政治史

朝,妻が出かけるのと一緒に投票へ。ついでに投票所の上にある図書館によって,現総理の祖父に関係する本が面白そうだったので借りてみる。ひとつは老碩学によるオーラルヒストリーの記録で,もうひとつは比較的若手の研究者が最近書いたもの。

岸信介証言録

岸信介証言録

満鉄全史 「国策会社」の全貌 (講談社選書メチエ)

満鉄全史 「国策会社」の全貌 (講談社選書メチエ)

選挙速報の開始を待ちながら(!)後者だけ読んでみたのですが,なんとなくイメージでしか知らなかった(僕の場合は調査部のイメージが強かった)満鉄の歴史はとても興味深い。その生みの親たる後藤新平が当初東インド会社を意識したつくりにしようとしているところから始まって,関東庁・関東軍・外務省・拓務省といった複数の機関との指揮監督関係がはっきりしないままにあいまいな「国策」の遂行を求められ,最後は関東軍が牛耳る満州国の中で鉄道事業を中心とした一企業になる*1,という歴史は,「国策会社」というある種の「公営企業」のガバナンスとして考えてみても面白いのではないかと思う。いずれそういう研究ができるチャンスがあればぜひ…とは思うのですが。
それ以外にも,後藤新平をはじめとして,松岡洋右十河信二といった満鉄の中心にいた人々やその周辺の軍人たちが,ほかではあまり触れられない満鉄という側面から描かれるのは新鮮だった(松岡は例外だろうけど)。十河信二は新幹線を作った人,ということで『未完の国鉄改革』では先見の明のあるリーダー,『粗にして野だが卑ではない』では石田禮助の引き立て役,といった感じだったのですが,満鉄のときのフィクサー的な側面,というのは初めて知った話でした。*2
未完の「国鉄改革」―巨大組織の崩壊と再生

未完の「国鉄改革」―巨大組織の崩壊と再生

粗にして野だが卑ではない―石田礼助の生涯 (文春文庫)

粗にして野だが卑ではない―石田礼助の生涯 (文春文庫)

これに限らず,最近は比較的若手の研究者が書く政治史の本が凄く面白そう。いつ読めるかわからないものの,ぜひ少しずつ読んでおきたいもんです。
政党内閣制の成立 一九一八~二七年

政党内閣制の成立 一九一八~二七年

加藤高明と政党政治―二大政党制への道

加藤高明と政党政治―二大政党制への道

政党と官僚の近代―日本における立憲統治構造の相克

政党と官僚の近代―日本における立憲統治構造の相克

*1:あまり詳述はされていないものの,そのときに調査部だけ例外的に大きくなるものの,やがて陸軍と対立して解体されることになる。

*2:ちなみに,『満鉄全史』では,新幹線の開発に対して石田は批判的で,その開業式に十河を呼ばなかったというエピソードが紹介されているのですが(199-200ページ),『粗にして〜』のほうでは,石田は十河を気の毒がってテープカットをさせようとしたのに十河のほうが辞退した,というエピソードがあります(166-167ページ)。まあどっちでもいいんですが,どうなんですかね。ついでに言うと,『粗にして〜』の方で,このエピソードが紹介されている直後の叙述で,十河のもとで新幹線開発を進めた技術者集団が,技術優先で突っ走るという意味で「関東軍」と呼ばれていて,石田がそれを止める,という話があるのですが,二つを並べて読んでみるとなんとも皮肉な話やなぁ…,と。