第45回会合(2008/5/1)

40000ヒットを頂きました。ありがとうございます。分権委の観察の方はちょっと置いてけぼりになるかなぁ,と脅えているところですが,一応45回・46回と確認し,47回は1時間程度なので差し当たりなんとか追いつけるのかなと。
45回会合は,消費者行政・道路特定財源・道路・河川とわりと盛りだくさんで,特に道路と河川について国交省との公開討議を行っていました。いつものように割と対決型という感想を持ったのですが,その後地方分権改革担当の増田大臣と国交省の冬柴大臣との間でいくつかの合意が行われ,権限移譲を進める方向に向かっているそうです。例えば共同通信の47Newsでは次の通り。まあ後で触れることになるわけですが,ここでは「どうやって移譲するか」というのも重要な論点であり,そのあたりについては実は詰められていない,という問題があるのではないかと思うのですが。

直轄国道を地方に権限移譲 国交相が具体案提示へ
冬柴鉄三国土交通相は14日午前、増田寛也総務相と会談し、国が整備や管理を担っている直轄国道の範囲を縮小し、都道府県に移譲する具体案を近く示すことを表明した。一つの都道府県内を流れる1級河川の管理権限を都道府県に移す方針も言及した。
どの直轄国道や1級河川を移譲対象とするかは「移譲先の自治体の意見を聞いて検討する」としている。ただ、財源が手当てされなければ、厳しい財政事情で都道府県側が受け入れに難色を示す可能性もある。
増田総務相は会談後、記者団に「大きな方向性はいいが、ボリューム感としてどの程度のものが地方に移るのか、よく見る必要がある」と述べた。

さてまず消費者行政一元化について。これは現内閣が重要課題として打ち出している政策であり,中央省庁レベルでの一元化を行うだけではなく,国と地方の消費者行政の一元化を行いたい,という話がでます。内閣府の説明によると,地方における消費者行政への取り組みは地域差が見られ,関係予算も削減されているとのこと。そもそも旧経企庁から交付金が出されていたものが,三位一体改革の中で廃止される,という経緯があったそうです。ただ議論の中でも出ていましたが,これまでの分権改革と整合的に行うのはなかなか難しい。なぜなら,基本的に国がやろうとしている仕事な訳で,それを地方に頼むということは,まあ何と言うかちょっと先祖返りに近いところがあるからです。国と地方の責任を明確にするという前回分権改革の観点からは,国が地方に消費者行政をやらせて補助金交付税を出すということはちょっと違うだろうと。しかも消費者行政って普通に自治事務なわけですし。また一方で,国が仕事をするために出先機関を作る,ということも,出先機関の整理統合を目指している現在の分権委の立場を考えると,国の仕事だからといって軽々に出先機関が仕事をするというのも認められないと。
この悩ましいポイントは,これからの中央地方関係を考えるときにも重要になっていくと思われます。おそらく消費者行政に限らず,国が何らかの新しいことを行うためには,地方にやってもらうか出先機関を作るかという選択をせざるを得ない。そして「消費者」のような漠とした対象への行政の仕事というのはこれからむしろ増えていくことも予想されます。出先機関を作ることは費用がかかし周知も難しいわけで,地方にやってもらうというのは,日本の地方政府の能力の高さを考えるとそれなりに妥当な選択肢であると考えられます。必ずしも地方の方でやるべきと考えているわけではなく,国がやって欲しい仕事について,そのための費用を補助金交付金で用意して実施に繋げるというのはまあ業界用語でいうところの「融合」タイプだと考えられるわけですが,今回の事例はこの「融合」を見直す一つのきっかけになるのかもしれません。以前のように機関委任で中央省庁が指揮監督で縛るのではなく,国と地方が対等の関係で「契約」のようなかたちで地方が実際の仕事をする,というのはありうるのではないかと思ったりするわけですが…ちょうど今日日経の経済教室ではやし先生も書かれているわけですが。
で,次に道路特定財源について猪瀬委員からのプレゼンテーションを挟んで道路局との公開討議へ。猪瀬委員からは「どこまで地方でどこまで国か,というのは整備局の組織とカネの問題で地方がどの程度持つ,とか何らかのメルクマールが必要になる」ということが強調されていたのですが,これは公開討議の議論でのちょっとした伏線になっています。
公開討議では,委員長から次のようなかたちで質問が投げられます。まあ以前とあんまり変わりませんが。

