橋下知事・世論調査

1月21日〜23日の期間で,橋下知事についての大阪での世論調査毎日新聞と読売新聞が行っている。毎日の方にはコメントをさせて頂いたのですが(一応宣伝),その補足も含めて両調査について簡単に見ておきたいと思います。
まず,毎日の調査について。これは見出しでも「橋下・大阪府知事:支持8ポイント減62% 維新の会には32%−−毎日新聞世論調査」となっていて,何となく支持率が低下している感じを強調しているのではないかと。紙面の方を見ると,「「維新」には3割止まり」というまあ否定的なニュアンスの小見出しが載っていることもあって,まあ前回の70%の支持率よりは低いよね,という感じ。
それに対して読売の調査。こちらの見出しは,「橋下知事支持77%、依然高い人気…読売調査」となっていて,どちらかといえば高い人気が維持されていることを強調する感じ。このような違いは,紙面の構成にも反映されていて,毎日の社会面では,「かみ合わぬ橋下人気 低支持の「維新」「都構想」」という見出しになっているのに対して,読売の関西面では「「大阪都」半数以上が賛成 支持政党問わず浸透」となっています。
この違いがどの辺りからくるのか,ということになるわけですが,まず支持率については聞き方の違いがあるように思われるわけです。当初は,読売については「どちらかと言えば支持」とかが含まれているのではないか,と思ってTwitterでもそう書いてしまったところですが,実際のところは違います。具体的には,毎日新聞の方では,

橋下知事を支持しますか,しませんか。
 支持する62%(前回の昨年1月70%)
 支持しない10%(同8%)
 どちらとも言えない29%(同22%)

それに対して読売新聞の方では,

・あなたは橋下知事を支持しますか,支持しませんか。
 支持する77%(同83%)
 支持しない13%(同11%)
 その他6%(同3%)
 答えない4%(同3%)

という結果。質問紙そのものを見せてもらったわけではないので正確なことは言えませんが,毎日の方ははじめから3択であるのに対して,読売の方は2択なのではないか,という感じかなと。聞き方で「どちらとも言えない」という項目を用意するのと,「その他」を用意するのはちょっと違うような気もするが。ていうか「その他」ですか?っていう聞き方をするのだろうか。まあよく言われることではあるが,「どちらとも言えない」という選択肢を用意するのとしないのでは,かなり結果が変わってくるという話で,今回もそういう傾向はあるのだろうと思われます。
というのは,その他の質問については,実は両紙の調査は非常に似通ってくるから。具体的に今度の選挙に関わりそうなところで確認していくと,まず大阪都構想への賛否について。

毎日新聞
橋下知事大阪都構想を支持しますか,しませんか。
 支持する29%
 支持しない25%
 どちらとも言えない43%

(読売新聞)
橋下知事大阪府大阪市を再編する「大阪都構想」を提唱しています。この構想に賛成ですか,反対ですか。
 賛成32%
 どちらかといえば賛成22%
 どちらかといえば反対14%
 反対16%
 答えない11%

読売の方では「答えない」という回答があって,ちょっとややこしいところがあるが,賛成の人はまあ答えるだろう,と考えて,「答えない」の多くが「反対」に回ると仮定すると,両調査の結果は似通ったものになってくる。具体的には3割程度が積極的に賛意を示していて,3割弱,1/4程度が積極的に反対,そして残りが中間はという感じではないかな,と。
より興味深いのは,「維新の会」をめぐる評価について。毎日新聞では,「大阪維新の会の活動を支持するか」を聞いて,以下のような結果が得られています。

橋下知事は「大阪維新の会」を立ち上げ,府議選,大阪・堺両市議選で過半数獲得を目指しています。大阪維新の会の活動を支持しますか。
 支持する32%
 支持しない20%
 どちらとも言えない46%

