第61回会合(2008/10/8)

三連休は日本政治学会で関西学院大学へ。中日の日曜日に報告させていただきましたが,同じセッションの報告が両方とも勉強になりました。僕のは拙い報告でしたが,結構たくさんの方にきていただいて感謝しております。いろいろな方にお会いできましたが,ネットでよくお名前を見ていたid:thiedaさんにお会いしたのが刺激的でした。僕もそのうち英語で論文書かないと。
さて,先週行われた61回目の分権委では,経産省経済産業局)と厚労省都道府県労働局)を呼んでの公開討議。まずは経産省からだったのですが,これは基本的には以前のヒアリングとあんまり変わらないんじゃないかなぁ,と。まあ経産省の主張としては,一部の施策の統合・廃止を進めている,ということを強調するのだけれども,統廃合されたやつは比較的予算規模が小さく,残ったものが一番予算規模が大きいとなると,どうしてもトカゲの尻尾きりな感じが漂ってしまう。また,委員が指摘しているように,個別の企業支援に使うことができる金額はとても小さくて,本当に国がやるべき仕事なのかというのはよくわからないし。経産省としては,「あ,そういう考え方があったのか」と思ってもらう「ビジネスモデル」を経産省が提示することに意味があるというわけですが,いまの地方自治体や企業は経産省が出したことで「あ,そういう考え方があったのか」と思うもんなんですかねぇ。陳腐でないように,というのはわかるけど,経産省の官僚が特権的に他の人たちと全く違うアイデアを出すことができるような時代でもないのではないかと思いますが。
やや経産省と委員の論点がずれていると思われるところは,委員は経済産業局の再編を求めているのに対して,経産省は組織はそのままで規模の縮小で終わらせようとしているところか。昔は石炭とか電力の管理をしていたのがだんだん規制緩和で仕事がなくなって,ソフトの業務を増やしている中でそのような仕事はいらない,といわれるものの,それに対する回答はソフトの仕事を頑張ります,というものでしかない。じゃあソフトの仕事をどうやるかというと,国のネットワークと地域のFace to faceの関係を同時に強調しようとするわけですが,今度は経済産業局の幹部は中央からローテーションでやってくるからそもそも地域に密着した仕事なんてできない(by 露木委員)といわれるわけで。そのときに経産省は再度「国の視点」が重要だ,というわけですが,そうなってくると「国の視点」も「地域の視点」も大事ですよ,という話にしかならないのではないか。経産省としてはそのどちらかが重要だ,と言明することは難しいのだろうけど,話を聞いている限り「地域の視点」で押すことにはちょっと無理があるように思われるので,この際「国の視点」からの出先機関の必要性を正面から説得した方が生産的な議論になると思うんですけど。…まあ生産的な議論なんて誰も求めてないんでしょうが。
経産省についてはもうひとつ,消費者庁関係の事務について。今回挙げられた特定商取引法・割賦販売法,それから製品安全関係法の権限については,典型的に「複数の県をまたがる」事務として出先機関がやっているものらしい。これについてはまさに域外規制の議論なわけですが,経産省としては域外規制を認めると都道府県で規制がバラバラになる可能性があるということで反対,と。委員としては都道府県が経産省の示すガイドラインに基づいて権限行使を行い,権限行使の結果を経産省に報告すれば,問題のある場合は経産省が再度権限行使をすればいい,という主張をするわけですが,これに対する反論は,「ガイドラインが膨大だからだめ」というなんだかなぁ,というもの。しかも議論になった製品安全検査の基準については経産省の職員だけではなく,技術的には関係する独立行政法人製品評価技術基盤機構)が中心になるということなので,委員としてはむしろ都道府県とその独立行政法人が一緒に権限行使をすればいいじゃないか,と。まあこの手の消費者庁関係はよくわかりませんね。全国統一の基準で「安心・安全」を確保しようとするものを地方に権限移譲するとどうしても機関委任事務っぽくなってしまうのではないかと思うわけですが…。ただ僕は技術的なことはよくわからないので,そもそもどの程度「全国統一」の基準が必要なのかということについてはいえないところですが。
