第74回会合(2008/2/13)

何か2月は分権委の会合がたくさんあったので(週1回),はやめにまとめなくてはと思いつつ,直近の仕事(って基本的にデータ打ちですが)をしてるとそっち優先で進まない。やっぱり新幹線乗ってるときが一番進むなぁ,と。まあそれはいいのですが,74回会合は二次勧告から継続して行われる義務付け・枠付けの見直しについての議論。具体的には分権委の二次勧告に対する省庁側の意見を聴取する,というかたちになるようです。これからは三次勧告を目指して,地方財政制度の議論とこの義務付け・枠付けの議論を並行して進めていく,と。
で,そのヒアリングの対象となったのは何かと言うと,(1)農林漁村電気導入促進計画の義務付け・枠付けについて(農水省),(2)林業労働力の確保について(農水省厚労省),(3)森林病害虫等の防除実施事務に関する農林水産大臣協議について(農水省),(4)市町村の設置する幼稚園・高等学校等の設置・廃止にかかわる都道府県教育委員会の認可について(文科省)ということで,率直に言ってやや細かいテーマが並びます。結局のところこのような細かい義務付け・枠付けが積み重なって日本の中央地方関係が形成されている,ということはおそらく間違いないとは思います。しかし一方で,こういう細かい論点になればなるほど,議論する委員が持つ知識は制約されるわけで,論点ごとに見直ししていくということが非常に難しいことになるのではないかと(そして聞いてる方も難しい…)。

農山漁村電気導入促進計画

各テーマについて詳細にやり始めるときりがないと思われるところもあるので,なるべく簡単に。まず農山漁村電気導入促進計画の議論については,JAや土地改良区が,水力発電(小規模なもの)をするにあたって,農林公庫(→政策金融公庫)から融資が受けられる事業とするために,都道府県知事が電気導入計画を作って大臣に報告しなければならない,という義務付けが論点になるそうです。水力発電の場合は河川法や電気事業法が関連,森林法や自然公園法との整合性もあるので,融資の過程において,都道府県知事が行政上の観点から計画を定めると。で,この計画を作ることで,融資機関としても事業の妥当性を判断するときにも重要だと。委員からの指摘としては,まずこの昭和27年に作られた法律は電力事情・金融事情が厳しい当時の情勢を背景にしているので,現在は必要ないのではないか,というもの。これに対する農水省の応えは,更新需要は現在も存続していることと,最近のエコ・ブームの中で小規模な水力発電が見直されて引き合いがある,と。農水省や他には経産省でよく出てくる話ですが(例えば64回),日本の政官関係では,政治家は官僚に対して割とゆるめに裁量を持たせて委任することが多くて,そのゆるい法律を官僚が様々に解釈して施策を行っていくということがあるのだろうなぁ,と。ただ,法律の目的−手段が厳密に対応しておらず,手段を官僚が選択するということはあるとしても目的の部分(エコ・ブームを入れるとか)で法律を解釈して運用するというのはどうかと思わないでもないですが。
その他の重要な指摘としては,小早川委員から,国の政策として必要だということだと思うが,仮にそうだとして,なぜ県をコミットさせないといけないのかという点が。つまり,県は,県内の事業者が何かやりたいのをバックアップしたければ,自ら進んで行政手続きコンサルタントみたいなことをやるかもしれないが,それは県の自由な判断ではないかという質問が出るわけです。それに対して農水省は電気を得ること以外にも関連法制や外部不経済などについて県がチェックすることで融資を受けやすくするという部分があるから必要だ,とする一方で,「それでは県に任せればいいのではないか」と言われると,金融機関は全国レベルの公庫であるとか河川は複数の県に跨る場合があるからと言うわけで,要するに「基本は県できちんと作って,国もある程度そこは見させていただきたい」と。まあ何を言っても結論は同じになるわけですが。
猪瀬委員もちょっと突っ込んでましたが,個人的には県が計画作ったら融資を受けやすくなるという話はもうちょっと慎重に語るべきではないかと思いますけど。都道府県が厳密に保証しているわけではないでしょうし,そこはあくまでも金融機関の判断であるべきなわけで,そこを強調するというのはどうなのかなぁ。都道府県が事業に入っていって,金融機関と事業者の間の情報の非対称を低減させるという効果はありそうなところですが,それを義務付けにするというのはどうなんだろうか。義務付けにしなかったら都道府県が「過大な事務コスト」としてその仕事をやめちゃって,それで電気事業者が困ることが公共の福祉の観点からまずいというロジックになるのだろうか。計画の作成過程や中身を詳細に知らないので最終的には何とも言いづらいわけですが…。

