大阪市議・補選

週末の行政学会は一応無事に報告が終了。終わってみるともう少しいろいろとやりようがあると反省するところは多い。特に最近の制度論と医療保険制度というヤヤコシイ話を二ついっぺんに持ってきてるわけだから,行政学会での報告ということを念頭において事例である医療保険制度の説明をもう少し丹念にやって,理論は含意としてありうるという話にしておいた方がよかったかもしれない。詳しくはペーパーを見て欲しい,という対応もあったわけで。ただ一方で,制度を長期的な変化の過程として考えることやそのときの問題点などについては,面白がって頂いたというお話を聞くことができて,そのあたり僕の考える面白さのようなものをお伝えすることが出来ていたとしたらうれしい(いやもちろん慰めて頂いたということかもしれませんが)。
さて,この週末には大阪維新の会の「初陣」であるところの大阪市議補選(福島区)。結果については「圧勝」とか「大差」という表現が踊っていますが以下の通り。

大阪市議補選…橋下新党、初陣勝利 「大阪都構想」に弾み
大阪府橋下徹知事が代表を務める地域政党大阪維新の会」の初陣として注目を集めた大阪市福島区補選(欠員1)は23日投開票され、維新の会の新人で会社役員、広田和美氏(46)が、民主、自民、共産各党の候補ら新人4人を大差で破り、初当選した。組織力で劣る広田氏だったが、橋下知事が連日街頭に立って府市再編による「大阪都構想」の必要性などを訴え、支持を広げた。今後、大都市制度の見直し論議が加速するのは必至で、地域政党が全国で活発化する可能性も出てきた。
投票率は40・42%で、2007年統一地方選の前回(42・79%)を下回ったが、補選では2〜3割台の近年の水準を上回った。
参院選が迫る中、既存政党側は「前哨戦」と位置づけて国会議員を次々投入する異例の態勢で臨んだが、及ばず、既存政党に対する有権者の不信が表れた格好だ。これで同市議会(定数89)の維新の会市議は2人となり、来春の統一地方選で同会が目指す、府議会や大阪、堺両市議会などの過半数獲得に弾みをつけた。
選挙戦では、都構想の是非が争点になった。橋下知事は告示後、同構想を改革の象徴として、「改革を断行できない既存政党との戦い」と訴え、無党派層だけでなく、民主、自民支持層なども取り込んだ。
選挙中、橋下知事に対し、複数の首長から地域政党の相談があったといい、首長主導の地域政党が各地で誕生する機運もみられる。
当選確実の報を受け、橋下知事は滞在先の松山市内で「政党の看板に頼っていては有権者の支持を得られないことが、はっきりわかった」と述べた。
大阪市福島区補選確定得票
当8,491 広田 和美 諸新
 4,871 山田みのり 共新
 4,296 太田 晶也 自新
 3,325 国本 政雄 民新
   154 上畑 俊治 諸新

注目すべきは投票率で,40.72%になってます。前回よりやや低いと書いてますが,これは統一地方選と補選を比べているからであって,ふつうは補選の方が低く出ると考えられています。さらに,もともと定数2の選挙区でそのときと同じくらいの投票率なのに,今回は1人しか選ばないというもの(だから補選っていうのは無茶な制度だと…)。一方で,以前書いたように,2007年の統一地方選挙の結果を見ると,もともと自民党の現職が二人いるところに,自民・自民・民主・共産の4人が立候補して,1位共産党(6852票),2位自民党(6069票),3位民主党(4120票),4位自民党(3949票)となっているわけです。だから今回と同じくらい票をとれば,「大阪維新の会」は本番の市議選でもかなり大差でトップになる,という結果になります。
補選だし,自民党議員がひとり出ていないので単純な比較はできませんが,前回と比べて票を落としたのはどこかと見ると,共産党(6852-4871=1981),自民党(6069-4296=1773),民主党(4120-3325=795)。さっくりと自民党は2位の6069票をベースに使っていますが,今回の結果は前回の自民党全体(6069+3949=10018)どころか,ひとり分の6069票にも満たないものとなっています。地方における自民党議員は政党の「風」を当てにせず,独自に後援会組織を作って選挙すると考えられていますが,それにしても「自民党」としての票の目減りはひどくて,歩留まりは50%未満となっています。さらに,今回の場合は前回統一地方選挙で2位につけた現職議員が今回の自民党候補の父親というところから,ほぼ同じ支持組織を活動させていると考えられるわけですが,底から見ても2000票近く落として歩留まりは2/3程度。そう考えると,自民党から票が流れたように見えます。
票がどう動いているのか,というのはサーベイしたわけではないのでハッキリしたことは言えませんが,最近のいくつかの選挙における集計データと比べて,傾向について観察することはできると思います。そこで2009年の衆議院議員総選挙ですが,このときの福島区の結果(比例)を見ると,次のようになってます。

