法制問題

ヒアリングが終わってからは小早川委員による法制問題の検討状況が。まあ今回はわりと大きな話を出されているので,直観的にもわかりやすい話だったのではないかと。ちなみに資料はこちら
お話としては,機関委任事務の多くが自治事務になったのに,なぜ窮屈なのか,それを分析するとともに,通達はなくなったものの,国の法令による義務付け・枠付けがあるわけで,それがどのようにありうるのかを見ていく,というのが問題意識ということです。で,委員の義務付け・枠付けの整理は以下の通り。

1 義務付け
・・・一定の課題に対処すべく一定手法による活動を義務付ける
① 法令による義務付けをしない(単なる奨励にとどまる場合を含む)
② 法令による義務付けをする
2 枠付け
・・・組織・手続についての枠付け、実体判断基準を定めることによる実体的枠付け
・・・自治体自身の条例等による枠付けではない、国の法令による枠付け
a 法令による枠付けをおよそ行わない
b 法令による枠付けを一定程度行うが、条例による自主的な枠付けの余地も認める
b−1 必要事項を法律・政省令等ですべて定めきるのではなく、一定部分を条例に委任する
・・・組織・手続・実体判断基準に関する規定の、条例への委任
b−2 省令等(法律・政令も?)の規定について条例による修正を可能とする
・・・実体判断基準・組織規定・手続規定の、補充・調整・差替えの授権
c 法令による枠付けを行い、条例による自主的な枠付けの余地を認めない

分権改革後の姿として,自治体が枠の嵌め方を決める,ということをベースラインにして整理するという前提では,まず法令による義務付けをするかどうかが問題になります。委員による整理では,法令による義務付けをしない中で,枠付けもしないもの(a)と一定の枠付けをするもの(b)を「甲種自治事務」と呼び(①かつ(c)は想定しない),法令による義務付けをするものの中で(c)を乙種自治事務と呼んでいます。義務付けをする以上,全く枠付けをしない(a)ことは想定しないのですが,一定の枠付けをするもの(b)はありうるわけで,ここがひとつ問題になってくるだろう,というのが委員の理解のようです。
ちなみに,委員の説明では,b-1に当たるものは保育所の入所の基準のようなもので,政令に定める基準に従って,<この部分の基準は条例で決めて下さい>と言うのを入れる,いわゆる「条例委任」というやつで,b-2はやや特殊なもので,公害関係の排出基準など国の省令でやり方を決めるが,地域の事情によって違うやり方でもいいですよ,とするもの,だそうです。で,b-2のケースは政省令の定めを条例で置き換える,ということで「上書き条例」に当たるのではないか,というような説明になってました。*1 いや,条例委任って一応勉強しようとしてるんですが,なかなかよくわかんないんですよね。文献としては,このあたりを見ているものの,どうも僕の理解がついていかず…。

  • 北村喜宣[2004]『分権改革と条例』弘文堂
  • 田丸大[2002]「条例委任と自治体の自律的意思決定--「政令で定める基準に従い」方式の考察」『都市問題』93(2):85-111.

このような整理でわかる問題としては大きく二つあるのではないかと思います。まず委員自身も触れていたように,「義務付け」があり,条例による枠付けの余地がない(②かつ(c))自治事務って一体何なのか,と。法定受託事務じゃん,と思ったりするわけですが,委員の考えとしては,自治事務というカテゴリは堅持すべきではないか,ということだそうです。で,もうひとつは「義務付け」しない法令って一体何か,ということです(特に②かつ(a))。おそらく他の多くの国はこのあたり憲法的に片付けていて別に法令を作る必要がないのではないかと思うのですが,日本の場合憲法的に処理するのは難しいという現状があって,地方自治体への授権authorizeは何らかの法令を持って行う必要がある,ということなのでしょう。ただこれをやると整理としてはどこまで行っても国の立法で定められた事務を地方が実施するという形式を抜けられないのではないかと思います。例えば,ある法律に書かれていないんだけど,その法律が規定する分野の事務を自治体が勝手にやったときに国の意思と異なればどうなるか,ということなど。憲法で規定するなら,場合によっちゃそもそも①は問題にならない,と言う処理だってできると思うんですけどね。まあ国地方係争処理委員会でひとつひとつ片付けていく,ということも可能っちゃ可能なのでしょうが…まあでもこの点はスルーかなぁ。主戦場は結局②かつ(b),ここが一番ボリューム多そうですが,②かつ(b)と言う部分をどうするかに加えて,そもそも①かつ(b)か②かつ(b)か,という境界線を巡ってもかなりキツイ議論になりそうな気がします。

分権改革と条例 (行政法研究双書)

分権改革と条例 (行政法研究双書)

*1:ただ,公害関係について言うと,「国の基準の「当てはめ」が問題になるものの,必ずしも上書きではないように思ったりするわけですが