林業労働力の確保

このテーマは,林業就業者数が減少している中で労働条件の悪い林業の労働力を確保するために,都道府県知事が労働力確保の基本計画を作り,それに基づいて事業・労働環境の改善計画を作った林業事業主に対して支援を行わせる,という話だそうで。農水省厚労省の主張としては,国でも計画に即した助成支援策があり,基本計画で定める事項が都道府県ごとに違うと不公平が生じるので,計画を定めるに当たって労働法規の規定との整合性などを担保するために協議する,と。各事業者が出してくる改善計画は年間数千ということで,都道府県がそれを認定することになるわけですが,この点を委員長が中央省庁による認定であると一貫して誤解していることで話がしばしば意味不明に。省庁側の主張としては,国が全部チェックするのではなく,47都道府県と基本計画について協議するだけだからエコノミーなのだ,という話です。国としては対等の立場で協議を行い,間違いなどについて最小限の事前のチェックを入れる仕組みだ,という話です。その中で何回も強調するのが,都道府県は基本的な労働法規への理解が間違えることもある,というもので労働基準法の理解を間違えた実例があることへの言及です。委員からは事前のチェックではなく事後に勧告を行えばいいのではないか,という指摘が出るのですが,強行法規を間違えると事後の勧告では原状回復に問題があるから事前チェックをしないといけない,という主張が来ます。しかしよくよく聞いてるとこの数年で一回だけどこかの県の担当者が間違えた,ということで,この担当者は散々ネタにされてちょっとかわいそうな感じも。ただ,委員長のコメントの中で「国も間違えうるのではないか」というのが出て,これは重要だと思うわけです。省庁は「対等な立場」を強調しつつも法律の解釈の余地がありうる部分で国の解釈を地方に強いる可能性が出てしまうところ(公定力の議論に近いのかもしれませんが)についてはもう少し配慮があってもいいのではないかと思わないでもありません。
あとは,露木委員・猪瀬委員から補助金との関係についての指摘が。要するにお金が絡んでいるから協議をかませるのではないか,と。裏返すとお金が絡まなくなってしまうと協議がいらなくなってしまうのではないか,ということだと思うわけですが,この点についての答弁はちょっと僕には理解できず。強行法規である労働法規を誤って解釈しているところもあるから協議するんだ,ということを言うわけですが,それを言い出すと都道府県が独自にやってる雇用関係の助成も全て事前のチェックを入れないといけない,ということになるのではなかろうかと思ったり。この日の会合の最後にも出てきますが,お金と義務付け・枠付けの連結の問題は大きなテーマになるというところですね。ただ問題点の指摘以上の部分でどう進むかは難しそうですが。