国民新党 自由民主党 民主党 新党日本 幸福実現党 みんなの党 社会民主党 改革クラブ 公明党 日本共産党
416 7,807 14,127 501 231 1,899 1,022 154 3,631 4,160

このときの投票率福島区で63.73だから,今回よりも大分高い。それを差し引いて考えるとしても,少なくとも共産党については総選挙で示されたほぼ基礎票と考えられる4000票以上をとってるわけですから,まあそんなに減った感じはしない。今回維新の会が候補を立てなければ,当初の期待通り議席を確保できたかもしれない水準だと考えられます。また,民主党については,もちろん総選挙と比べるとその目減りは非常に大きいわけですが,前回統一地方選挙から比べると票の減少は1000票未満であり,総選挙の時の「風」の分が全て流れた(そして若干逆風だった)といえなくもない。まあ実はこの「風」の10000がどう動くかで決まっちゃう,という話で,おそらく今回維新の会候補へと動いた主要なグループだと考えられるわけですが(あとは総選挙でみんなの党にいれたグループ?)。
それに対して自民党の場合は,前回選挙からの減少も,総選挙からの減少もともに大きく見える。重要だと思われるのは,前回統一地方選挙での自民党の2人の候補が力を合わせれば,当選に結びつくかどうかはわからなくてももっと競るような結果になったのではないかということ。ここはかなり重要な岐路かと考えられたわけですが,結局のところ自民党組織として一致団結して勝とうとしていたわけでは必ずしもなかったのかな,と。もちろんその背景には,これまで日常的に選挙区でライバルだった議員同士が急に協力することは難しい,ということがあるのでしょう。
もうひとつ,実はかなり微妙なのが公明党公明党はこの選挙区で候補を立てておらず,総選挙や他の選挙から判断するしかありませんが,2005年総選挙(4150)→2007年通常選挙(4115(白浜一良))→2009年総選挙(3631),とまあ3000後半から4000票程度の票を持ってる主要なアクターのはずですが,ここのところは少なくとも自民党のためには動かなかったということがよくわかります(この記事によると自主投票)。これは勘ぐりすぎなのかもしれませんが,公明党にとって「ひとつの大阪」が好ましくない政策であるとすれば,この「初陣」で他の政党と結んで大阪維新の会の初動を止めれば実は非常に大きかったのではないかと考えられるわけですが(自民党に4000乗れば勝ってるかもしれない),今回それはしなかったわけです。別に「ひとつの大阪」に賛成というわけではないにしても,知事と参議院選挙の関係というところなどもあるのかもしれません。
府知事・府議会・市長・市議会・参議院,と非常に複雑な関係になっていて集計データだけで読み解くのは困難ですが,現状ではこんな感じかな,と。今度参議院通常選挙のときにも補選(生野区)があるわけですが,当然ここにも維新の会は候補を立てるとしています。ここの選挙区は定数5の中で1人を選ぶわけですから,投票率が通常程度まで上がると福島区よりも激しい選挙戦になります。その中で,統一地方選挙では民主党は3000票程度しか取ってないにもかかわらず,2009年総選挙では22000票程度取る,というやはり風が吹く選挙区であるうえに,公明党が9000票程度持っているという特徴があると。自民党の議員の転出に伴う選挙ということで自民党は負けるわけにはいかないし,ここで負けるとドミノ倒しになる可能性もあるわけですが,実は参議院の方の選挙とのCoattail効果(→無党派=「風」の動員)も考えられるわけで,非常に重要な選挙になるようです。