それに対して,読売では直接的に同じようなことを聞いているわけではないが,以下の二つのかたちで聞いている。

橋下知事は都構想実現のため,地域政党大阪維新の会」を結成し,府議会や大阪,堺両市議会で過半数獲得を目指しています。維新の会の3議会での過半数を期待しますか,期待しませんか。
 期待する57%
 期待しない32%
 答えない11%
・春の府議選では,どの政党,あるいは政治団体の候補者に投票しようと思いますか。
 大阪維新の会31%
 自民党13%
 民主党9%
 公明党5%
 共産党3%
 無所属6%
 決めていない24%
 答えない8%(府民ネットおおさか・社民党は0%)

これもなかなか評価しにくいところではあるわけですが,読売の一問目で「期待する」という人はどちらかと言えば維新の会に投票するような感じなのかな,と思います。ただこれは,やはり「どちらとも言えない」が入っていないからというところはあるのではないかと。それに対して,読売の二問目,これは他の政党の選択肢があって,まあ維新の会かどうかの二択ではない,というものになっています。このときに31%,3割という支持率が,毎日新聞の維新の会の活動支持の3割とほぼ平仄があっているのではないかな,という印象を持ちます。
具体的に個票データを見ておらず,集計データだけでどこまで言えるのか,というのはなかなか難しいところですが,新聞コメントを補足するかたちでまとめると,いくつかの傾向が見えるのではないかと。

  • まず,やはり依然として知事の支持率が高いのは間違いないと思われます。3年たって,これだけメディアにも露出していて,これだけの支持率があるのは立派としか言いようがないでしょう。
  • 一方で,支持層については中で微妙な温度差があるような気がします。知事を支持してきて,これからも支持したいけども,打ち出している変化についていけないという層が多少出ているのかな,と。特に毎日の調査で,以前と比べて支持率が減った代わりに,誤差の範囲にある「支持しない」ではなくて「どちらとも言えない」が増えているのがその感じを出しています。もちろん,その中でも一部の人たちは,読売のように二択に近いかたちで出されると,支持と表明する人がいるということでしょう。
  • 都構想についても維新の会についても,積極的に支持する人たちが約3割くらいいるわけですが,これは知事のかなりコアな支持層ではないかと思われます。都構想への評価に加えて,毎日の方でカジノ誘致について「支持」とした人たち(28%),それから読売の調査で3年間の実績を「大いに評価する」と答えた人たち(31%),また読売の調査で伊丹空港廃止や府庁舎移転について積極的に賛成する人たち(それぞれ35%,37%)はかなり重なってくるのではないかと。まあここは正確には個票を見ないと分からないので,あくまで推測です。
  • 以上の見方が正しいとすれば,知事を支持する6-8割のうち,だいたい半数(3-4割)ほどが,知事にとってかなり堅い支持層ではないかと思われます。毎日新聞の評価を見ても,3割って少ないようにも思われますがひとりのスターがこれだけの堅い支持を取り付ける,というのは非常にすごいことではないかと思われます。

そうすると,次の選挙はどうなるか,という話ですが,読売の「過半数を期待するか」という質問にちょっとヒントがあるのではないかと思われます。これは結局維新の会を支持するかどうか,という二択を迫っているわけで,その二択の中では維新の会を選ぶ人たちが一応半数以上いる,ということを示しています。そうであれば,知事の側としては,これからいかにしてそのような二択を迫るか,という問題になってくるでしょうし,既存政党の側としては,いかにそれを防ぐかというのがポイントになります,難しいですが。特にこれが難しいのは,大阪府議選が,非常に定数の少ない小選挙区に分かれて行われるからです。100人ちょっとを選ぶのに,62も選挙区があるわけですから,もともとYes or Noになりやすい。
知事の側では,「ポピュリスト」という批判をかわしながら,どのように二者択一に持っていくか,そして知事に対抗する勢力の側では,争点をずらすかあるいは都構想が問題であることを納得させることができるか,というのが問題になってくるのではないかと思われます。この辺り,名古屋の選挙や国政とも絡みながら進んでいくと思われますが,比較政治的に見ても依然として非常に興味深い事態が進行しつつあるのではないかな,と思われるところです。