第73回会合(2008/2/4)

73回は12月24日閣議決定された「中期プログラム」についての内閣府からのヒアリングに加えて,小西砂千夫関西学院大学教授と富田俊基中央大学教授から,地方財政制度についてのヒアリング。全体として消費税を中心とした税制の議論だった,という感じでしょうか。
まず内閣府ヒアリング。全体的な説明があったあとに,71回でも議論があった消費税についての二つの文言,つまり「?.税制抜本改革の全体像,2.税制抜本改革の基本的方向性」における

(3) 消費課税については、その負担が確実に国民に還元されることを明らかにする観点から、消費税の全額がいわゆる確立・制度化された年金、医療及び介護の社会保障給付と少子化対策に充てられることを予算・決算において明確化した上で、消費税の税率を検討する。

その際、歳出面も合わせた視点に立って複数税率の検討等総合的な取組みを行うことにより低所得者の配慮について検討する。
(7) 地方税制については、地方分権の推進と、国・地方を通じた社会保障制度の安定財源確保の観点から、地方消費税の充実を検討するとともに、地方法人課税の在り方を見直すことにより、税源の偏在性が小さく、税収が安定的な地方税体系の構築を進める。

の関係についての話が議論の中心になりました。要するに,「消費税の全額」が確立・制度化された社会保障給付に使われるということだが,地方消費税は別個に分けて考えていいのか,という論点です。ここで議論になっているのは,

  • 「消費税の全額」というのは,国の取り分を意味するのか,それとも全てか
  • ここでいわれている「消費税」は将来の増税分のことを意味するのか,現行分も含むのか
  • (国とは別に地方の取り分があったとして)それは社会保障給付に使われるのか,あるいは他の支出にも使われるのか

という三点だと思います。これらについて基本的にはこれから議論する,ということではありますが,「中期プログラム」の雰囲気としては今後の消費税財源は国って感じかなぁ,と。まあ全部微妙な論点ではありますが,あんまり意識的に議論されていない3番目も重要かも。この場合「社会保障給付」に使うことを優先するとすれば,一般財源である地方税交付税の原資にはなりにくいような気が。そうなると話の筋上負担金にでもするしかないのかな,と。まああくまでも上から2つの論点次第,ということでしょうが。
小西教授と富田教授の議論は非常に対照的。小西教授は,小泉・竹中時代の「市場に委ねる」路線から離れて中福祉・中負担を志向する中で,地方自治体が現物給付を行う規模が増えるために財源が必要になる,という問題意識のもとで,地方が担う社会保障支出を交付税ではなく地方税として−偏在性の少ない地方消費税で−受けるのが望ましいのではないか,という趣旨で議論。他には義務付け・枠付けの見直しがこの分権委の最大の課題として,国庫支出金の一般財源化,交付税の簡素化を進める方向性を打ち出すことや,直轄事業負担金のうち特に維持管理費の廃止・縮減,それから公会計改革として経常支出と資本支出を法制度上分離していくことを提言しています。それぞれ現行制度で妙な「抜け穴」になっているようなところを塞ぐ,十分に納得できる穏当な指摘だといえるのではないでしょうか。
一方の富田教授は,国の財政が極めて危機的な状況であるのに対して地方はプライマリーバランス黒字などに表象されるように財政状況は国ほど悪くはない,という問題意識から,地方でも特に豊かな不交付団体から交付団体への水平的財政調整を軸とした地方財政改革が必要ではないか,という指摘。地方に財源不足があるときにはいつも国が厳しくても補填させられてきた,ということでこれに政治を含めた議論を考慮すると北村先生の議論に通じるところがあるのではないかと*1。さらに三位一体の結果,豊かなところがより豊かに,貧しいところがより貧しくなったとして,配分の方法に問題があるだろうという議論を展開しています。特に,交付税が歳出に注目して財源保障することで,地方の国に対する依存を招くから財政調整に特化する必要があるのではないかと。あとで横尾委員が指摘するように,地方では地方財政計画である程度歳出が枠付けられて,また赤字地方債も原則的に禁止されていることを考えると地方がホントに余裕があって黒字かというと,それは別の検討が必要な気はしますが,その部分を措くとこれもこれで筋が通ってる議論かな,と。
議論としては,富田教授が国からの財源保障は最低限(「ナショナルミニマム!」)に限定した上で,あとは地方の中での受益と負担を重視するべきとするのに対して,小西教授は地方財政計画は常に受身であり,国としての政策方針のもとで財政需要が発生したものを交付税でカバーしていることを強調しています*2。この観点からすると,「地方消費税を地方の責任で上げる」という議論についても対照的で,富田教授は個々の財政責任を寄り重視すべきだと考えるし,小西教授は国の方針で決めた財政需要を満たすためには重要だと。ザックリいうとまあ連邦国家的制度vs.単一国家的制度(不交付団体どうするか,という問題はとりあえず置いておいて)の対立に見えなくもないですが,個人的には最近これが実はそんなに断絶しているわけでもないのかも,と思ったりもしてるのですが,議論としてはほとんど別個のものとしてみなされてあんまり噛み合わず。しかも最後の方は税収5:5といういつもの話がごちゃごちゃになってなんだかなぁ,という感じに。
最後は委員間の意見交換で,今後何やるかという話ですが,昨今の急激な不況を受けて,猪瀬委員の提案で雇用関係での国と地方の関係(特に雇用能力開発機構がらみ?)をとりあえず議論しよう,ということに。他に猪瀬委員からは「民主党の担当者を呼ばないか」という話も出てましたがそれって新しい…。やっぱり選挙と審議会の関係は難しい,ってことなんでしょうか。

*1:最近分権委の議論がこっちに来ているのでヘビーローテーションですが。

地方財政の行政学的分析 (大阪市立大学法学叢書)

地方財政の行政学的分析 (大阪市立大学法学叢書)

*2:重要なのは標準を保障することで,標準以上の部分というのは不交付団体の水準超経費の部分だと。