第36回会合(2008/2/28)

今回は国土交通省北海道開発局と,厚生労働省の地方厚生局について。委員のどなたかもおっしゃっていましたが,北海道開発局というのは出先機関の名称で,へんな言い方ですが昔からあります。つまり,以前総理府に「北海道開発庁」があり,その出先機関というか執行機関として「北海道開発局」というのがありました。それが中央省庁再編の結果,「北海道開発庁」が他省庁と合併することになって「国土交通省」ができる一方で,「北海道開発局」の方は基本的には従来通りの形で残った結果現在に至る,ということになっています。ちなみに,以前の「北海道開発庁」は「国土交通省」の中に「北海道局」として再編されて残っています。縦割りの原局ばっかしの国土交通省の中では珍しい横割りの局といいますか。一方で,地方厚生局というのは,こちらは正真正銘中央省庁再編の結果として生まれたもので,地方事務官制度を廃止したときに,以前地方事務官と呼ばれていた人々が行っていた仕事の一部をブロック別に再編成して地方厚生局という形でまとめた感じになります。ちなみに残りの(多くの)仕事は地方社会保険事務局へ。こちらは都道府県単位の出先機関ですが,社会保険庁改革の一環として社会保険庁の健康保健部門(というか政府管掌保険)が「全国健康保険協会」と「日本年金機構」という非公務員型の公法人に移管されるのに伴って,健康保険については47の「都道府県支部」,年金については312の「地方ブロック本部」になるということで。まあもうごちゃごちゃしてると思われるかもしれませんが,要するにこの十年くらいのうちに,中央省庁の中では珍しくかなり激動の制度変化があるところですよ,ということで。
さて本題。今日は猪瀬委員が欠席だったということもあるのかもしれませんが,比較的制度の話が中心だったように思います。まず北海道開発局については,結局これをどことくっつけるのか,という話に終始する感じ。まず井伊委員が前回農政局に聞いたのと同様に「北海道農政事務所と一元化して内閣管理にできないのか?」と聞くのですが,その答えは要するに「農業部門は国土交通大臣の下で既に一元化しています」というなんだかよくわからないもの。あとで説明者が自ら付け加えたように,これは社会資本整備の部分に関して他の地域では地方農政局が行う農業土木の仕事を,北海道では開発局がやっているということなのですが,質問の趣旨自体は現在農業土木以外の仕事を中心にしている北海道農政事務所を開発局のもとで再編成できないか,ということかと思われるので,ちょっとその答えはどうかなぁ,と。また,内閣管理についても,省庁再編のときにそういう議論がありましたね…というくらいで終わってしまってやや低調な滑り出し。しかし,その後の横尾委員の質問は,開発局・農政事務所だけではなく,運輸局とか経産局とかそういうものを全てまとめた上で北海道庁と一緒にしてはどうか,というもので,今度はまたえらく範囲が大きくなる方向に。委員長も道庁まで含めて一本化するほうが望ましいという趣旨の発言をするなど,委員長と二人の首長はわりと北海道庁も含めて考える議論に前向きの印象があるような感じ。まあもちろん国交省の方は,「道庁は道庁の,国は国の役割分担をしている」という回答になるわけですが。そしていつものことですが,この手の話になってくると,「道州制については今のところ考えてない」という議論になってしまいます。
議論の対象が北海道ということが,話を単純にするところとややこしくするところが両方あるように思えます。単純にするというのはまあ道州制に直結しやすい,ということですが,ややこしくするところというのは,今の北海道が既に十分に広いために,他の都府県の場合には「二以上にまたがる」とかいうかたちで国管理になりそうな事務が,北海道の管理になっているというところです。ちょっと規模が小さいかもしれませんが,仮に支庁単位で県があったとしたら直轄分がどのくらいのものになるのか,とかいう思考実験をしてみるのもありなのかなぁ,なんて思ったり。そういう意味では,小早川委員が要求していた社会資本整備における北海道の特殊性に関するデータは(出てくるのか知りませんが)なかなか興味深いのではないかと。
