参院選・大阪市議補選

参院選は与党敗北。投票率は雨もあったのか,最終的にはそれほど伸びなかった気がする。結果については参議院特有の歪な選挙制度があまりにも効きすぎたということだろう。この点については,菅原さんが議論されている通り,「「一票の格差」がもたらす選挙結果の「歪み」は、小選挙区中選挙区の混合と都市―農村軸の交差がもたらす歪みに比較すれば、微々たるものに過ぎ」ないということだと思われる。まあ「一票の格差」をいろいろ言う人は,選挙制度っていうのは「一票の格差」に付随する問題だとか言いそうな感じがするけど*1,個人的には我々の代表を選ぶ選挙制度それ自体が重要であって,例えば「都道府県から2名ずつ代表を出す」ことが重要だと考えるのであれば,「一票の格差」の方がマイナーな問題になるのではないかと考えている。なお選挙制度というのは,勝者総取りにするか,政党の比例代表にするか,定数をどのように割り当てるか,という問題であって,区割りの議論とは別。区割りについてはゲリマンダリングの問題もありうるし,以前に書いたような地方制度との関係もありうるのでこれはこれで別に議論したほうがよいのではないかと思われるが。
まあ参院選については上記の菅原さんの議論をはじめとして,ネット上でも様々な論説が読める。かなり唸らされる論説も多いわけで,研究者的にはしんどいけど,なんとも便利な世の中になったもんだ,と。
そういうところでとびきり独創的なネタがあるわけでもないので,ここでは参院選を以前から追っかけてる大阪の地方政治と関連させてみたい。関連といえば,今回の選挙においては,大阪市でも生野区市議の補選が行われた。これは,生野区市議前職(自民党)が参院選比例区)に出馬したために欠員となり,それを埋めるために行われた選挙ということになる。経緯については多少こちらに書いているが,自民党の前職がいたわけだから,自民党が後継候補を立てると思いきや,自民党は後継候補を立てずに,民主党・維新の会・共産党(届け出順)の争いとなっていた。
以前Twitterでも書いていたことだが,個人的に注目したのは,生野区の補選で維新の会推薦候補の名前を書く有権者が,同日の参院選で何と書いているか,というところ。これは国政から見ることもできるし,地方政治から見ることもできると考えられる。まず国政の方を重視してみると,(1)国政における選択で「民主党」と書いた人は,補選でも民主系の候補と書く可能性が高いのではないか,と考えられる。対して国政で自民党と書いた人については,補選で自民が出ていないわけだから,どう書くかはすぐにはわからない。(2)国政における民主党の対立を重視して,地方でも民主党が弱いことを願うひとであれば維新の会の候補者と書くだろうし,他方で(3)地方政治における自民党と維新の会の関係を重視していれば,維新の会が伸びるのを嫌って民主党の候補者と書くかもしれない。
逆に地方政治から見るとどうなるか,(4)補選で民主党候補者と書いた人は,たぶん参院選でも「民主党」と書くのではないか。一方維新の会の候補者を書いた人はどうするか,ここはいまいち分からないが,(5)地方政治で民主党と維新の会の対立軸を意識して維新の会候補者と書いていたら,参院選民主党以外の政党に入れることになる。このように地方政治を考慮すると,自民が生野区補選で候補を立てなかったのは,参院選に向けて一定の合理性がある。つまり,地方政治で維新の会との対立を全面に出して,自民党でも維新の会でもない民主党を選ばれても(→(4)),参院選自民党以外の政党を志向されても(→(5)),いずれにしても困るわけで,補選で対立候補を出さないことで,維新の会を選ぶ人たちが国政で自民党を選ぶ余地を広げるという戦略になる。
しかし,有権者が国政と地方政治のどっちを重視するか,もう少し言えば,(4)(5)という地方政治のロジックがどの程度出てくるのかよくわからないところがあるし,当然ながら選挙をやってみないと国政において自民党民主党がどのような得票をするか,そして地方政治で維新の会−民主党がどのように得票するかはわからないわけで。とはいえ,この関係は今後の国政と地方政治の関係を考えるうえで,非常に興味深いケースであると思われる。というのは,今回は参院選(特に大阪選挙区の自民党候補者)について,大阪市自民党会派と維新の会が共同歩調を取っていたために,地方で維新の会の候補者と書いた人が,そのまま参院選自民党に投票する可能性がありえたから。
