第35回会合(2008/2/20)

ちょっと間が空いてしまいましたが第35回の会合を。今回は出先機関シリーズ第X弾で,農水省です。議論についてはこのブログを読んでくださる方にはおなじみの議論で特に新展開もないので,こちらとしてもいい加減飽きてくるわけですが…委員や事務局の人たち,そして説明する官僚の方々も大変だろうなぁ,と思いつつ。しかし,この議論を垂れ流していると,余計なお世話ながら,ただでさえ減りつつあるといわれる国家公務員志望者がさらに減るのではないかと思わずにはおれません。一生懸命勉強して官僚になって,ああいう感じで責められて,しかもああいう形でしか答えることができない,というのは最近の学生気質を考えるとどうなんだろうか…って学生さんがあんな動画を見ることないからいいのか(っていいのか??)。
気を取り直して今回の会合の内容を。今回見ていて,説明側の官僚の方々の答え方にもパターンがあることに気が付きました。まあ当然のような話なのですが,委員がわりと一般的な議論をベースに質問するのに対して,きちんと答えていないなぁという感想を持つときには,だいたい(1)委員の質問よりもさらに一般的・抽象的な話をする,あるいは(2)ものすごく細かい個別の話(特に個別法の話)をする,ということです。というのは,今回それが非常にわかりやすかったので。まず(1)については森林・林業関係の質問を「とにかく林業を事業として再生しなくてはいけないんだ」という主張に結びつけることで*1,(2)については農政局関連の質問をJAS法に絡めて答える,というのがとても際立っていたからなんですが。
まずそのJAS法の話が何故か頻出した農政局のところから。横尾委員と猪瀬委員が話題の冷凍餃子関係の話を突っ込んだりしたあとで,井伊委員が「全国統一の基準を出していれば複数の都道府県にまたがる許認可でも都道府県が出したらいいんじゃないか」という質問。はじめはJAS法の担当課長が「JAS法では…」とちょっと僕にはよく理解できなかった答えを返していたのですが,委員長がまとめなおして再度質問して,出てきた答えを要約すると,「例えば三重県で製造したものの問題点が東京都で発見されたときに,東京都が三重県の営業所に立ち入る管轄権がなく,都道府県間で調整できない」というもの。それに対して井伊委員が「出先機関のブロックをまたぐ場合は?」と尋ねると,「ブロック間なら調整できる」とまあそういう答えを。*2指揮命令系統が本省で一元化されているから大丈夫なんだ,ということだと思うのですが,しかしその一方で1990年代後半の行政改革では「出先機関への権限移譲」(これはdeconcentration)を進めるということになっていて,権限を持った出先機関間の調整というのは別問題なのではないかという気もしたりするのですが,まあそこは広く言えば同一組織だから大丈夫,ということなのでしょう。
この「二以上の都道府県」に係る事務というのを出先機関がやっているという事案は本当に多くて,この出先機関シリーズでは非常によく出てきます。中央省庁の立場からすると,これは「二以上の都道府県」を見る中央(出先機関)と「一つの都道府県」を見る都道府県という「役割分担」が完全にできていて,何ら問題がない,という答えになります。しかしながら,委員の側としては「事務」単位で物事を見ていて,「二以上の都道府県」だろうが「一つの都道府県」だろうが,同じ「事務」であれば同じところがやればいい,という発想になります。今回の会合で,個人的に最も意味がある発言だなぁ,と思った西尾先生のコメントは,この点について衝くものになっていると思われます。

JAS法に基づく立ち入り検査業務を例に取れば,現行法で国と都道府県の役割分担は「できている」わけですよね。しかしその役割分担のままでいいんだろうか,この分野に関しては見直さなければいけないのではないかという問題提起をしているわけです。
大きなことからいいますけど,日本の食料自給率が落ちているわけで,輸入食料品は多くなっているわけですね。グローバル化時代になると,食料の輸出入のところでチェックするのはものすごく重要なことになっていますね。それから流通業者というのが全国に回す段階をチェックするのが重要ですよね。これこそが国がもっと多くの人手をかけて重点的にやらなければいけないことになっている分野なのではないかと。製造業者を立ち入り検査するというとき,事業者は張り付いてるんですね,逃げはしない,動かないものなんですよね。検査に行く対象ははっきりしているものなんですね。こういうものについては,だんだん国が手を引くという考え方をしないと,国が責任持ってやるべきところに十分なエネルギーを割けないのではないか。製造業者などをチェックするというのは都道府県に任せるというかたちで考え方を変えることはできないのか,ということなんですよ。
そういう話をすると,複数の都道府県に流通しているような商品を作っている事業所については国の機関がやる,こうおっしゃる。都道府県が全部管轄できないですから。東京都で発見したものの製造元は信州にあった,という話です。東京都は検査する権限がないということですが,長野県に連絡して立ち入り検査をして下さいという都道府県間連携もありますけど,東京都がそこへ立ち入り検査をしてはいけない,ってどうしてなるんでしょうね。それを認めていくということにしていった方がいろんな問題を解決しやすいのではないかと思うんですね。これまで都道府県はその管轄の中でしか権限行使できないんだ,ということがありましたが,ここで発見した事件について,大本を調べるというときは発見したところも入りうるという法制上の根拠を与えれば済んじゃう話なんですね。そのことだけを理由に国がやらなければいけない,という。これは農水省だけの例じゃなくて,こういう事業者が複数の県に跨って事業するときっていう決め方は各省みんなあるパターンです。そこの考え方を突破する必要があるんじゃないかと。

