第69回会合(2008/12/8)

年末年始は非常勤先のレポートの採点に加えて,博士論文の口述諮問の準備でバタバタ。おかげさまで先日口述諮問が無事終了しました。これでようやくこの数年の研究にも一区切り,ということで,次はこの博士論文をどこかで公刊出来るように磨きをかける,という作業になります。年が明けてから随分たってしまい,既に新年の会合も始まっているいまではもはやout of dateになっている気もしますが,分権委の観察記録を。現在ではその後の騒ぎも既に前の話という感じもありますが,69回会合では,二次勧告の決定,ということで委員長・事務局から勧告案の提出,委員長代理からの説明と委員間の意見交換,そして修文の確定という作業が行われました。

勧告案の説明

勧告案の説明としては,これまで素案として議論されてきた義務付け・枠付け部分の修正が小早川委員から説明されたあと,出先機関の見直しを中心に西尾委員長代理から説明が行われています。基本的には勧告案の読み上げを中心として,部分的に詳細な説明が入る,というかたちですが,この中で興味深かった点としては,

  • 出先機関における事務事業の見直しについて,当初は出先機関から本府省への事務の引き上げを検討したが,今回は補助金の問題を扱っていないこともあって具体的には取り上げていない,また,事務事業の見直しとして留意したのは,公共交通のように自治体が新たに役割を拡大しつつある分野(=新たな二重行政の芽が出ているところ)である。
  • 出先機関が担う地域に係る事務・権限に関して地元自治体と調整するための仕組みとして設ける「協議会」について,単に諮問委員会であってはだめで,法令上(最終的な修文では「法律上」)明確に位置づけるべき。そのために必要な設定について「協議会のイメージ」でまとめている。*1
  • まず事務権限の見直しを行い,出先が関わる全ての事務について区分けをした。この中でひとつ大きな焦点になったのがハローワークで,ILO条約との関係上地方に事務権限を移譲することはできないが,地方自治体も国と同格の「公共職業紹介事務」を行うことができるようにして,将来的には漸次地方自治体の役割が拡大していくことが望ましい。
  • 直轄公共事業の実施については地方工務局(仮称)を作ることになり,北海道開発局も再編されることになる。この中で名指しはせず,「道州制特区」に言及することで北海道が直轄公共事業の実施を引き取る「べき」とはいわないが,将来的には道庁が引き取ることを望んでいることを含ませている。
  • 勧告のひとつの目玉である地方振興局・地方工務局(仮称)については内閣府出先機関として設置し,内閣総理大臣が幹部を任命する。内部管理部門の一元化を図るとともに,各部門の事務・権限については,内閣府による総合的な調整のもとで,関係各大臣による指揮監督が行われることが想定されている*2
  • 出先によって微妙に管轄区域が違うが,この違いについては経過措置を設けるなど柔軟に対応することで,現在の道州制構想において最大の問題になっている区割りの先取りになることは避ける。

まあこんなところでしょうか。あとは基本的に勧告通りということですが。
これに加えて,「委員長提案」として,勧告案2章6の部分に以下の文言を挿入したうえで,案の2章6を新たに2章4として位置づけて,従来の2章4・5を新たに2章5・6とするという提案がなされます。まあここが後に問題になったところですが。

これらの改革をおおむね3年程度の移行準備期間を設けて実行に移し,9系統の出先機関を廃止する。これらの改革により,別紙試算のとおり,まず総人件費改革などでも定められた7700人の人員削減を行うとともに,直轄道路や河川の地方への移管,農林統計等の農政関係の事務の見直しを中心に,1万人程度を出先機関から地方に移す。さらに,将来的には国のハローワークや公共事業関係の職員の地方への移管を行うことなどにより,出先機関職員のうち合計35000人程度の削減を目指す。この試算を精査したうえでの削減数や,実現に移すための工程については,後述する平成20年度内に策定する計画の中で明らかにする。なお,地方振興局・地方工務局(仮称)については,現行の二層制の地方自治制度に基づき,府省を超えた総合的出先機関として,地域の民主主義によるガバナンスや地方との連携を確保しつつ,設置するものである。従って,将来道州制等の新しい行政体制が検討される際には,他のブロック機関とともに,地方政府に積極的に移管が検討されるものであり,新しい国と地方の関係に向けた,先駆的移行措置として位置づけられる。