  • 国交省から国道の整備・新設と管理・維持修繕を明確に分けられないという回答があったが,分けた場合の支障について明確な説明がない
  • 法令上整備と管理は分かれていて,指定区間一般国道の管理は都道府県に移譲すべき,回答では国が自ら新設・改築・維持・修繕を行うべき一般国道の範囲を限定すべきというもの
  • しかし委員会が中間的なとりまとめを示してから5ヶ月経過していてもはや検討する段階ではない,少なくとも具体的な方向性とスケジュールを示して欲しい
  • 関係機関にヒアリング・アンケートをするということだが,各団体に移譲の具体的要望を聞くのは個別の利害が絡むので適切でない,いつまでに何を行うのか,結果がどういう状況であれば何を行うのか

これに対して,「整備と管理は分けられない」,「いま見直しのための基準を検討している」という話。一応国交省の側としては,整備と管理を分けないことを前提として,一次勧告までに見直しの基準を出すということを約束することになりました。その他委員からは様々な観点から整備と管理を分けられるだろう,というコメントがありますが,国交省の方もまあいろんな理由でダメだ,というのを繰り返すいつものパターンという感じで。
ちょっと興味深い議論だったのは猪瀬委員とのやり取りです。猪瀬委員は,以前からですが揮発油税暫定税率分1.4兆弱を地方に移譲するべきことを主張していて,今回もそれを述べた上で,1.4兆を移譲すると,いままで国から地方に流れていた約1.3兆弱(道路整備臨時交付金約7000億と補助金約6000億)よりも地方の取り分が多いだろう,と。約1000億円分新たに地方に渡ることわけで,その分地方の側の仕事を増やす=出先機関の仕事を減らす,というのはどうかということを主張します。国交省の反論としては,見直しには見直しのための基準を作ってそれによってどの程度仕事を減らすかを決めるべき,というまあ極めて常識的な主張がなされますが,まあなかなか興味深いやり取りだなぁ,と。猪瀬委員は整備と管理を分けるという話を特にはしていませんでしたが,「整備局をどのくらい削るか」という観点からの立論というのはこれまでなかった点であり,ちょっと新しいポイントであると思われます。まあ道路の管理を地方に,というのは消費者行政のときと同じ問題を引き起こしてしまう可能性もあるわけで。もちろん暫定税率分地方に振るといっても「どうやって分けるんだ」という永遠のテーマがあるのですぐにはなんとも言えませんが…。
河川については質問は次の通りで,基本的な議論の構造は「整備−管理」と「災害時−平常時」という違いを除けば道路とほとんど同じなわけですが。

  • 直轄管理の必要性を説明するだけだが,財源・人材を移譲することで,一つの都道府県内で完結する河川は直轄河川も含めて都道府県が管理すべき,
  • 回答では平常時と災害時の河川の管理を区分すべきではない,というものだったが,国は被災した河川を管理していなくても,他の河川を管理する事務所から職員・機材を投入して災害支援すればよいわけで,災害対応を理由として国がダムや下流部を直接管理しなければいけないということにならないのではないか
  • 国が自ら管理すべき一級河川を限定する方向で所要の見直しを行うということだが,中間的なとりまとめを示してから5ヶ月で,もう検討する段階でもない,今後の具体的な方向性と検討のスケジュールを示して欲しい,
  • 地方公共団体等関係機関に意見を聞くということだが,個別の利害が絡むことは必ずしも適切ではない,いつまでに何をどのように行うのか示して欲しい

ただ道路ではそれほど出てこなかった問題がこちらではクローズアップされていました。それは,「見直しの結果都道府県に移譲された河川(一つの都道府県内で完結するもの)は,二級水系となるのか」というところです。現在一級水系というのは「国民生活上・国民経済上重要な水系」とされているわけで,国交省がいうところの「見直し」とはこの国民生活上・国民経済上重要かどうか,という観点から行われるということになります。つまり,見直しの結果都道府県に移譲される河川は「国民生活上・国民経済上それほど重要ではない」と判断されることになると。斎藤専門委員が言うように,国民生活上・国民経済上の重要性が低いと判断され,(一級水系の指定が外されて)二級水系ということになると,どうしても管理水準が落ちてしまうのではないか,という問題が。委員側としては,「一級水系」を都道府県管理にしたいと考えているふしがあるものの,国交省のスタンスとしては「二級水系」として移譲するということのようで,ここはちょっと微妙なのかなぁ,と。まあ一級水系を二級水系にすればその分国交省の予算が削れるということで,そこを移譲できるかどうかというところがまた問題になってくる,という指摘もあったわけですが。しかし道路の移譲についても同じ問題があるわけで,ここは少し再燃しそうな感じ。
後は一次勧告の構成案について。焦点としては消費者行政と道路特定財源の話をどういう風に扱うか,というところになるようです。まあこれは確かに後から降ってきた話なのでなかなか扱いにくいところではありますが,触れないわけにもいかない話なわけで,なかなか悩ましいところではあります。ただ,先にも書いたようにようにこの委員会による分権改革の機微に触れるところがあるわけで,慎重な対応が必要だとは思うわけですが。