このような見方をしていた中で,個人的に焦点と考えていたのは,まず生野区投票率。つまり,維新の会候補が出る選挙ということで,参議院選挙よりも多くの有権者に対して訴えかけて,投票率を上げるのではないかということ。5月に行われた福島区の補選では,だいたい2割くらいしか投票率が出てこない補欠選挙において,40%超という投票率が出たのが記憶に新しい。それを考えると橋下知事−維新の会は従来選挙にこなかった層を引きつけることになったのではないかと。しかし,次の図表に示されるように今回の選挙結果を見る限りでは,補選のあった生野区で特に得票が伸びているという結果はないように見える。前回よりもほんの少し伸びてはいるものの,やはり基本的には国政に参加するような有権者が地方政治においても選挙に行くことになっているのではないかという印象。もう少し言えば,(もちろん正確に識別することは難しいですが)地方政治のために選挙に行って,ついでに参院選でも投票しようという有権者はほとんどいなかったのではないかと考えられる。
選挙結果については,維新の会が推した候補が24490票で,民主党が推した候補・共産党が推した候補がそれぞれ13168票・8389票ということなので,ほぼダブルスコアになっています。この結果を見て,5月の市議補選(福島区選挙区)に続く大差での勝利で、勢いが増しそうだとする新聞紙上の分析もあるわけですが,実際のところどうなのか。以下,最近の選挙結果と比較しつつ比べてみる。
次の図表は,2003年の統一地方選挙辺りから,生野区において選挙に参加している主要な政党である,自民党民主党公明党共産党,それに今回のみんなの党大阪維新の会がどの程度得票することができたかをプロットした図になっています(なお,右軸に投票の合計を取っていて,これは左軸の1/2のスケールで取っているので,グラフ上で「合計」を上回る得票があるように見える状態は,相対得票率が50%以上であること意味している)。このグラフを眺めていると,これまでの傾向としてわかることがいくつかある。それは,(1)投票者数は衆院選参院選→地方選の順に高い,特に2005・2009の衆院選が顕著,(2)公明党共産党はどの選挙でも一定の得票をしている,(3)衆院選の自民得票において,選挙区と比例区の違いが顕著,(4)民主党は2007年の統一地方選挙(全体としては民主党が相当健闘した選挙)でも国政と比べて極端に票が取れてない*2,といったところ。
これらの傾向について,特に地方選挙との関連を考えながらもう少し詳しくみていくと,まず(1)についてみると,統一地方選挙はやや投票率が低いものの,それでも生野区では50%程度になってます。(2)では,安定した得票をしている両党は,市議選挙において公明党が2003/2007年ともに候補者1人,共産党がそれぞれ2人をだしている(自民はそれぞれ3人)。そのため公明党はトップ当選で,共産党は二人目の候補者が次点,という結果が続いている,(3)については地方選挙で競争している自民党公明党衆院選選挙協力をしている結果,衆院の選挙区では(参院の選挙区は公明党も候補者を出している)自民党が普段よりかなり大きく得票を伸ばすことができていると考えられる。
問題は(4)で,民主党は国政選挙ではかなりの獲得票数があるものの,2007年の統一地方選挙では3000票ちょっとにとどまり,ひとりだけだした候補者も当選させることができていない。公明党共産党の得票がほぼ変わってないことを考えると,(a)国政で民主党といれていた有権者が一部自民党候補に入れた(自民党は前後の参院選よりも獲得票数が増えていて,候補者3人で2005年の大勝した郵政選挙のときの比例区と同じくらい票をとっている),(b)国政で民主党に入れていた有権者の票が(図表には表記されていないが)無所属候補者に一部流れている,(c)国政で民主党にいれていた有権者が地方選挙に行ってない,という可能性がそれぞれ考えられる。なお,(b)についてもう少し補足しておくと,2007年統一地方選挙では,3人の無所属候補が出馬し,それぞれ2000票台前半の得票をしている。このうちひとりが今回の補選での民主党候補であることを考えると,無所属候補と民主党候補が票を食い合っているとうところは無きにしも非ずという評価ができるかもしれない。