意見交換

意見交換ではまず全体の副題をどうする?というところから,1章・2章のタイトルの話など。その次にまず1章については義務付け・枠付けの審議について,全部政府の検討に任せるというものではなくて重要なものはこれからも検討する,という方針が確認された感じになってます。
公式の会合では初めて議論することになる2章が問題になってくるわけですが,ここでまず問題になったのは「都道府県単位の出先機関をブロック単位に再編する」という話。まあ要は労働局の話なのですが。知事会など地方側は既に都道府県単位の存在するものをブロックにするべきでない,ということを主張している,というのが横尾委員・露木委員の指摘で,これに対しては西尾代理が,今回検討対象とした8府省15系統の出先機関の中で都道府県単位の出先機関は労働局と運輸支局しかなくて,都道府県に移譲するのは一部でしかないのでこういう書き方になっている,という答えが。特に露木委員からの指摘として,ブロック化すると自治体から意思決定が遠くなるわけで,都道府県のカウンターパートである方が機動的な政策運用ができる部分があるというところが。西尾代理も認めるように,ブロック機関にしたときに,今度はブロック機関が各都道府県に事務所を置くのかどうかという問題が出てくると考えられるわけですが,この点については勧告を受け取った政府が実務的に決める問題ではないかという見解が示されています。まあそうすると各都道府県に事務所を置く可能性は高いような気がしますが…。労働局に関しては,もうひとつ,人員削減を強く盛り込むべきだという猪瀬委員と,現政権が最も重視している雇用政策に水を差すようなことはするべきではないという西尾代理の間でやり取りも。
あとは言葉に関する問題(地方振興局・工務局・地域振興委員会)や,上に箇条書きした論点に関することを中心に,主に猪瀬委員と露木委員からのコメントに西尾代理が応答し,他の委員が適宜入る,という感じで進んでいきます。それを受けて修文が行われるわけですが,修文は委員長提案を除くとそれほど多くはない感じ。
で,その委員長提案による修文ですが,上記の委員長提案が入って,その後に続く文

また、当委員会では、今後、第3次勧告に向け、義務付け・枠付けの見直しについて具体的に講ずべき措置や、地方税財政制度の改革について検討を進めていく中で、国の出先機関の見直しに関連する議論を行うことがあり得る。政府において改革の具体化に向けた検討を進めていく際には、こうした委員会での議論を踏まえて対応することを要請しておきたい。

これは以前からあるものですが,それに加えて問題となった以下の文

以上を踏まえ、政府に対して具体的な措置を求める事項は、5及び6のとおりである。

が入ります。特にこの文章についての説明はなかったようですが,事務局の説明を聞いていると,新たに入った修文は色違いになっているようで,少なくとも全くわからないようになっているわけではないのだろう,と。ただ雰囲気としては,総理にあう時間があるので早く確定しなくてはいけないから細かい議論はできない,という感じがあったことも事実です。
二次勧告自体の印象としては,こちらのエントリに書いたとおりですが,議論の経過を見ていると,やはりある程度の時間をかけてやってきた義務付け・枠付けの見直しに比べて,出先機関の見直しの議論はどうしても急いでいる感じはするかな,と。割と時間をかけて聞いている僕も消化しきれないところはありますが,どういう議論になるのかよくわからないままに会合に望むことになった委員の方々にとってはさらに難しいところが多かったのではないかと。特に上の方で論点として挙げた振興局・工務局の性格づけ,都道府県単位機関とブロック単位機関の整理,道州制との関係といったところに加えて,委員長の試算が妥当なのかどうかについて十分に検討することができなかったという感じがあります。この後二次勧告の出先機関関係の部分をどう扱っていくのかわからないですが,このあたりの論点はある程度継続課題として残っていくのかな,という感じがするところです。

*1:協議会のイメージについては,意見交換で猪瀬委員からコメントが多く,より具体化する方向で丁寧な修正が入ったのではないかと。

*2:後の意見交換で,「各省から独立」することになるのかという議論が出されましたが,指揮監督自体は各省大臣ということで,基本的に原案どおりとなったようです。意見交換でも出てきたように,内閣府の総合調整があるというのが実際のポイントなのでしょう。