第60回会合(2008/10/1)

2日連続公開ヒアリングの2日目。これでようやくこの観察記録も追いついたということで。この日は農水省出先機関に関するヒアリングということで,直轄事業(土地改良事業),農林物資の品質表示,農林統計,それから米穀関係を中心に農産物検査法の登録検査機関について。最近の事故米の問題を受けて,この問題と絡めたテーマが目立ちます。

直轄事業について

まず直轄事業については,現在の国営灌漑事業について国の役割を縮減し(つまり事業を減らし),地方自治体の役割を拡大するべきではないかという問題意識で議論。農水省の主張としては,(1)国は大規模な灌漑事業で直轄事業をしているけども一連の工事は都道府県・市町村・土地改良区等と連携していてその役割は最低限に抑えられている,(2)完成した灌漑施設は国有財産ではあるが地元の土地改良区を中心に管理している,(3)事業ごとに全国単位で人員を機動的に移動させている,ということで直轄事業は既に最低限に抑えられている,とするもの。これに対する委員側の意見としては,周辺の公益法人への発注や公用車の使用などでムダ使いが多いのではないか(猪瀬委員),農業土木の専門性は本当に高いのか(露木委員),全国単位での機動的な移動といっても実際はほとんど動いていないのではないか(西尾代理),といった意見が出されます。ただあまり意味のある回答は得られなかったといいますか。猪瀬委員の質問に対しては,土地改良区の周辺住民も費用を負担しているから公務員の仕事を監視していてムダなんてできない,という答弁で,露木委員に対しては専門性はOJTで培われるというわりと検証のしようがない答弁を。しかも,OJTで培われる専門性なら人を地方に移してそこでまたOJTをはじめればいいじゃないか,という再質問には沈黙。この点については委員長からもツッコミが入ることになって,とりあえず後日農業土木に従事する職員の専門性についての見解を文書で回答する,ということになるようです。また,残念ながら西尾代理の質問に対する回答らしきものは僕には把握できませんでした。

品質表示

次の農林物資の品質表示については,全国的に商品を流通させる事業者に対して,都道府県が地域の消費者保護のために必要な範囲で関係の立ち入り検査・指導を行うことを可能とすべきではないのか,という論点。農水省は現在でも立ち入り検査を行うことができるが,違反があった企業の社名公表のような処分を都道府県ができない,という回答を。そして,都道府県に任せた場合には都道府県によって処分の厳しさが違ってしまう(例えば社名を公表したりしなかったり)ことが予想されるために問題がある,ということでした。現在は広域の事業者ではなく県内で完結する事業者であれば都道府県が処分を行うことができるそうですが,農水省の主張によると,いくつかの事例について都道府県の処分が「甘い」ために,マスコミからも批判されている,と。小早川委員がこの点について,扱いが県によって違うのは何が悪いのかわからない,公表する/しないが正しいか正しくないかと一元的な判断をするかどうかは違う,という指摘をすると,農水省は「自治事務の本旨からはその通りだが新聞論調で批判されている」というちょっと腰の据わらない回答を。まあそうはいっても都道府県が地元業者の虜になる可能性がないわけではないので,この点については慎重な議論が必要だとは思いますが。
農林物資の品質表示についてはもう一点,今度できるとされている消費者庁との関連で。農水省によると,これからは農水省が生産者側,消費者庁が消費者側ということで両部門を分離するということなのですが,現実に消費者側の観点から立ち入り検査を行うのは,消費者庁の委託を受けた農政事務所だということだそうです。この点については従来同様実質的に農水省出先機関がチェックするのはおかしい,都道府県がやるべきだ,という委員からの批判に対しては,都道府県の中立性には疑問があり,全国的に流通しているものについては国が責任を持つことが重要だという回答を。あとは広域の事業者に対するチェックについては大消費地である東京都の負担が高まるから難しい,という主張を行うのですが,委員側としてはあまりこの反論を受け入れないというところ(東京都副知事もいるわけですが…)。最終的には以下のような遣り取り(抄)があり,これからどういう展開になるのかなぁ,という感じです。

丹羽:消費者庁・政府が基礎自治体に移すべきだといえば農水省としては結構ですということですね
農水:全国流通するものについてどのように効率的に執行していくかについて考えると,広域業者については国が基幹的な役割を果たすことを主張したい
丹羽:消費者庁も国だよね

