年報政治学

まだ政治学会員ではないので生協で購入。「はじめに」でも触れられていたが、学会誌としては非常に安くて助かる。
実際のところ、ほぼ曽我・待鳥論文を読むために購入したようなもの。しかし、どうしてもぼくがやろうとしていること(あるいはやっていること)の少し先に曽我先生がいらしていて、なかなか差異化するのが難しい…orz。というわけで、

曽我謙悟・待鳥聡史「無党派知事下の地方政府における政策選択−1990年代以降における知事要因と議会要因−」

無党派知事の登場が実際に都道府県における政策転換につながったのか、という問い。ぼく自身もちょっと書いたことあるけど、無党派知事って政党とかからイデオロギー(というか政策の選好)を先験的に導き出すことが非常に難しいので、彼らの実績からわりとアドホックにその選好を考えなければいけないところがある。この論文でも、この問題を当然踏まえていて、そのために「無党派知事が何をしたいか/したか」だけではなく、議会との関係について考える、という構成になる。
筆者たちの問題意識は、ある程度ナショナルミニマムが達成されたあとの「地方交付税の延命措置」とする地方債の起債許可の弛緩によって地方政府が限定的な「歳入の自治」を得る可能性が生まれたのではないか、ということにある。また、従来のようにイデオロギーを通じて大きな政府/小さな政府という傾向が表出するというよりも、無党派知事が(有権者の意向を受けて)「小さな政府」を志向することが予想されている。
分析は回帰分析を用いており、非自民保守系の知事が補助金や地方債を増やす傾向にあること、議会自民党の勢力が大きいときに地方債が増えることを発見しているほか、無党派知事が歳出面において「小さな政府」志向であることも示されている。

  • 地方交付税の延命措置、というのは考え方によるのではないかと。もう投資的経費がいらないのに無理やり地方単独事業をやらせた、と言う見方をとるならば延命措置だけど、実際はSII(日米構造協議)での日本政府のコミットメントの問題もあるし、また、経常的経費について考えると、そもそも地方交付税は「延命」するような性格のものなのかは疑問(くどいですが単一国家なので)。
  • ぼく自身もそう考えてるし、実際そう書いてるところがあるので人のことは言えないけど、「首長と議会の選好は基本的に異なっている」(p.27)と言えるかどうかは、やや微妙なところがあるのかも。
  • 民生費・衛生費・労働費・警察費などが「政治化されていない」と言う知見は重要。これはぼくの分析とほぼ同じ。ただ解釈がおそらく違っていて、特に福祉関係は中央政府の統制が強いからでは、と思っていますが。
  • ぼくも少し混乱しているところはあるけど(で実際やった論文出してますが…)、従属変数の一期前のラグをそのまま入れてしまうのでいいのだろうか。あとFixed Effect/Randam Effectがクロスセクションでの話なのか、時間での話しなのかちょっとわからなかった。まあ字数制約がきつそうなのですが…。

その他の論文はぱらぱらとめくっただけだけど、「北朝鮮における政軍関係」が個人的には一番面白かった。タイトルからトンデモ分析かと一瞬思ったものの、少し読んでみると、基本的には合理的選択論に基づいたもので、Analytic Narrativesみたいなノリで書かれていた。内容についてはいろいろとあるだろうけども、ぼくとしては他の論文より読みやすかったし、興味の持てる内容だった。

Analytic Narratives (Princeton Paperbacks)

Analytic Narratives (Princeton Paperbacks)

  • 作者: Robert H. Bates,Avner Greif,Margaret Levi,Jean-Laurent Rosenthal
  • 出版社/メーカー: Princeton Univ Pr
  • 発売日: 1998/08/17
  • メディア: ペーパーバック
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