堺市長選挙

何というかこれは非常に鮮やかな結果。巷間よく言われている通り,自民党にはうんざりだけど民主党に期待しているわけではない,という気分がよく出た結果になっているのではないか。最近の首長選挙でこれと似たような結果が出たのは若い市議が現職の相乗り市長を破った横須賀市長選挙,ということになるが,今回の候補者は大阪府で長く経験を積んだ方ということなので,必ずしも「若さ」が要因になっているわけではない*1。現職市長は敗戦の弁で,「知事という権力の座にありながら、全く理不尽。理解の出来ない選挙になった」 橋下知事に対する恨み節を語ったというが,客観的に見れば知事が自分の考える政策を進めようとするときに,府下の政令市の首長に対して一定の影響力を確保できる方が好ましいのは当然で,別に理不尽ではないだろう。それを言うなら,「府職員を首長候補にするという手法が問題である」という主張の正当性を市民に訴えて,いわば「地元」の正統性を再定義するべきだと思うが,実際そういった選挙戦術で戦って負けたわけだから,結局有権者の理解を得ることができない選挙戦術だったということなのではないか。
そしてやはり注目すべきは投票率。今回は前回よりも11%程度も投票率が上がったということが報告されている。なかなか興味深いのは前回の選挙との比較。
(前回選挙)

候補者 票数
木原 敬介 89,741票
長谷堂いく子 59,146票
森山 浩行 55,028票
山口 道義 8,280票

(今回選挙)

候補者 票数
竹山 修身 136,212票
木原 敬介 89,006票
小林 宏至 48,631票
井関 貴史 18,537票

ということで,現職の票については実はほとんど変わっていない。当選した竹山氏は,以前に堺市と合併した美原町の助役を務めた経験があるということなので,もちろん一定の基礎票を持っていたとは考えられるものの,今回の勝利,とりわけその圧勝については投票率の変化ということが極めて大きい。その多くが知事に拠るところであるとすれば,さしあたり府下の他の首長はこういう「刺客」を恐れることになるし,橋下知事が主張するような「首長連合」にもつながるかもしれない。また,5〜6万票動いたことを考えると,府下の国会議員だって厳しい。堺市は大阪16区と17区に分かれてて,今回の総選挙でも2万票あれば逆転できるところは多いことを考えると,国会議員にとってもcasting voteを握られてしまうような感覚はあるのではないか。これらを考慮すると,橋下知事が現状の支持を維持することができれば,大阪にある種の地域政党を作りだすこともそれほど難しくはないように思える(そうすると今度は「独裁者」批判が大変だろうが)。
一方,別に知事に限らなくても,投票率を上げてその大部分を取る,つまり今回の総選挙で民主党がやったのと同じことが起きれば勝つという話になる。そう考えると民主党の今回の対応はなかなか不可解に見えるところ。民主党としては相乗りを離脱して,国政レベルでやったように「風」を起こすことはできたのではないか,と考えることもできます。しかもお気づきの方もいるように,前回現職に挑戦して敗れた候補者の中に,今回の総選挙・大阪16区で公明党の北川一雄候補を破った森山浩行議員もいるわけで(前回選挙でも民主党は相乗りで木原氏支持でしたが)。
それがなかった大きな要因としては,市議会の構成があると推測できます。堺市議会は,自民・民主・公明・共産がほぼ拮抗する構成になっていて(第一党は公明),相乗りに参加している自民・民主・公明としては相乗りから外れて冷や飯というのは嫌だし,逆に単独推薦で勝っても議会運営が困難になる,という問題が出てきます。つまり,単純に国政レベルの自公−民主の対立軸ではうまくいかないから相乗りね,と。こういう行動に対する評価はなかなか難しいところではないかと。国政で対立しているのに地方政治で相乗りするのは馴れ合いで好ましくない,というのが一般的な評価(特に民主党に対して)であるように感じますが,一方でこれは民主党が地方政治に根付きはじめている証拠であるような気もします。だって,地方議会で民主党が全然議席取れてなかったら,どうせ相乗りに加わっても意味ないし,ということで国政での「風」を生かして単独政権にチャレンジ,というのは十分にあり得ることだと思われるので。

*1:より若い無所属の候補が出ているが,結局支持を集めることはできなかった。