農林統計について

続いて農林統計。農水省の主張としては,農林統計には農水省の職員でなければならない調査がある(具体的には米の作付け統計,農業経営統計調査)ということで,なぜ農水省の職員でなくてはいけないかという質問については,「国の財政支出に直結する」重要な調査であるからという回答が示されます。しかし,この点については松田専門委員から疑問が提示されます。この論点は若干ややこしいのですが少し詳細に。その疑問とは,「国の財政支出に直結する」といっても,統計調査によって得られる個別の(ミクロの)農地(→作付け統計)や経営状態(→農業経営統計調査)が個別の農家に支給される補助金や補償に連結するというわけではなく,作付け統計や農業経営統計調査は,補助金のベースとなる「単価」を算定するために用いられるという意味で「国の財政支出に直結する」ということではないかというもの。その意味では,例えば介護報酬や医療の診療報酬における「単価」のようなものと性格的にはそれほど変わらないはず。しかも,医療や介護についての方が(農業補助金と比べて)予算規模が非常に大きいのに,「単価」を算出するための調査に国の職員が「実査」(=国の職員が自ら出向くこと,後述)をしているわけではない,と。農水省の反論で,僕が理解できたものとしては,調査が標本調査であることとか,他省庁が都道府県や市町村の統計職員(総数10000人)を使っているが,農水省出先機関の1700人を使って実査をある部分で行っている,と説明するものでしたが,これらが反論になっているのか個人的にはよくわかりません。
さらに,農水省のもうひとつの重要な主張として,部分的に行うアウトソーシングを進めているが,それによる支障が見られるというものがあります。つまり,郵送調査等では調査漏れがあって,そこには農水省の職員が出向かなければならないと。これに対して西尾代理の指摘は,民間調査員にアウトソーシングをすると誤差が出て悩ましいという話があるが,一方で他省庁は県と市町村の職員を使っているという,それでは素朴に,なぜ農水省は県・市町村の職員に委ねられないのか,というもの。農水省の基本的な反論は上と同じで「国の財政支出と直結する」重要な統計であるから県や市町村の職員ではダメというものですが,この論点の提示自体が反論になっているかどうかは微妙なところです。さらに新たな反論として,自治体の側は統計調査でウソをつくことによって補助金を増やすというインセンティブを持つから,自治体に任せると補助金の単価が歪む可能性がある,と。この反論自体はわかる気もしますが,ただそれを問題視するのであれば補助金単価の設定の仕方の変更を含め,実際に調査を担う地方自治体をどのように規律付けるかという議論するべきではないかと思うわけですが(まあ言ってしまうと生産調整を続けるのか,という議論もあるわけですが)。農林統計についての考え方を聞いていると,「農林」を強調する議論と「統計」を強調する議論の二つがあるような気がします。「統計」は農水省のみならず他省庁も含めて統計部門として集約することを視野に入れるような考え方で,前の中間報告でもこの文脈で独法化の話が出ていますが,分権委では統計委員会の委員も兼務している井伊委員が強調するところとなっています。一方「農林」を強調するのは基本的に農水省ですが,分権委の中でもあくまで「農林」の枠内で中央・地方の事務配分として考えるところがあるように見えます。まあ分権委という委員会の性格上「農林」の枠内の議論が中心にならざるを得ないのでしょうが,この際「統計」の議論を統計委員会などで行った上ですり合わせることが重要なのだろうと。

農産物検査

最後は農産物検査。上で取り上げた品質表示との違いがいまいちわからないのですが,説明によるとどうやら農産物検査は品質表示よりも流通の上流に位置する業務らしい,と。で,上流であるために全国的なネットワークをもっている農水省がやるということだそうです。この点が県内業者は都道府県,広域業者は農水省という品質表示とは違うということだと思うのですが。で,これはまさに最近の事故米の問題とばっちりぶつかることになり,丹羽委員長は厚労省との関係について,食用でないとされたものであれば厚労省(というか保健所→都道府県?)にも責任があるのではないかと聞いています。スタンスとしては農水省厚労省(+消費者庁?)の縦割り行政を問題視する,という感じで,都道府県に任せることや独立行政法人に事務を委ねることができないか,というのが主要なポイントだったようで。個人的には事務のイメージが沸かないので独法化というのがどんなもんなんかについて何ともいえませんが,時間がなかったこともあってこのテーマについてはあんまり深まらなかったなぁ,というのが率直な印象です。
…ふぅ,やっぱり「公開討議」をまとめるのはしんどい。