第46回会合(2008/5/9)

見てからだいぶ間が空いたのですが第46回の会合を。あ,そういえば今日届いたのですが,今年の年報行政研究は地方分権を考えるに当たってとてもお勧めです。僕自身まだ全てキチンと読んだわけではありませんが,委員長代理と事務局長が執筆されている上に,「地方自治の本旨」について練られた論考をされている小原先生の論文は一読の価値があるのではないかと。また,投稿論文も結構面白いのではないかと思います。市町村合併の要因について分析している城戸さんと中村さんの論文は様々なデータを使った丁寧な論証だと思いますし,前に財政学会で発表されていた宮崎さんのこちらの論文と併せて読むのも良いのかもしれない,と。こうなってくると行政学と財政学で別々に議論するのはどうなんだろうと思ったりもしますが。

年報行政研究43 分権改革の新展開

年報行政研究43 分権改革の新展開

さて46回ですが,内容は厚労省ヒアリングと勧告素案について。厚労省は労働系で,職業安定行政と短期職業訓練のお話です。これはもうまとめるのがものすごい簡単なお話で。一応冒頭の委員会からの質問は以下の通り。

  • 無料職業紹介事業の都道府県への移譲について,国の公共職業安定所が実施している無料職業紹介事業の主要部分を法定受託事務と位置づけ,地域の雇用政策として地方自治体が実施し,国は基盤として求人情報に関する全国的ネットワークの整備をするとした場合,ILO88号条約に反するかどうかにつき,外務省に公式照会をしたところ,明確に反するとの解釈は示されていない,これにより法定受託事務では条約上の要請を満たさない,という厚労省の主張は否定されたものと考えるが見解如何
  • 職業紹介や雇用対策は,産業政策と連携して都道府県で一元的に担うべきと考える,厚労省の考えは国が直接事業を実施しなくては全国斉一なナショナルミニマムの確保ができない,というものだが,地方にはできず,国によってのみ確保されるナショナルミニマムとは具体的に何なのか,国が直接事業を実施しなくても,国がもつ求人情報のネットワークを,地方が活用できれば,地域の住民に対して十分なサービスの提供は可能と考えるが如何

この質問に対してはひたすらILO88号条約に違反するからダメ,ということで。一応分権委の方も外務省に照会をかけて,できるかどうかを聞いているのですがその回答は極めて曖昧なもの。そのために基本的には委員会の側は「できないとは言っていない」,厚労省の側が「できるとは言っていない」というような感じで議論が続くのみ。委員の側も「データの出し方がおかしい」(猪瀬委員)「法定受託事務の処理基準で相当なことができる」(西尾代理)「同じ厚労省でもWHO関係は法定受託事務地方自治体に義務を課しているところがあるのではないか」(井伊委員)「機関委任事務でやっていた経験があるしそれほどコンフリクトはないのではないか」(小早川委員)といったかたちでいろいろ問題提起はするものの,まあいろいろと「ダメ」と。最後にこの日司会をされていた西尾委員長代理が「きりがない」というような状態なので,結局のところ対立が目立っただけ,という感じ。個人的にちょっと疑問だったのは,厚労省側はNOVAが破綻した例を挙げて,そのときに厚労省の指示で東京・大阪を中心とした全国いくつかのハローワークで専用窓口を作り,その他の局でも相談等的確な対応せよと指揮命令を出した,と誇らしげに言うのですが,もし本当に必要であったらそれくらい都道府県でもするんじゃないか,と思ったりするのですが…都道府県がやらないとすれば,なぜやらないといえるのかという根拠をある程度示す必要があるようには思いますね。
その次は短期職業訓練事務の都道府県への一元化。委員会からの冒頭質問は以下の通り。

  • 雇用対策は地域の経営・生活の観点から一体的に行うべき行政分野であり,雇用能力開発機構の訓練業務および雇用開発の助成業務について地方への移譲を検討すべき,現在省内の検討会で同機構のあり方を検討しているようだが,そのスケジュールと検討事項を明らかにして欲しい
  • 短期職業訓練は大半が民間に委託している,そもそも国・機構が実施しなければならない者とはいえないのではないか,雇用・能力開発機構が職業能力開発促進センターで直接実施したり民間委託して実施している短期職業訓練について都道府県に一元化する方向で検討すべき

このテーマでまともに時間とって議論するのはたぶん初めてで,あまり詳しくは知らないのですが,要するに雇用能力開発機構の仕事をどうするか,というところと絡んでいるらしい。いま独法の見直しという文脈で機構の在り方について検討しているということなのですが,厚労省の回答ほとんど機構が存続することを前提とするものという印象から,独法改革にも携わった松田専門委員が苛立つ場面も。なんだかよくわからないのは,短期の職業訓練について,機構が民間委託している部分と都道府県が民間委託している部分を一元化する,という話だと思われたのに,なぜか機構が主にやっている(成果をあげている??)とされる「ものづくり」に関わる研修や,能力開発大学校のプログラムがそもそも時代に合わなくていらない,という話に。これって短期研修なのかよくわからないんですが,どうなんですかね。話を聞いている分には,民間委託を機構と都道府県が一緒にやるのは確かに非効率なところがあるんだろうなぁ,と思うのですが,機構の現在の研修についてまで分権委が手を広げるのは少し慎重になった方がいいのではないか,と思ったり。
で,最後に勧告素案についての検討へ。まあ基本的にはこのときまでにある程度出来ているものについて説明をする,という感じであったわけですが,気になったのは出先機関関係について。事務局の説明によれば,国でやるべきものについては出先機関でなく本府省を基本とする,ということで。以前の分権のときに本府省から出先機関への権限移譲,というのを進めていたわけで,結構激しい方向転換ではないのかな,と。また出先機関について原則廃止という方向性が打ち出されている(by松田専門委員)のは,国が自らの仕事を直接執行するための手段を失ってしまうわけで,自治体の側での総合行政に資するものは現状で国の直接執行事務でも積極的に移譲していく,という話と相俟って,地方の仕事量が増える一方で(「分散型」が強まる)「融合型」がますます強まってくることが予想されるわけです。なるべく地方に仕事をさせよう,でも国も仕事をしなくてはならない,という話になると,前回出てきた消費者行政のように,やや扱いにくい問題が出てくるのではないかと。個人的には「融合型」のメリットを活かすこと自体は望ましいのではないかと思うわけですが(特に社会保障関係),道路や河川なんかはある程度「分離型」にしておいた方がいいと思うし,何より税の方では税源移譲を強く勧めて「分離型」が見えそうな話になっているところとの整合性が難しいんじゃないか,と思ったりするわけです。地方の仕事量を増やす(「分散型」を強める)ことが強調されるあまりに,その裁量を増やす(=義務付け・枠付けを減らす)ことの重要性が霞んでしまうのはかなり痛い問題だと思うのですが,地方の仕事を増やして「融合型」の性格を強めるとなると,難しい問題が多いことだけは間違いないのだろうなぁ,と。*1

*1:このあたりの議論についても年報行政研究の西尾代理の論文でフォローされていて,もちろん委員会の側が意識していないわけではなく,これが非常に困難な問題である,という認識があることは間違いないと思うのですが。しかしこれは本当に難しい。