第48回会合(2008/5/22)

分権委の一次勧告に対する評価がところどころで出ているようですが,地方自治体関係者からの反応としては,まあ必ずしももろ手を挙げて賛成というわけでもないようで。知事会や市長会としては一定の評価を下しているという感じですが,知事の中にも和歌山県知事や鹿児島県知事など「評価しない」という人もいるようです。しかしなかなか興味深いのは,両知事は中央省庁出身者(経産省総務省)なわけで,ここはねじれている感じです。コメントだけ見ると,和歌山県知事の方は「分権によって地方の負担を増やすことoff-loading」を批判しているように見えるのに対して,鹿児島県知事の方は「もっと分権を進めるべきなのに踏み込みが足りない」という批判のように見えます。まあ鹿児島県知事は何かと引き合いに出される前回の地方分権推進会議の事務局にいらっしゃった方なので,このテーマについてはいろいろとあるのでしょうが。しかし最近中央省庁の官僚出身者が知事になることが増えている中で,省庁出身知事と地方分権の関係について分析してみるのはおもしろいかもしれない,というような気がするのですがどうでしょうかね。
さて48回の会合は,国土交通省ヒアリング(道路・河川)と一次勧告の原案に関する審議となっていました。ヒアリングについては既に結果が出ているように,道路は整備と管理を一体に考えるべし,河川も平常時と非常時を一体に考えるべし,という話で,分権委の方もこの時点では整備・管理,平常時・非常時を分けるべきだという強硬な主張はせずに,財源がきちんと移るのかを質すというかたちになっていました。
特に論点となるのは,国道であればこれまでの直轄国道扱いで,河川であればこれまでの一級河川扱いで移譲が行われるのか,という部分です。道路の方の説明では西尾代理と猪瀬委員がこの点について質問していて,「小さいもの同士を結ぶものだけはくれてやる,という考え方は認められない」(猪瀬委員)「「重要都市でない」という認定をして,国道でなく地方道に下ろすというを意味するのか,それはわれわれとしては不本意」(西尾代理)という発言があります。道路局長の答弁は「重要でないという意味ではない」というものではあったんですが,この点については直轄扱いみたいな感じなのかどうなのかはちょっと僕にはよくわかりませんでした。一方河川の方でも丹羽委員長・横尾委員が一級河川扱いで移譲になるのか,ということを尋ねていて,どうやら冬柴国交相一級河川として移譲すると言っているらしく,河川局長の答弁もそんな感じになっています。ただ河川についてちょっと不透明なのは,基本的には現行法の枠内でやる,ということですかね。河川審議会にかけたりするのか,という質問があったのですが,それに対する河川局長の答えとしては,「一級河川として移すなら水系指定についてはかけない,しかし区間指定については河川法の手続きがある」というものだったと思われます。河川関係はあんまり勉強したことないのでよくわからないのですが,これっていうのは要するに,一の都道府県で完結する河川については全域を当該都道府県管理にする,といったようなかたちで都道府県管理の区間を増やすというような運用で対応されるっていうことなんでしょうか。区間指定での対応っていうことは,道路整備・管理では法定受託事務として移譲するということが予想されるわけで(都道府県道は自治事務),なんだかあとで揉めそうな気がします。ちなみに河川の方は一級河川都道府県管理区間二級河川の管理も法定受託事務になってます。当初の議論ではここの法定受託事務自治事務化するというのも論点に挙がっていたような気がするが,最近ほとんど聞きません。法定受託事務自治事務化っていうのは義務付け・枠付けのところで一括してやるのかなぁ。
で,ヒアリングのあとは一次勧告に向けた委員間討議。まず勧告では2−4章がメインであり,特に3章に記述された「基礎自治体への権限移譲の推進」と「補助対象財産の財産処分の弾力化」に示している勧告は,今回の第1次勧告で一定の結論を得ているということが強調されています。特に「補助対象財産の財産処分の弾力化」の勧告は関係府省が合意している事項ということで,これについては「地方分権推進計画を策定するまでもなく,政府の地方分権改革推進本部において早急に対応方針を決定し,関係府省に対して早急な実施を指示していただくことを強く,政府に要望する」というように前回の西尾代理のコメントが反映されてました。あとちょっと興味深かったのは「おわりに」のところで,以下のような文章が出てきます。意見交換のときに露木委員から喧嘩売ってるわけじゃないんだからと突っ込まれていましたが,まあ結構強い表現だなぁと。今回のエントリの一番最初にも書きましたが,地方六団体からのバックアップを全面的に受けるわけでもなく,また政府の中でも強力にプッシュするところがない分権委がとにかく理論武装して正当性を訴えなくてはいけないところがわかるような気がします。

この勧告をめぐっては、都道府県関係者の内部でも市町村関係者の内部でも賛否が分かれるのではないかと推察している。しかしながら、この勧告は、先の第1次分権改革において「地方六団体の総意」を尊重したばかりに不十分に終わった都道府県から市町村への権限移譲を今回実現しようとしているものであること、第1次分権改革の成果の一つとして新たに創設された都道府県事務処理特例条例による市町村への権限移譲の実績を評価しこれを普遍化しようとしているものであること、そしてまた、都道府県から市町村へこの程度の権限移譲すら行わないようでは「平成の市町村合併」を促進してきた意義が半減することを、都道府県と市町村の双方の関係者は正しく理解されることを切望してやまない。