以上の材料から,今回の生野区補選の結果について考えてみるとなかなか興味深い。最も興味深いのは,民主党の候補が生野区の補選において,参院選挙区・比例区とほぼ同等の得票をしているところだろう。念のため言えば,選挙区というのは尾立候補と岡部候補の票を足したものとなっている。これはあくまでも集計データであって,個人の選択についてはわからないから正確なことは言えないが,国政で民主党と書いた人は基本的に補選でも民主党と書いているということではないか。僕自身の予測としては,福島区の結果を見るに,大阪維新の会が「国政で民主党と書いた有権者」も補選で引っ張ってくるということを考えていたのだが,現実には補選で維新の会の候補者と書いた有権者は,基本的に国政で自民・公明の両党に投票した有権者と重なると考えられる。もう少し言えば,仮に維新の会が参院選民主党と書いた人を引っ張ってきていたとしても,それは国政において自民党公明党という民主党と対立する政党に投票した人たちと同じくらいの規模であることを意味している。民主党からそこまで票が流れなかったのはなぜか分からないが,与党効果というのもあるかもしれない。
一方で,維新の会が国政における投票行動に影響を与えていると言えるか。これも集計データから議論するのは難しいところだが,その影響は限定的だと考えられる。補選と同時に投票したから,自民党・維新の会がともに推している北川候補が余分に票を取っているかというと,他の選挙区と得票率を比較した次の図表(選挙区)が示すように,それほど大きな効果はなさそう。一方で,比例区でどの政党に投票しているかを見ると,生野区自民党は頑張っているように見える。しかしこれは,実は生野区選出の元市議参院選に出た候補者の個人名が半分ほど入ってるので,維新の会の効果なのかどうか,はっきりと言えない状態になっている。なお,本論とはやや外れるが,比例区の得票を見ると,生野区を含めた一部の区を除けば,民主・自民・みんなの得票が微妙に連動している傾向が出ているのが(大阪特有かもしれないが)非常に興味深い。
以上をまとめると,今回の選挙では,維新の会がダブルスコアで大勝した,という毎日の記事のような話はしばしば聞くし,そういう印象を受けるものの,実態としては維新の会は「意外と勝たなかった」ような気がする*3。もちろん,自民党の支持者が補選においてアンチ維新の会で民主党候補に相当の票を入れて,一方で国政で民主党と書いた人が維新の会に相当流れた,というのが考えられないわけじゃないけど,結局国政の対立がある中で,従来からの自民党支持者は維新の会に投票したんじゃないかなぁ,と。だとすると,今回の維新の会の得票は,地方政治で対立してる自民党(の一部)・公明党からの得票も入ってるわけで,これをそのまま維新の会の得票とは考えにくいんじゃないか,ってことで「意外と勝たなかった」きがするところ。
そして,この結果を踏まえると,次の統一地方選挙については改めていろいろ考えるところが多くて難しい。特に過半数を狙う維新の会にとっては,生野区のように規模の大きい選挙区でどのように戦うかが問題になるが*4,(1)共産党が2人目の候補を出すか,(2)国政で民主党と書いた有権者がどのくらい選挙に行くか(そしてどのくらい民主党って書くか),という外部の要因がかなり重要になる。仮に,生野区のような5人区で,自公民共が候補者をひとりずつに絞るとすれば,維新の会が2人目を当選させるのは相当難しくなるわけで。その辺は,他の政党もみんなわかってるわけだから,実は今後の焦点は選挙そのものよりも,選挙の前後で維新の会が自民党そして公明党とどのような関係を築くか,というところにあると思われる。まあもちろん,今回の結果で「維新の会が圧倒的に支持されてるんだ」というキャンペーン(典型的には議員定数半減とか)はあるだろうから,それがどのくらい成功するか,というのも重要な要素だと思われるが。

*1:有名どころだと,小飼弾氏Chikirin氏。Chikirin氏の方は,「一票が軽い」選挙区であれば議席あたりの有権者の数が多くなるわけだから,「一票が重い」選挙区の当選者より獲得票数が多い候補者が出るのは自明で,候補者並べてもひどいねぇ,って煽る以上の情報はない。じゃあ単純に「一票が軽い」選挙区で定数増やせばいいのか,っていう話で,その議論の問題点については菅原さんが議論している。

*2:なおこの時の票は3124票で第6位(次点),第5位は3218票の自民党(現維新の会)候補。

*3:橋下知事が市長に出るって話がこのタイミングで流れたり,政治資金パーティーの話が出たりするのは,ある種の危機感の現れだと思うところだが,どうだろうか。

*4:あと,実は3人区ってのも難しい問題をはらんでいることに最近気がついた。