市長の政党

話題としては少し前のことになるが,新しい「首長グループ」の話。

三重選挙区で候補者擁立目指す 山中松阪市長ら準備会合
【東京】山中光茂松阪市長らが発起人となり、子ども手当などに異論を唱える首長グループ「現場から国を変える首長の会」が一日夜、東京都千代田区平河町の都市センターホテルで、発足に向けた準備会合を開いた。終了後の記者会見で、山中市長は参院選に向けて「三重で第三の勢力として選択肢を増やしたい」とし、三重選挙区で独自の候補者の擁立を目指す考えを示した。同会は十六日に東京都内で正式に発足会を開く。
発起人はほかに栃木県足利市の大豆生田(おおまみうだ)実市長、神奈川県大和市の大木哲市長の三人。子ども手当に対する国のあり方に異論を唱えたのをきっかけに、現場感覚を持ち合わせた首長らで既存の政党や政治勢力とは一線を画したグループをつくろうと結成を決めた。(後略)

日本創新党とは別に,複数の市長が新しいグループを作ろうとしたもの。昨年地方分権改革推進委員会に関して出現した「首長連合」ともがらりと異なるメンバーが集まったという報道がなされている。「地元の代表を国政へ」という動きは興味深いものの,なぜ東京で記者会見をするかというところについては少しわかりにくいところがある。この話については少しTwitterで山田真裕先生とやりとりしたところだが,マスコミに流してもらって全国的なムーブメントを起こすというのはひとつの狙いかもしれない。しかし,このグループで統一的にやりたいことというのは現政権批判以外にいまいちかたちが見えない。政党支持についても市長によって温度差があるようで,

政党支持については、大豆生田市長は「今のところ全く白紙。等距離で臨む」と強調。参院選に向けて、特定の政党や候補者の支援についても「今後の検討課題だが今は白紙」とし、「選挙のための政党でなく、現場の声を伝えるための会だ」と語った。
一方、山中市長は「三重の選挙区には民主、自民、共産の候補者がいるが決して市民からの選択肢として適切でなく、覚悟ある候補者がいない」と述べ、「今回の参院選は既存の政党の枠組みや既得権をいったん壊して変わる必要がある」と強調。「三重で第三の勢力として、何らかの形で候補者の選定に行動を起こしていきたい」と述べ、独自候補者の擁立を目指したい考えを示した。

というところ。よくわからないのだが,特に山中市長のコメントのように地元の声を適切に反映する代表を送り込む,という話になると,全国的な行動が地元の支持に繋がってくるのだろうか。「地方の問題が地方で完結しないので国政に対する影響力を確保したいということなのではないか」ということはもちろんあるし,Scheinerさんが分析していたように,地方のことを中央の強い影響力のもとで決めるからこそ自民党の一党優位が続いてきたとは思うが,現状を考えると,「国政に対する影響力」を確保しようとすれば,むしろ国会(特にPivotal voterの無類の強さが際立つ参議院)で一議席を奪うこと自体がその影響力の源泉になるわけで,むしろドブ板でもなんでもとにかく地元に密着して勝利する方が優先されるはず。結局,東京で空中戦をすることがどのくらい地元の票につながると考えてるかによるんだろう,という話かと思う。地元の有権者も,「将来東京で出世していく」かどうかを基準に票を投じていくとすれば,意味もあるのだろうと。
しかしこの動きには別の角度からの見方も可能。つまり,単に「地元の代表を国政へ」という話ではなく,むしろ(地方で弱い)国政政党が地方にウイングを伸ばし,地方の側も伸びつつある国政政党に乗ってるという話ではないかと。それは具体的には最近このブログでもよく出てくる「みんなの党」。政党支持について「白紙」と述べた足利市の大豆入田市長は当然栃木ということもあるし,松阪市の山中市長についてもある程度みんなの党に近いらしい,ということを書いてるのは朝日新聞栃木版のこの記事。

足利など3市長、政策提言グループ結成へ(4月28日)
足利市大豆生田実市長は27日、三重県松阪市山中光茂市長、神奈川県大和市の大木哲市長とともに政策提言グループを結成する考えを表明した。今夏の参院選をにらみ、改革案などを各政党に提言し、マニフェスト政権公約)に反映してもらうのが狙いだ。発足時には全国の10以上の市町から首長が参加する予定という。大豆生田、山中両氏はみんなの党代表の渡辺喜美衆院議員(栃木3区選出)と関係が深く、同党との連携の可能性を指摘する見方が出ている。
グループは、仮称「覚悟ある首長の会」とし、3市長が発起人代表となる。初会合は来月1日、東京都内のホテルで開かれる。大豆生田市長によると、県内からはもう一人の首長が参加予定で、埼玉、群馬、千葉、長野、兵庫などの各県からも1〜2人ほどずつ首長が参加する見通しという。
3人の発起人代表の連名による文書では、鳩山政権について「労働組合などのしがらみにより公務員制度改革など抜本的な改革が進んでいない」と批判。公務員制度改革は、みんなの党が掲げる最重要政策だ。自民党に対して「チェック機能を全く果たせていない」と厳しい見方を示す一方、山田宏・東京都杉並区長ら首長や首長経験者らを中心に結成した日本創新党など最近相次いで発足した新党も「現場の首長の思いからは離れている」と指摘する。
大豆生田市長によると、グループは政策提言について参院選前に各政党にマニフェストへの反映を求め、その回答の公表も考えているという。各党の対応や参加首長の考え方次第では「グループとして参院選で特定政党を支援する可能性もある」と話した。
このグループについて、みんなの党関係者は「渡辺代表が選挙で応援するなど、もともと連携していた人たち。党の政策を応援してくれるだろうし、こちらも役に立てるだろう」と、連携の可能性をにおわせる。ある自民県議は、発起人代表の名前を聞いたとたんに「ああ、それはみんなの党系だってことだね」との見方を示した。
みんなの党は、自民を離党した渡辺氏が中心となり昨年8月に結成。鳩山内閣の支持率低下に歯止めがかからず、自民への支持も伸び悩む中で「第三極」として存在感を増しており、朝日新聞の最近の世論調査では参院選の投票先として民主、自民に次ぐ3位につけている。
各地域で大きな影響力を持つ首長たちとの連携が広がれば、参院選の結果や選挙後の政局にも大きな影響を与える可能性がある。

従来の政党の全国化の議論では,どちらかというと,地方で発生していた政党が共通の政策テーマを軸に合従連衡していくことによって全国化を果たしていくというモデルで議論されていて,最近取り上げるように,大阪府橋下知事の試みはわりとそのモデルに近い処があると思われる。しかし今回の話しについては,みんなの党が政権に近づきそうだという期待のもとに集まっていく,ということだとすれば,単純には集権的な日本の意思決定システムのもとで地方議員が政党移動するという議論がよりヴィヴィッドに出現しているということかもしれない*1。また,テレビによく出演して支持をよびかけるみんなの党が支持拡大の期待を呼び起こし,それが地方にも波及するということであるならば,メディアの全国化でテレポリティクスが重要になるなかで,(全国レベルの)政党システムが揺らぐ,という議論*2が地方にどのように絡んでくるかも考える必要があるかもしれない。

*1:Desopsato, Scott and Ethan Scheiner[2008]"Governmental Centralization and Party Affiliation: Legislator Strategies in Brazil and Japan,"APSR 102:509-524.まあただ興味深いのは,ここで動いているのは彼らが議論した地方議員ではなく地方の首長だというところなのだが

*2:Mainwaring, Scott and Edurne Zoco[2007]"Political Sequences and the Stabilization of Interparty Competition," Party Politics 13(2):155-178.