『フランスにおける雇用と子育ての「自由選択」』

釧路公立大学の千田航先生から『フランスにおける雇用と子育ての「自由選択」』を頂きました。どうもありがとうございます。個人的にも日本の子育て支援について考えているところがあり,ただ研究プロジェクトとしてはやや行き詰っていたところだったのですが,ざっと読ませていただいて,いくつかヒントをもらえたように思います。

本書では,フランスにおいて「自由選択」という概念で特徴づけられる子育て支援の制度がどのように形成されてきたのかについて歴史的に分析されています。重要なのは戦前以来続く普遍主義的な家族給付というものがあって,これは周辺国の脅威の中で出産を奨励する意味も含めて給付されていたところがあります。もともとフランスの家族も日本と同様に「男性稼ぎ手モデル」が主流で,家族手当は専業主婦手当として給付されるようになったりする中で,女性の労働参加を阻害するようなところもあったわけですが,元の制度を前提としつつ女性の社会進出を支援する両立支援の給付を増やしていく中で,新たな制度が「併設」されて発展していくと。で,非常にざっくり言えば,そのような制度発展を可能にしたのがカギ概念としての「自由選択」であるという理解になろうかと思います。

翻って日本について考えてみると,フランスのように普遍主義的な基盤がなく,むしろ選別主義的な保育所を 両立支援として拡大していくなかで,専業主婦家庭と共働き世帯のバランスが失われていき,ちょっと行き詰っているような状況ではないかと思います(参考:保育と政治 - sunaharayのブログ)。一気に 専業主婦世帯への給付を拡大しようとしても財源はないし,そのために共働き世帯の既得権を奪うことも難しいということでしょうか。であるとすると,小泉政権以降の0歳児保育拡大を含めた保育所の拡大というのは,普遍主義への転換を却って難しくしているようなところがあるのではないか,とも思ったりします。

サービス給付というとその裏側に負担の話があるわけですが,日本について言えば,これまで普遍主義的な給付をしてきているわけではない ので,追加的な負担を求めても多くの人々が給付を受けることができるかどうかはわからないということが話をややこしくしていると感じるところです。「お金がないから普遍主義ができないし,普遍主義ではないからお金も取れない」みたいな。そのために,普遍主義的な家族モデルへの移行というのはなかなかに難しいのではないかとやや悲観的に見ているわけですが…。このあたりは,昨年の財政学会にお招きしてしゃべったものがもうすぐ出版されます(宣伝)。しかしいろんな変数が出てくるしその意味付けも難しく,グダグダと考えてはいるもののなかなかよくわかりません…。 

財政をめぐる経済と政治 -- 税制改革の場合 財政研究 第14巻 (財政研究 第 14巻)

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