制度的な話については,個人的にはまあ正直なところ,道庁まで含めて一緒にするっていうのはどうなのかなぁ,という印象を抱かずにはいられないわけですが。一般的にこの手の議論を主張する人って言うのは,国(この場合開発局など)の予算と人員ごと移譲すればいいじゃないか,というわけですが,その予算っていうのは結局のところ国のところの税源なわけで,そういうときには例えば北海道だけ税源移譲して,北海道と他の地域の所得税率が違うというようなことを考えているんだろうか。直轄事業なんかについても同様で,「同じような事業をやっているから地方でやればいい」という主張はやっぱり余りにも乱暴なんじゃないかなぁ,と。分権の重要なところというのはやはり,自前の財源でできる部分について,他者のコントロールから自由に執行できるところであって,単に事業量だけを増やしても何にもならないし,それが本当に地方で責任を担えるのかわからないのではないか。*1むしろ規模の大きい直轄事業は直轄事業負担金なんて取らずにきちんと出先機関を通じて執行されることにして,それ以外の事業は補助の部分を税源移譲してきちんと地方でやる方が,「二重行政」かもしれないが,「分権的」のような気はします。しばしば言われている「地方にできることは地方で」というのは,何でもかんでも地方でやろうとすることではなくて,地方の側自らが自分たちに何ができるかという限界を確定する作業をして初めて強い意味を持つような気がするのですが。
続いて知事会麻生会長の挨拶を挟んで厚生局について。ひとつは複数の都道府県に跨る医療法人・社会福祉法人などの指導監督について。このパターンについては前回も出てきたのであまり繰り返しませんが,厚労省の主張としては,もともと都道府県が指導監督していたものを,全国規模の医療法人で不祥事が起こったときに対応の経験を踏まえて1985年の医療法改正で変更したというもの。この例として21箇所に同時に立ち入りというかなり大きい例を持ち出されているのですが,そういう大規模な全国一成立ち入りとかがどの程度あるかによるように思われます。そういうのが本当にレアケースであれば,それだけを理由とするのはちょっとどうかな,と思ったりするわけですが。それから,前回の農水省におけるJAS法のようにしばしば出てきたのが食品衛生管理基準(?)のHACCP。これは工場ごとに認証を与えるそうなのですが,プロセス管理などの認証を都道府県ではできないというときに,「基準が上手く作れない」というのはよくわかりません。認証モノは何らかの基準があるでしょうし,専門家さえいればその判断はできるように思われるのですが,話がその前のところ(HACCPを取ると都道府県が監督している他の食品関係の基準を一部(?)外していいらしく,厚労省がそれを理由に地方ではできない,という議論をしていたところ)で止まっていて,その辺りの議論はよくわからず。数が少なければむしろ本省で…という話もあり得たりするとは思うのですが,その数も議論では出てこず。
あと出てきたのは,まず看護師などの養成や試験管理の話ですが,大学(私立学校)とのアナロジーが委員と説明者の間で上手く共有されていないらしく,観察者的にはよくわからない議論が。もうひとつは麻薬取締り関係で,18年度に厚生局が検挙している麻薬事犯は総数の3%くらいということで,委員の側はそんなのだったら警察とか都道府県と一緒にやった方が相乗効果はあるだろうと主張し,厚労省の側はそれでも専門的にやることが重要だ,という主張を繰り返すのみ。まあ3%をどう評価するかなんでしょうか…まあ中身にもよると思いますが,普通は3%といわれると,3%でもそれがいかに重要かの中身(どういう3%か)を説明していかないと通らないのではないかと思ったりしますが。
最後に,やや気になったのは分権とはどのくらい絡むのかよくわかりませんが,このエントリのはじめに書いた地方社会保険事務局の制度改革の話。井伊委員の質問にあったのですが,これまで県単位の地方社会保険事務局が行ってきた医療保険機関の監督をブロック単位の(支部を持たない)地方厚生局がやるらしいのですが,本当にできるのだろうかと。聞いてる限りでは説明者の方も自信を持って絶対できますとは言わないんですよね…(ちなみに,この回答は動画の2時間丁度辺りのところなので,確認したい方はどうぞ)。ずっと聞いてるとたいていのことは「国がキチンとできます」という人ばかりなので,ちょっと珍しいこの反応はやや気になります。しかしことは医療保険に関することなので,すぐに「じゃあ都道府県単位の地方自治体で」というのもどうかと思われるわけで…。どうなんですかねぇ。

*1:例えば北海道関係の出先機関北海道庁を一緒にして,それまでの直轄事業を北海道の税源でやろうとしたら,仮に北海道にだけ税源移譲したとしても,地方債で調達するのは大変なんじゃないだろうか。