第25回会合(2007/10/31)

今回で中間まとめの前の中央省庁ヒアリングは一応終了。最後は総務省財務省が呼ばれて地方税財源の話を中心に,地方自治体の財政規律の問題(総務省)と特別会計改革の報告(財務省)が行われました。そのあとで小早川委員による法制問題の検討状況の報告,最後に事務局からの補助金などを使って整備した財産の処分の基準や手続きについての調査報告が簡単に行われる,という盛りだくさんの内容で。税財源の話は予算編成を睨んで日経が経済教室で特集組むなど最近妙な盛り上がりを見せる法人二税の話が中心となっていて,一応公式・公開の場で総務省財務省がやり取りをする数少ない機会という意味では重要だったのではないでしょうか。
まず税財源の話について。法人二税の話について振り返ると,法人二税を中心として地方の税源は都市部に厚いかたちで偏在しているために,偏在の少ない税体系を構築する必要がある,というのが基本的な問題です。この問題点の認識については概ねコンセンサスが取れているのではないかと思います。地方には無駄が多い,と主張する財務省も,地方税の偏在が激しいという点については認めていますが,その是正方法については総務省や地方団体とは異なる意見を持っている,というところです。今回の会合で出てきた意見について(こわごわ)まとめてみると,だいたい以下のような感じになるのではないかと思われます。

  • 総務省都道府県は法人二税に依存する傾向があり,地方税の偏在を税制だけで解決することはできない,そのために地方消費税の見直しを行うとともに法人税の国・地方の配分見直しを求める
  • 財務省:税源の偏在は地方税の中で是正されるべき,地方法人二税を水平的に調整することは、国に依存しない形で、自立した地方同士が互いに連帯しつつ地方自身の問題に取り組むという地方分権の本来の姿に近づくものであり、地方分権推進の観点からも望ましいと考える
  • 猪瀬委員(東京都副知事):国と地方の関係を明確にした上で消費税をあげるべき,東京には大都市としての特殊な行政需要があり,交付税特別交付税があるのに水平調整というのは屋上屋を架すやり方だ

委員のうち,横尾委員・露木委員はまあ総務省に近い立場でしょうか。露木委員は必ずしも消費税の話はしていませんが,これまで一生懸命企業誘致の努力をしてきてこれから税として先行投資の成果を取り戻そうとしているのに,そこで短期的に「偏在」だから切ってしまえ,といわれるのは不愉快だ,と言っていて,少なくとも短期的に法人二税のみで調整するのは反対ということでしょう。*1そういう意味では東京都の立場もわかるものの,東京都が「特殊な行政需要がある」からという理由で過度な偏在もどうか,という若干難しい立場なのではないかと。このように主張する人の立場によって若干の違いはあるものの,結局のところ,まあ自明ですが地方自治体が法人二税という税源を涵養する努力を重視することと,地方自治体が偏在性の少ない税源を持つのを重視することがどうも上手く両立しない,という点に収斂します。総務省が主張するように税源を交換するとしても法人二税という税源を涵養する努力の成果が一部失われてしまうことは変わらないわけで。まあ偏在が問題にならないくらいに消費税や交付税を通して新しい財源を配分する方法も考えられるわけですが,現在の状況ですぐに増税は難しいし,国の一般会計から交付税に回す分を増やすのも大変だ,ということでしょうか。
ここで個人的に注目したのは財務省が主張した「水平的調整」なんですが。最近財務省の主張としてよく取り上げられてきたのは,法人二税を人口などを基準に配分すること,いわば法人二税の譲与税化,のような話があって,この点については某知事たちが「『毒まんじゅう』拒否宣言!」という宣言を上げたりしてるわけですが,財務省の方は「水平的調整」については次のようにコメントするばかりで,今回の会合では配分の基準を変えるとかそういう話は何故か全く出ておりません。

地方分権を一層推進する観点から、国庫補助負担金や地方交付税のような依存財源よりは、むしろ、自主財源としての地方税を充実させ、地域住民が負担と受益の関係を明確に認識できるようにすることが重要である。しかし、如何なる形にせよ、地方税源の充実を図れば、これまで以上に自治体間における財政力格差の拡大を招きかねないことを踏まえると、税源偏在の是正に加え、地方自治を充実させるためにも、地方自治体相互間で、水平的な調整を行うことが求められるのではないかと考えている。
地方法人二税を水平的に調整することは、国に依存しない形で、自立した地方同士が互いに連帯しつつ地方自身の問題に取り組むという地方分権の本来の姿に近づくものであり、地方分権推進の観点からも望ましいと考える。

譲与税化,という話であればまあ反対もしやすいと思うのですが,地方自治体の間で「自主的に」やってよね,といわれると,実は結構複雑な変化球なのではないかと思います。少なくとも,「地方の自主性」を重んじるという観点からは,地方自治体が広域的に協力・連携するということは極めて重要であって,国を頼らずに地方が主体的に財政調整をするということは,このペースで「分権」を続けるときにはどこかで考えなくてはいけない問題なのではないかと思います。特に,現在地方自治体側としては,国と地方の歳出比率が4:6,税収が6:4である状況で,税収を5:5にすることを目指せ,と主張しているわけです。もし税収が5:5になったとき,税源が偏在しているからといって,最終的に国と地方の歳出比率(一応4:6としてますが)以上に地方に財源が渡るように交付税を組むのは難しいのではないかと。そのときにはやはり何らかの「水平的調整」は必要になると思うのですが…。まあただ例えば今後の税源移譲を全て消費税でやれば税源の偏在は問題にならずに残りの交付税で何とかなるんですかね?この辺のシミュレーションは僕にはわかりません。しかしある程度税源涵養の努力を残しつつ,偏在を是正するように配分することを考えるのであれば,地方側としても法人二税から「自主的に」拠出し,再分配するようなしくみをもう少し考えてみてもいいのではないか,と思います。ただまあ総務省としては結構にべもない。

