第33回会合(2008/1/30)

今回から三月末までは「出先機関」(←地方支分部局)の集中審議ということで,斎藤弘山形県知事と松田隆利前総務省事務次官がこの問題に関する専門委員として会合に加わることとなります。で,今日は出先機関の整理に関する大枠の議論と,経産省ヒアリングということになります。のっけから新しい専門委員の自己紹介をしたかしないかのうちに,猪瀬委員がダボス会議に行ってきた話を始めて,「そもそも地方分権の英訳はDecentralizationではなくDevolutionだ!」というところから始まります。このコメント自体は小早川委員に「フランスではDecentralizationという表現を使う」といなされて,事務局マターになりましたが,まあ以前も話題にしましたが,DecentralizationだかDevolutionだかっていうのはなかなか微妙な話です。猪瀬委員はイギリスの人の話を聞いてきたそうですが,イギリスの場合Devolutionはアイルランドウェールズの話であって,ロンドンのような大都市がDevolutionを求めるのはわかるものの,単一国家の権化みたいなイギリス(のイングランド)にして政府がその表現を使うのはどうなのかな,と思わないでもないですが。
さて本題ですが,まずは出先機関の整理に関する大枠の話。全体的な説明のあとに,諮問会議が5月に「国の出先機関の大胆な見直し」の試行的な事務分類を出したのに対する各府省の見解,というのが説明されたのですが,これがほとんど「ゼロ回答」(by委員長)ということで,若干いらだちの空気が流れ多様な感じがします。やれやれ,という話のあとで,前の地方分権推進委員会の議論や諮問会議の試行的な事務分類などを踏まつつ,この委員会による事務分類の原理原則を立てるということで,西尾先生に叩き台をお願いする,ということになったようです。
個人的に若干気になるのは,多くの委員が「二重行政はいかん」という言い方をして,二重行政を根絶するために出先機関の整理を行うというようなニュアンスの発言をするところでしょうか。いやもちろん二重行政はいかんというのは見識だとは思うのですが,一方で,多くの委員が求めているように国と地方の財政責任を明確にするためにはある程度二重行政が出現せざるを得ないところがあるように思えます。なぜなら,国と地方の財政責任を明確にするということは,国・地方の役割分担を明確にすることが前提にあるわけで,その中で道路整備などについては「全国的な基幹的ネットワーク」と「地域のネットワーク」を役割分担する必要も出てくることが予想され,国が基幹的ネットワークを整備するなら,当然出先機関が必要になってくるわけで,類似の事務をすることを考えると,ある程度二重行政のような部分が出てこざるを得ないのではないかと思われるからです。出先機関を目の仇にしすぎた結果,法定受託事務ばっかり増えてしまうと結果として財政責任の明確化という(それが望ましいかはさしあたり置いといて)この委員会で当初多くの人が強調した目的が達成されにくくなるのはどうかなぁ,と。…まあここは全体的なデザインの話なのですが。二重行政みたいなことを強調するならむしろ,前回井伊委員が,今回露木委員が指摘していたように,出先機関と独法の二重行政の方が,同じ国の責任を果たす機関なわけですからよっぽど問題になるのではないかと。これはどちらかというと行革マターで,地方分権ではないといわれればそうなのかも知れませんが,モノによっては(出先機関ではなく)独法でやればいい,ということで出先機関の整理という観点にも適うのではないかな,とも。
経産省ヒアリングは,この不穏な空気を受け継いで結構とげとげしいものだなぁ,と。委員長はずっと「地方のことは自治体が一番わかってるから地方に任せればいい」ということを言っていて,それに対して経産省の方は広域性や統一性を強調する,というまあよくある水掛け論のような話に。本当によく聞くパターンですが,行政作用の受け手(ベンチャー企業とか)が省庁による全国的なアレンジメントを望んでるんだという話と,いやいや地方でできる,というのは全く噛み合いません。*1その点,猪瀬委員の批判はかなりポイントをついていると思ったのですが,要は経産局の地域区分っていうのは戦後直後のもので,全国的なアレンジメントが必要だとしても,交通事情や通信事情が変わっているのだからむしろ本省で出来るんじゃないか,というもの。これは結構有効な批判だと思うのですが,経産省の答えとしては「Face to faceの関係が必要」というやや微妙なもの。中央はFace to Faceよりネットワークが得意で,地方は逆にFace to Faceの方が得意なら,比較優位を考えると中央はネットワークに特化した方がいいでしょう。もし絶対優位の議論でFace to Faceでも中央のほうが地方よりうまくできるということなら、そもそも全部中央がやればいいわけですが,少なくとも地方からはそういうわけではないという主張になってますし,仮に中央がそう主張するならFace to Faceでも中央の方が優れていることを論証しないと議論になりません。しかも本省採用のキャリアが出先機関に行くのなんて結局数年なわけで,Face to Faceといわれても…と思わずにはいられないのですが…。逆に,「権限移譲deconcentration」がなされていて(異動しない)地方局のレベルで全て決めるのであれば,今度はネットワークの利用できなさ具合が地方と対して変わらないじゃん,ということで。
あとは地方にできる/できないの水掛け論になるわけですが,この全否定の様子を見ているとなんだかちょっと複雑な気分になります。特に「じゃあ地方政府が道州制で想定されるくらいのサイズになったら分権できるんですか?」という質問に対しては頑なに「この委員会で道州制の議論が行われるとは効いていない」を繰り返すのみ。それは反論にも何もなってないでしょうに…。これまでのヒアリングで経産省はどことは言いませんが他の省と比べて,比較的スマートな対応をとってきたように思えたのですが,出先機関については今やってるのが一番いいの一点張り。「IT時代に合わせて」経産局を再編するなど,他の省庁を置いてけぼりにするような言説を作り出すのが唯一可能なのが経産省だと薄く期待してたのですが,やっぱり難しいみたいです。まあ「生首」を切る可能性があるようなことは絶対できない,ということなんでしょうが…身を捨ててこそ浮かぶ瀬もあり,とはなかなかいかないんでしょうねぇ。

*1:しかし,ちょっと微妙だったのは,「これ実際にあった例ですが,関東圏の企業で東京のベンチャー市場で上場しようとしたけれども,なかなかうまくビジネスモデルを理解してくれないと。そういったときに,名古屋のベンチャーの市場に紹介してこちらでうまくIPOの上場が進んだ例とかいうものもございます」って行政処分を受けたセントレックスか?と。