出先機関再編

といっても国ではなく県の話。

【アンテナ】 ★…隔たり大きい出先機関再編(秋田)
秋田県で焦点となっていた県内出先機関「地域振興局」の再編条例案が、反対多数により9月議会で否決された。寺田典城知事は、行財政改革の一環として条例制定に強い意欲を示しているが、議会の強い反対に阻まれた。県は来年4月からの新体制移行を目指しており、「あきらめないことも含めて検討したい」と12月議会への再提出もほのめかすが、議会側との隔たりは大きい。
今回県は、現在8局の地域振興局を「総合振興局」に改称し、県北、県央、県南の3地域に設置する条例案を提出。地域振興局がなくなる鹿角、仙北など5地域には、窓口業務などに機能を限定した「地域振興部」を設置するとした。県は新体制への移行により、約130人の職員削減を見込む。
これに対し議会側は、振興局がなくなる5地域での行政サービス低下などを懸念。県は県民アンケートを実施し、再編への賛成4割、反対1割(他にどちらでもない、わからないがともに2割)との結果を背景に成立を目指してきた。
それでも9月議会では、「職員削減在りきだ」「十分な議論が尽くされていない」との意見が続出。来年に知事選、3年後に県議選を控え、「今回否決してしまうと本格的な議論は3、4年できなくなる」と、継続審査を求める声もあったが少数にとどまり、圧倒的多数の反対で否決された。(以下略)
時事通信・官庁速報 10月9日

秋田は寺田知事がしばしば県議会と対立するなかなか興味深い県なのですが(あとは子育て新税),今回は県の出先機関の再編について知事と議会が対立した,というお話。いまちょうど地方分権改革推進委員会出先機関の整理統合を進めようとしているわけですが,そこでは分権委と中央省庁が対立するというストーリーが中心になっているのに対して,ここでは知事と議会が対立することに。あんまり詳しくはないですが,この内容を見る限りではまあ完全に行革の一環として県の出先機関を縮小し,職員を減らそうという方向で,県のアンケートによると一応再編地域の県民も賛成が多いらしいということで(秋田は前の子育て新税でも県民アンケートをやってたっけ)。
なかなか興味深いのは,この県側の提案が「圧倒的多数」で否決されたということではないでしょうか。もちろん議会がこの提案を否定的に捉える可能性は少なくありません。まず,再編地域で選出された県議会議員*1は,自らの地域で行政サービスの水準が低下することを恐れてこの提案を否定すると考えられます。しかし,秋田県の中心地域で出先機関が残る地域から選出された議員にとっては,自らの地盤とする地域における行政サービスが維持される一方で,「自分と関係ない」地域のコストを削減することで,県全体としては他の支出に資源を振り向けることができるので賛成するインセンティブはあると考えられます。なので,単に議員のコスト・ベネフィットを考えると,圧倒的多数で否決になるとはちょっと考えにくい。
そうすると,なぜ出先機関が残る地域から選出された議員がこの提案を否定するかを考える必要があるわけですが,ひとつの説明としては「次は自分のところの行政サービス水準が削られるおそれがある」と考えて共同戦線を張る,ということかなぁ(唇歯輔車,というやつでしょうか)。秋田県自民党所属の議員こそ多くはないですが,無所属議員が結構多くて共同戦線を張ることが可能なのかもしれません。しかしそのときさらに考えてみたいのは,出先機関が残る地域選出の議員が裏切る誘因を抱えている中で,彼らに共同戦線を張らせるほどに県議会の議員が凝集性を持って集まっているのかどうかという点です。秋田県は特に県連が強い印象もないですし,むしろ有力な国会議員がバラバラに存在していて(村岡兼造野呂田芳成など),地方議員は地方議員同士の関係が強いというよりも,国会議員との関係が強いのではないかと思うのですが。最近は国会議員も世代交代の時期なので,様子が変わってきている,ということなのかもしれませんが。
一方,議員が選出される地域によってこの提案に対する態度はそんなに変わらないのかもしれません。つまりどの議員も反対するということで,みんなが反対する理由はあんまり思いつきませんが,ひとつは削減対象となる県庁職員との関係というところでしょうか。つまり,県庁職員が削減に反対で,県庁職員への影響力増大(というか「貸し」?)を目的とする地方議員が知事の提案に反対する,と。知事がもうすぐ退任するということなので,知事より職員の選好に近い選択をする,というのはあり得ない話でもないような気がしますが…。まあぐだぐだ考えてみても,実地でインタビューをしたり地元の新聞を見たりしているわけではないので,単なる仮説だけですが。でも秋田県は知事−地方議会関係でいろいろと興味深い遣り取りがあるので,機会があったら調べてみたいとはずっと思ってるのですが。

*1:都道県議会議員は地域割りをした中選挙区制