で,次は厚労省ハローワークのいつもの話ということで,何かこの議論を聞くのももうちょっと疲れてきましたが…。厚労省の話はいつもの通りで,国が全国統一でやらないといけない,地方とも共同事業を始めている,ということ。これに対して西尾代理は,共同事業を行うのは前進だが,都道府県自らの無料紹介事業に全面的に任せることを広げる必要があるのではないか,という主張。西尾代理はそのために,法律上の位置づけをして,都道府県の事業は単なる無料職業紹介事業じゃなくて,公共職業安定事業の一環だ,という位置づけをすることが大事ではないかということを指摘します。この辺は話がついてたような感じもしますが,厚労省もこの指摘を受けて,国と都道府県が全くの同格ではないもののパートナーとして無料職業紹介事業に当たることを検討するという考え方を表明します。
しかし,パートナーが具体的にどういうことかというとそれはよくわからん,と。何か話を聞いていると,国が持ってる情報と同じ情報を地方自治体が持って無料職業紹介を行うっていうことじゃないらしいです。現在の国と都道府県の共同事業であるとされる「ふるさとハローワーク」でも,あくまでも求人者が使う端末を置くわけであって,地方自治体の職員は国の情報にアクセスできるわけではないと。特に横尾委員が強くツッコミを入れていくのですが,同じ場所で共同事業を行うという国の職員と地方の職員で,アクセスできる情報が違うのはどうか,という議論が出てくると,やはり厚労省の側としては「公共職業紹介は国の事業だ」(共同事業をしていても国の職員が行うサービスと地方の職員が行うサービスは違う)ということを言い始めて全体的にやや混乱することに。結局のところ市場化テストと同じで,厚労省としては単に「同じ場所で仕事をする」だけであって,「同じ仕事をする」わけではないんですよね。まあ縦割りの好きな人たちだ,という感じではあるのですが,最近は厚労省ハローワークが統廃合で地域から撤退している中で,撤退したところで都道府県の事業だけになったら「全国統一」でできないのか?という問題は残るわけですが。この点については,全国一律の社会保険であるところの雇用保険の申請や認定手続きはやはり国がやらなくてはいけない,という厚労省の主張とも絡んでやや難しいところです。まあ厚労省(職業安定局長)の答弁としては,雇用保険の受付については検討するということでしたが…。*1
職業紹介についての論点としては,露木委員から出されていた地域福祉との関連があって,総合行政主体としての地方自治体のほうが地域福祉と職業紹介を一体的に運営できるという議論がされます。厚労省は「チームを組んでやってる」とかお決まりの返事ですが,露木委員からはホームルームの人が市町村と会うのは年に数回でしょ,と厳しい指摘が。ここでの厚労省の議論はかなりぼやっとしているので,連携については僕にはよく理解できませんでした。個人的な感想ですが,むしろ生活保護行政を国の側に持っていくくらいの主張をすればいいのに,と思うんですけどねぇ。厚労省がたびたび例に出すイギリスにしたって,Job Centreは職業紹介の窓口であるとともに,公的扶助の窓口でもあるわけです。地方自治体だって市長会が生活保護は国でやるべきだ,という主張をしていることを考えると,一応建設的な議論になると思うんですけど…まあそういうときには「出先機関の整理合理化を」とか言うことが予想されますが。とはいえ今の流れではそこまでドラスティックな議論はできないと思いますが。
最後に法制問題について小早川委員から。小早川先生にこれまでに義務付け・枠付けを検討してきた高橋滋(一橋大学)・斎藤誠東京大学)の両先生を加えてWGを作り,これから各省庁と個別で義務付け・枠付けのヒアリングをするそうです。ある種の「膝詰め談判」なのかなぁ,と思ったりするのですがどうなんだろうか。これはたぶん公開されないと思いますが,議事録くらいはチェックしてみたいなぁ。

*1:聞いてただけの理解ですが,あくまで受付について検討するとしか言ってなかったと思います。認定なんてもってのほかなんでしょうねぇ…要は「子どもの遣い」をさせてあげよう,といいたいのでしょうが,逆になんでそれすらダメなんだろう。この点については,とにかく雇用保険関係の財政(労働保険特別会計)に介入されたくないからじゃないか,という猪瀬委員の指摘を丁寧に検討する必要があるような気もします。