法人二税などを地方自治体間で再配分する,いわゆる水平調整するということは是正の方法論として議論されることもございますが,この場合には地方税を課税団体以外の団体の行政サービスに充てる,といったようなことにもなり,受益と負担を対応させるという課税権の根幹に触れることにもなりかねない,ということで自治体の理解を得ることは難しいのではないかというように考えているところでございます。

とはいえ,国保なんかでは保険財政共同安定化事業とかいって市町村が国保の一定部分を拠出し,それを再分配するような制度を作っているわけで,同じことではないのかな,と思ったりするわけですが。*2まあそれでも「水平的調整」は猪瀬委員が指摘するように屋上屋を架す問題がある上に,地方財政計画との整合性をどう取るのかとか結構複雑な問題を惹起してしまいます。何よりも,知事会の会長が分権委の第8回会合で明確に反対してるくらいなので,少なくとも一年二年でできる話でもないわけで。短期の話と長期の話をごちゃごちゃにするとどうしようもなくなることを考えると,長期的に地方税財政制度をどのように構築するか(地方自治体の水平的調整を視野に入れるか/入れないか)という問題と,短期的な偏在についての対応とを少し切り離した上で,長期的な制度設計についてはキチンと工程表を作っていく必要があるのではないか,と思ったりします。
地方自治体の財政規律の話については,諮問会議で提案された地域力再生機構との関係や,財政規律における監査委員・地方議会の役割などの議論。まあ出された資料以上の話はあまり出てないですが,地方自治体から見た問題点として,横尾委員から監査にお金が掛かりすぎるのは困る,という話が出てました。で,特別会計についてはなんかそもそもなぜこれが分権委でヒアリングされるのかよくわからない話だったのですが,個人的にちょっとびっくりしたのは,いつも300兆以上とか言われる特別会計の歳出が,重複計上を除くと150兆程度になって,さらにその中で約80兆が国債償還・利払,50兆が社会保障給付,15兆が交付税・譲与税といった移転財源で,財投繰り入れが18兆,残りの11.6兆が裁量性のある歳出だ,という話。特別会計については細かいところはわからないのでなんともいえませんが,民主党国政調査権で「300兆を越す特別会計のムダ」を明らかにする,というところに賭けてくると理解していたのですが,どのくらいの規模になるもんなんだろう,とちょっと思ったり。
最後は小早川委員による法制問題の検討。これは関心がある人にはあるでしょうが,ない人の関心を呼び起こすのは辛いだろうなぁ,という内容ですが。その主張としては,国の義務付け・枠付けの見直して,地域の実情に応じて創意工夫や知恵が発揮できるシステムにすることを目指し,単に事務事業を国と地方のどちらに割り付けるか,ということだけではなく,それぞれの事務を方向付ける政策・制度の決定権を適切に国と地方の間で分担しよう,という大きな話をしたうえで,国の義務付け・枠付けに代わるものとして地方の条例制定権を拡大,それを決定する地方自治体のシステムの改革,具体的には議会の役割・仕組みを改革する,というものになってます。
注目されるのは,特定の行政分野からのアプローチも必要としつつ,それに限定されない地方自治体の事務についてトータルに関わる改革として捉えるべきであるとするところ。やり方としては「行政分野横断的な共通基準」を考えて,それに従って,個別法令による義務付け・枠付けについて廃止・縮減する,あるいは枠付けの全部又は一部を国の法令で決めきるのではなくて,条例に委任したり,又は条例で補正できるようにする等の見直しを行い,条例制定権の拡大を図るべき,という話になってます。で,最後の「条例で補正」というのが(技術的にどうするのかよくわかりませんが)「上書き権」の可能性の確保に当たるという話になります。この見直しの対象は,基本的には法令で規定された自治事務(いわゆる「法定自治事務」)とされていて,各省が所管法令について,自治事務でありながら義務付け・枠付けをしているものを洗い出したうえで,期限を限ってメルクマールに該当するもの/しないものを分類し,メルクマールに該当しないものは基本的に廃止(廃止のやり方は各省で),メルクマールに当たらないものについてはその理由を提示する,ということを提案しています。興味深いのは最後の点,自治事務でありながら,法令による義務付け・枠付けをしている場合についてここで何ら回答がなかったときは,委員会においては,法令による義務付け・枠付けの必要がないものという前提で作業を進める」という話。これをやると,国が定める事務事業の方を限定列挙することが必要になるのではないかという気がします。もちろん,今の状況を見ると「限定」といってもその数は膨大になることが予想されますが,それでも新規に義務付け・枠付けを課すことを制限する「法令チェックシステム(の整備)」と相俟って,「中央政府の方に限定をかける」というのは結構連邦制的な発想に近いところがあるのではないかと。そうすると,中央政府と地方政府が法解釈を巡って対立するときの処理のかけ方というのも問題になってくるような気はしますが…。

*1:どちらかというと道路特定財源のような特定財源を移転して偏在を是正するべし,という感じでしょうか。

*2:国保の場合は「保険料」より「保険税」としてとっている自治体の方が多いわけで。