連立野党

別に選挙期間中で自粛してたわけじゃないんですが,やっぱり直近でやらないといけないことが増えるとブログもTwitterも難しくなってしまう。で,参院選ですが,新聞では世論調査をもとに終盤情勢を出しているようです。全部を細かく見たわけではありませんが,朝日日経を眺めている限りでは,民主党が伸び悩んでみんなの党が伸びそう,という感じ。要するに総理大臣の交代前とあんまり変わらないじゃないか,っていうような状態かと。
ただ,たぶんそのときとちょっと違うのが,「一人区における自民党の健闘」が強調されるようになっているということ。一人区を固めている地域は民主党よりも多くなっていて,朝日新聞によればこれは上向きになっているということ。しかし新聞の分析ではこの原因はよくわからない。消費税増税を言い出したことが原因,という議論もあるようだけれども,それを言い出すと,自民党だって消費税増税を言ってるわけで,なぜ自民党ならよくて民主党はダメかという説明にはならないかと思われる。
他の議論としては,自民党が旧来の支持基盤である農村部で支持を戻してきている,というのがありうる。菅原さんが『世論の曲解』で否定していた話で,2009年の自民党は大敗したけど農村部では健闘したんだ,そしてそれが一人区で生きてるんだ,という議論。しかしこれにもやっぱり違和感がある。それこそ菅原さんも書いてたけど,参院選挙の一人区は別に全域が農村部っていうわけじゃなくて,県庁所在地なんかは都市的なわけで。
やはりひとつには菅原さんも指摘していたような,選挙協力の問題が大きいのだろう。今回,地方で一定の影響力を持つと考えられる社民党が喧嘩別れのようなかたちで連立を離脱したわけで,特に重要な社会党系の労組がそれほど民主党を支援していないのかもしれない。それに加えて,地方政治の研究者として興味深いのは,自民党の方で選挙協力が進んでいるのではないかということ。具体的には公明党とのいわゆる「連立野党」というやつ。

選挙:参院選 33選挙区、自公協力 来年統一選、地方議員と「取引」も毎日新聞
自公政権時代、「選挙区は自民、比例代表は公明」と互いの支持者に呼びかけてきた両党の選挙協力。野党転落に伴い公式には解消したが、今回の参院選では全体の7割の計33選挙区で地域レベルの協力関係が続いていることが毎日新聞の取材で分かった。改選数1の1人区を中心に民主、自民が激戦を繰り広げていることが自公協力に拍車をかけているとみられる。ただ、公明党側には「見返りが少ない」との不満もくすぶり、来年4月の統一地方選での協力を約束して比例票の「バーター」を求めるケースも出始めた。
公明党山口那津男代表は参院選前に「党対党の選挙協力は考えていない」と明言し、自民候補の推薦を見送った。だが、地域レベルでの協力は容認し、各地で「友党関係」は続いている。特に、29ある1人区では23選挙区で協力が成立。毎日新聞の中盤情勢調査によると、そのうち12選挙区で自民候補が優勢、4選挙区で民主候補(推薦も含む)と接戦になっている。(以下略)

自公、野党になっても選挙協力=統一地方選見据え−参院選時事通信
自民、公明両党の選挙協力が今回の参院選でも続いている。10年間に及んだ自公連立時代に培った緊密な関係に加え、「反民主」の姿勢で足並みがそろったことが大きい。来春の統一地方選での協力も視野に入れているが、公明党からは「見返りの少なさ」に不満も出ている。
「政党対政党で選挙協力はやらない。しかし、地域ごとに積み重ねた人間関係があり、参院選での党勢拡大のためには最大限生かすということだ」。公明党山口那津男代表は8日、京都府宇治市内で記者団に、自民党候補と個別に選挙協力を進める考えを示した。
昨年夏の野党転落後、公明党自民党との選挙協力を白紙に戻し、昨年10月の参院神奈川、静岡両補選では同党候補への推薦・支持を見送り、自主投票とした。しかし、鳩山前内閣の支持率下落を受け、各選挙区での自公の「信頼関係」を尊重する方向に転換した。
協力の仕方は、公明党が「1人区」を中心とする選挙区で自民党候補を支援し、その代わりに自民党が「比例は公明に」と支持者に呼び掛ける「バーター方式」。東北や四国、九州地方などで、自民候補の後援会と公明比例候補の陣営が政策協定を結ぶ形で行っている。(以下略)

こういうことができるのは,もちろん長年にわたって自民党公明党が連立与党として選挙協力をしてきたから,というのが重要なわけですが,さらに地方政治の場において(こちらはさらに長く)両党は「共闘」してきてるわけです。地方選挙はその選挙制度から,自民党の候補と公明党の候補が激しく争うところもありますが,公明党が候補者を立てる選挙区はある程度限られているので,候補者を立てていない選挙区において(当然そういう選挙区は定数が小さい,具体的には3以下が多い),地方選挙における自民党候補は公明党と協力する動機づけはあると考えられます。
じゃあ公明党にはメリットがあるのか。まず重要なのは参院選比例区でのメリット。今回の選挙で公明党は苦戦が予想されているわけですが,選挙区で自民党の候補を支援する代わりに,比例区公明党に入れてもらって議席獲得を狙うという戦略。公明党はこちらのメリットを志向するために,時事通信が描いているように,「自民党の比例候補が地盤としている長野・山梨などの選挙区では,公明党の比例候補に票が回せないため,協力関係は成立しな」いということになります。実際に,終盤情勢を見ても自民党は一人区を中心に選挙区で堅調なわりに,比例区の支持が伸びていないという状況になっていて,これは比例区公明党と書く有権者が選挙区で自民党と書くことを想起させます。
しかしそれだけではないんじゃないかな,と。近年の地方での政策実現を重視する公明党としては,自民党が強い都道府県議会で自民党との関係が悪化するのは避けなければならないわけで,国政レベルでの民自対決が地方の選挙区で繰り広げられるとき,どうしても地方議会で優勢である自民党の側につかざるを得ないんじゃないかな,と*1。(なかなか考えにくいですが)仮に民主党公明党に対して比例のバーターを持ちかけたとしても,公明党の側としては,それによって地方レベルで決定的に自民党と対立するのは躊躇するのではないかと予想されます。そのために,「連立野党」はしばらく続き得るのではないかと考えているのですが,どうなるでしょうか。まずは今回の参院選の成果?を見てみないといけないところかと思いますが。

世論の曲解 なぜ自民党は大敗したのか (光文社新書)

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*1:地方における公明党の話については,『変貌する日本政治』の島田先生の論文をご参照ください。