中央省庁が「処理の基準」を定めて権限を都道府県に移譲するのであれば,現在だって都道府県がその基準に従って仕事をしているわけで,複数の都道府県の事案を任せてもいいじゃないか,ということになるわけです。ただもちろん中央省庁の側の意見だってそんなに無茶だと思うわけではありません。出先機関が情報を拾って一元的な指揮命令系統の元に迅速に国が対応する,ということができればそれに越したことはないでしょう。*3ここはもちろん価値判断の問題ということになりますが,資源の制約のなかで事務に優先順位付けをしなくてはいけない,という背景を考えると,例えば露木委員のブログにも書かれていたように,「ジュネーブで闘う」みたいに本当に国にしかできなくて,しかも戦略的に行動すべきところに(あるいはそういう組織にすべく)資源を投入すべきじゃないか,という主張には一定の説得力があると思われます。まあもちろん,中央省庁の側では「少ない資源でどっちも一生懸命やっている」ということになるのでしょうが,それは僕がいつも言われているような「お勉強したところを全て載せようとする博士論文orz」みたいなもんで,問題を絞ることによってこそ有効な施策が打ち出せるように思うのですが…。資源制約が厳しく,かつ,少なくとも国が資源を投入すべきと委員が考えている分野で省庁のパフォーマンスが十分でないと思われている以上,行革でウチの省だけ純減が求められていてこっちは一生懸命やってます,っていうのはちょっとどうかと思ったり。…ただ,こういう風に「中央省庁は自らが行うべき仕事を効率的に行うべきだ」という議論は「行政改革」の議論であって分権とは違うからこの委員会で話すべきかどうか,という議論は出てくるのでしょう。今回の会合でも斎藤専門委員がそういう趣旨の発言を。逆に猪瀬委員は「分権は行革だ!」という趣旨のコメントをしたりもしてましたが。
今回は,森林・林業関係と漁業についても議論があったのですが,漁業についてはあまり時間もなく,残念ながらそれほど議論は深まらず。両者にある程度共通して言われていたことは,これも頻出ですが,「ナショナル・センター」的な機能は必要だとしても出先機関ごとにはいらないんじゃないか,ということ。出先機関があってそこで人を雇っている以上仕事を作らないといけない,ということで委員は議論を進めるのですが,議論をしているうちに,「ナショナル・センター」の事務を各出先機関がやること,と「ナショナル・センター」的事務の必要性の議論がごっちゃになってしまうというキライがあるように思えます。ここのところ,もう少し出先機関との関係に絞れば話がクリアになるような気がするのですが。他には補助事業の付け方が現場のニーズを把握していないとか,地方が一番実情を知っている,といういつもの議論が中心です。あとは個人的には農協関係の都道府県信連(農協の信用事業部門)の検査はそもそも農水省がやるべきなのか?という松田専門委員の指摘にちょっと反応したくらいですかね。金融庁も忙しいとはいえ,住専の農協系金融機関であれだけもめたのに農水省(農政局)が依然監督をしていて,しかもその事務は動かせない,というのはなかなか…。

*1:まあ最後の方ではそもそも「林業を事業として再生する」こと事態に対する疑問が企業経営者と市町村長の観点から出されていましたが。

*2:ちなみに,井伊委員はもうひとつ,沖縄総合開発事務所のように,北海道も旧開発庁と北海道農政事務所(北海道は普通の農政局より所掌事務が狭くて農政事務所になっている)を一緒にするというのはどうか?と聞いてたのですが,それに対する答えは「そういう想定は考えたことがない」とのことでした。

*3:ミートホープ事件では北海道農政事務所の初期対応が一部で議論になっているようですが。