙関係のウェブサイトとか見てなかったからわからなかったけど。
小選挙区のほうでは非常に面白い記事が時事通信から出ていた。

◎2割が地方政界出身者=人材源、縮まる自・民の差【09衆院選
衆院選候補者を出身経歴で見ると、首長や地方議会など地方政界出身者の比率が19.6%(前回25.4%)で最も多かった。次いで政党役職員12.4%(同22.4%)、国会議員秘書10.0%(同14.8%)、中央官僚7.5%(同8.5%)の順番だった。
自民党のベスト3は地方政界、国会議員秘書、中央官僚。この三分野で全体の63.8%を占め、民主党でも51.5%と半数を超えた。さらに、新人候補の内訳を見ると、自民党は43人中、地方政界10人、政党役職員9人、中央官僚8人となった。これに対し、民主党は164人中、地方政界43人、国会議員秘書20人、中央官僚13人で、人材供給源の面からは両党間に大差はなくなりつつある。
一方、民主党の労組役員出身者は6人で、前回に比べて半減した。同党の労組依存度は確実に下がり始めた。
公明党は全体の約3分の1、共産党は7割強が政党役職員。社民党は地方政界出身者が4割弱で最も多かった。また、国民新党は18人中4人が中央官僚の出身だった。

今度出る(予定の)本で書いた論文で調べたときには,自民党小選挙区部分における地方政界出身者は確実に減っている傾向があったし,この数字には違和感がない。ただ「政党役職員」「国会議員秘書」のカテゴリには世襲候補者と言うのがかなりいるはずだから,それをちょっと分けておかないと見えにくい。まあ世襲は地方議員出身とされている人の中にもいるだろうから難しいけど。しかし自民党は43人しか新規がいないっていうのはやっぱり窮屈だなぁ,と。一方の民主党は知らなかったけど地方政界出身者43人は多いなぁ。まあもちろん164人も出てるという新人自体がかなり多い,という違いはあるけど。民主党はこれまで地方組織が弱い,と言われていて,これまで個人的に色々データを見ている限りでもやっぱり弱い(というか党中央に集権的)傾向があるのかなぁ,と思っていたわけですが。ただ,実はこの43人というのは,必ずしもそのような印象と矛盾するわけではないと思う。というのは,ひょっとしたら民主党では地方議員→国会議員というステップがあるのかもしれない。あくまでも仮説ですが,地方組織が弱いからこそ,地方議員というのは国会議員への単なるステップとして位置づけられてる可能性だってあってもおかしくないんじゃないかなぁ,と思ったり。地方議員のキャリア,ってのを自民党の地方議員と比較しながら見れば分析できそうですが,ただ扱うデータがかなり多くて大変そう…でも今後まじめにやる可能性もありますので,興味を持った方はどうかご一報ください。
もうひとつ,候補者をぼんやり見ていると,やっぱり日本では地域政党ってないんだよなぁ,と思ってしまう。政党の規模が相対的に小さい国民新党みんなの党とか新党日本だって別に特定の地域に偏っているわけじゃないし,地域政党といえるのは北海道に根拠を置く新党大地くらいか。例の首長連合*1にしても,あくまでも「首長」の連合ということであって,必ずしも特定の地域の利益を訴える,というわけではない。でも他の国を見たら,特定の地域の利益を訴える政党っていうのがあって,それがその地域ではかなりの支持を受けて国政でキャスティングボートを握ったりするような立場につく場合だってあるわけで(典型的にはカナダのBlock Quebec)。地域政党があるとNational Constituencyという観点からは結構大きな阻害要因になるので,別に地域政党っていうのがあるべきだとは思わないけど,それがないというのは,最近は地方はやはり強くなっているとは思うけれども,やっぱり他の国と比べて地方分権の度合いが低いことを意味するっていう話なのかなぁ,と思わざるを得ないところはある。例えば九州地域の利益を国会で訴える,っていうのは日本では支持を得ることがないのかなぁ。もしないのだとするとなぜないのか,またこれからどうなるのか,というのは政治学が研究する議論としても(特に比較政治の観点から)興味深いテーマではないか,と思いつつ公示を見るのでありました。

*1:なぜかこのサイトはグーグル先生に聞いてもなかなか見当たらない…。