森林病害虫等の防除実施事務

ううう。エントリが長い。まあ諦めずに。このテーマは,特に松くい虫のような森林病害虫の防除で薬剤を使うときの基準について,薬剤の使用の際に環境への影響を考慮して,都道府県単位の基準を設定する際に大臣協議が義務付けられているという問題になります。国の基準では最低限の範囲を定めていて,実際に防除を行う都道府県が具体的な基準を設定するというところですが,他県との考量を踏まえて都道府県の基準策定においては国が協議に入ると。まあ当然ですが,委員からの指摘は国の基準が既に存在しているからそれでいいのではないか,という話になります。それに対する農水省の応えは,基準策定に拒否権は持っていないが(つまり国の基準を満たしていたら法的には文句は言えないということか),病虫害の拡散を防ぐための意見交換をさせてもらっている,と。加えて,「被害先端地域」と呼ばれる地域に対しては大臣命令をかけて(都道府県の基準を満たした地域に対して)薬剤による防除を行うことがあるから協議が必要だということを主張するわけです。ただこれもどうやら補助金との関係もあるようで,猪瀬委員が突っ込んでいましたが,この事務自体は三位一体改革のときに地方に税源とともに移譲したものになっていて,新たに被害が出てくる「被害先端地域」の部分を中心としたところだけを国の関与する事務として残しておいたようです。ちょっとよくわからないところではありますが,いつ突発的に発生するかわからない「被害先端地域」の対応のために,全ての都道府県が(都道府県だけでやる防除についても)基準を国と協議しないといけないという話であれば,ちょっと重いのかなぁ,という印象がありますが。でもこういう税源移譲で主要部分が地方に移ったのに一部に国の関与が残って,その結果として(主要部分を含めた)全体で義務付けが残る,というケースは少ないのかもしれません。そのひとつのモデルとしての整理になればいいような感じもしますが…ただここの説明は僕には何を言っているのか理解するのが本当に難しかったです。そのためかなりざっくりした理解になってますが。

市町村の設置する幼稚園・高等学校等の設置・廃止にかかわる都道府県教育委員会の認可

話としては,小中学校については市町村が設置義務者として都道府県からの認可を必要とせずに小中学校を設置することができるが,幼稚園・特別支援学校・高等学校は認可が必要となっている,と。で,この認可は必要ないのではないかというのが分権委の主張になります。このうち幼稚園については一次勧告を踏まえて認可から届出に変えるという方向だという説明がされています。特別支援学校や高等学校については,(1)県が給与費負担をする立場にあること,(2)特に高校について,公立私立を含めた学校の設置の調整を図る観点から都道府県が関与するべきこと,が主張されています。ここは論点が比較的すっきりしていて,委員の側も,(1)は重要であることを認めたうえで,教員の人事権と給与負担を移譲することを求めている政令指定都市中核市での議論に絞るスタイルになっていたと思います。委員としては,政令指定都市などでは県費負担制度がないから届出でもいいのではないか,あるいはせめて認可ではなく協議でよいのではないか,という主張がなされているのに対して,文科省としては,仮に権限移譲をしたとしても都道府県による調整が重要であるというスタンスを基本として,認可制の変更はあくまでも「検討課題」であるという事は変わらないようですが。まあ当面はこの「検討」がどうなるか,ということに加えて,一次勧告での重要事項であった中核市への権限移譲を本当に行うのかというところが焦点になりそうです。

委員間討議など

やっと終わった,と思ったら委員間討議も。内容については,二次勧告における義務付け・枠付けの見直しのためのWGと同様に,小早川委員を統括として行政法研究者によるWGを作って,三次勧告における義務付け・枠付けの見直しの議論をしたいという提案です。まあ今日ここまで書いているように,場合によっては相当細かく論点も錯綜しているので,より専門の近い人の方がいいという話だと思いますが…。ただ,猪瀬委員から懸念が出ていたように行政法研究者のWGでは,義務付け・枠付けと補助金の関係に踏み込めるかどうか,という問題がありそうです。ヒアリングには事務局も出ているから,というところには落ち着いていたようですが,ややこしい問題である上に,責任が降りかかってきうることを考えると事務局が大変だろうなぁ…と。
それから露木委員からの提案として,最近知事から異論が出ている直轄事業負担金の問題について,国交省と知事からヒアリングをするべきだと。まあ確かに直轄事業負担金が不透明だといわれて続けているわりにはそのためのヒアリングもなかったと思いますので重要でしょう。露木委員も指摘しているとおり,二次勧告で国交省農水省出先機関の統合という議論をしている以上,そこでの直轄事業負担金の問題もあるでしょうし。ここは研究も少ないところなので,事実の問題としても興味深いところです。