2章の個別分野についてはまだこの段階でPendingが(特に重要分野で)たくさんあるので微妙に実質的な議論になりにくく,農地について権限移譲を言うだけではなくフォローアップのしくみも重要だ,という指摘や,権限移譲の行き先が主に市になっていて町村ではないことについて議論があったのが目立つところだったかと。で,今回の焦点は「現下の緊急二課題」,つまり道路特定財源と消費者行政の問題であったと思われます。なお,この二課題については,狭い意味での勧告ではない=将来計画に盛り込まれる事項ではないということだそうです。
消費者行政については,趣旨としては,消費者行政の一元化が集権を進めたり,分権の趣旨を乱すような,地方自治を乱すようにしないで欲しい,ということで,どういうかたちで地方を支援するかが最大の問題であると捉えられています。そこで,国は消費生活センターを作ることを「義務付け」するものではなく,あくまで設置を促すべきとして,協力する意思のある地方自治体を支援,全国的な情報収集ネットワークの基盤整備(システムの更新・拡充)を国の直轄事業として早急に進めるべきであるとされています。前回のエントリでも触れましたが,従来型の国庫補助金(定率補助金)の新設は「国の仕事は国で,地方の仕事は地方で」というこれまでの分権の趣旨に反するということで問題があるし,交付税措置といってもいまや,どこかが増えている分どこかが減っているので地方が信じることができない,ということで国にとって必要なら全額直轄事業として進めるべきであるとされています。意見交換ではこの点あまり議論になりませんでしたが,ここは重要なところかな,と。また消費者行政のパートで書かれた次のところは注目に値します。特に後段は重いでしょう。個人的にはもしこのような仕組みが可能であれば次の出先機関の整理のところで重大な論点になりうる「複数の都道府県に跨る事務の処理」の扱いについて,消費者行政という内閣の重要課題を梃子に出先機関の議論に弾みをつけていくことができるのではないか,と思われます。

消費者行政における国の役割は、全国的に統一する必要のある安全基準の策定や全国的に展開する営業許可の付与および取消し等に限定することを基本とし、事故を未然に防ぐための、または事故が発生した際の報告徴収、立入検査や指示、改善命令、営業停止処分等の規制権限は幅広く都道府県に移譲することを基本とすべきである。
この国と都道府県の役割分担を実効あるものとするために、上記の規制権限を県内業者のみならず県外業者に対しても行使する都道府県の域外権限を法令解釈上明確にし、必要な場合には法令改正によって新たに域外権限を都道府県に付与する措置を講ずるとともに、被害拡大を防止するために必要と認めるときには都道府県から国に対して営業許可の取消し等の措置要求をすることができる仕組みを構築すべきである。

もうひとつ,道路特定財源の話については結構議論がありました。これは「委員間で完全に合意には至っていない」問題で,その論点は西尾代理によると以下の通り。まず,猪瀬委員が暫定税率1.4兆円の地方税化(揮発油引取税)を主張し,当初は1.4兆という規模を明示していたものの,西尾代理が頑強に反対するので,そこは触れなくてもいいと。しかし揮発油引取税というところを出して欲しいという主張はあるものの,やはり西尾代理が同じガソリンに対して揮発油税地方道路譲与税・揮発油引取税という三重課税は異常であり,税制としても疑問がある制度ということで断固反対。また揮発油引取税にすれば,軽油引取税の例で考えるとほぼ軽油と同じようになるのではないか,そうすると東京都に傾斜した配分になってしまい,他の地方自治体が同調できないとなってしまうという問題があるだろう,と整理されています。これに対して猪瀬委員は,東京都が得をするというのは誤解で,揮発油引取税にしたシミュレーションをすると東京が損をするから提案したものであり,むしろ東京都庁の説得が大変になるとしています。また譲与税は直轄事業負担金を前提にしているように見えるために,地方の課税であるということで税源移譲という方向性は示すべきではないか,という主張を出しています。他の委員の中では井伊委員が西尾代理の意見に賛成しており,最終的には委員長が個別の税の項目について挙げるのは問題で,この点については検討する,というかたちで引き取っています。委員の感じを見ていると,少なくとも国の方が恣意的に不足分を埋めるというようなことは止めて欲しいように見えますが,それを地方税にするのか譲与税のようなかたちにするのか(あるいはよくわからないけど共有税?)はコンセンサスがないようです。揮発油引取税の話は検討されるべきだとは思いますが,県境で税額が違ってたらどうするんだ,という問題はありますし,何より自動車が移動可能なんで,地域によっては税率の引き下げ競争になるところもあるんじゃないかという懸念は残ります(北海道や沖縄は逆に高くなるかもしれませんが)。まあこの点で全員一致っていうのは常識的に考えて逆に気持ち悪いですが,まあなかなか難しいところなんだろうなぁと。