農地転用問題

現行憲法下で初の首相に対する問責決議案採決。まあ無視されるしどっちでもいい,というタイミングということらしい。このタイミングで出せば出したことで格好もつくし実害がない,ということで選ばれたのだろうけど,同時に「伝家の宝刀」とまで言ってた問責の効果を自ら失くしただけだったのではないか。結果として「問責で首相が辞めない」という実例を残したことは(いやまだわからないけどw),中長期的にみてこの問責というカードを自ら消しただけのような気がする。リスクを負いたくないと思うとカードの効果は薄れるというのはわかってたはずだけども,このカードを今後使うことは考えなかったのかなぁ(ってそら考えたんでしょうけど)。ひょっとしたら将来民主党の首相が参議院で問責を食らったときの対策なのかもしれない,と思ったりして。しかし何ていうか,この問責しかり,池尾先生の人事しかり,そういう行動は民主党の支持基盤を拡大しているのだろうか。少なくともこれまで支持していた人たちが最近の一連の行動を見て支持を止める,ということもそろそろ見積もるべきだと思うけど。
分権のほうでは,「地方分権改革推進要綱」案が出たそうで。自民党地方分権改革推進特命委員会は,この記事なんかをみてると最近「抵抗勢力」としてクローズアップされつつあった感じだったのですが,まあ概ねそういう方向だそうで。で,特に今回言われてるのが農地転用の問題。

『農地転用』大幅に後退 地方分権要綱案 実行段階で骨抜きも
政府は十一日、「地方分権改革推進要綱」案をまとめ、自民党地方分権改革推進特命委員会に提示し、了承された。要綱案は政府の地方分権改革推進委員会がまとめた第一次勧告に対する福田内閣の対応方針。焦点の農地転用の権限移譲では、農林水産省の抵抗で勧告内容から大幅に後退。国道や河川など具体的検討を省庁側に委ねた項目もあり、実行段階で骨抜きになる懸念も出てきた。
今後、与党内の手続きを経て、二十日にも全閣僚による地方分権改革推進本部を開き、正式決定。来年度予算に向けて今月中にまとめる「骨太の方針2008」に反映させる。
要綱案は「政府は勧告を最大限に尊重する」と明記。第一次勧告の三十七項目のうち「本年度中に公営住宅の入居者要件を緩和する」など二十八項目を要求通り実施するとした。
しかし、勧告で都道府県への権限移譲を明記した大規模農地の転用許可権については、食料の安定供給や農地確保を前提に「今秋に予定されている農地制度改革で、勧告の方向により検討を行う」との表現にとどまった。
直轄国道や一つの都道府県で完結する一級河川に関しては「原則として都道府県に移管する」としたが、具体的な移譲対象は国土交通省に年末までに検討するよう委ねた。
特命委の会合では、出席者から「農地は国でなければ(開発から)守れない」など要綱案への批判が相次いだ。

反対の理由としては,地方自治体の開発主義が強いから,農地転用の権限を移譲すると乱開発されて農地が護れない,ということでしょう。まあそういう可能性は根拠なく否定されるべきではないと思うわけですが。個人的にも農地転用の権限だけぽんと移譲するのはあんまり好ましくないのではないかと。分権委が強調しているように,これまで国交省農水省の縦割りだった土地利用を自治体が総合的に実施できるようにして初めてこの転用権限の移譲が意味あるように思うわけですが。
まあ筋論としてはそういうことですが,ちょっと疑問に思ったのは自民党議員の行動。なんで農地転用権限の移譲に反対するんだろう。何かこれまでずっと反対するところばっかり見てたからそういうもんかと思ってたけど,よく考えるとそうでもないのではないか。農地を転用して利益を得ることができる農家(と転用した土地を使う業者)は多くが自民党支持者であって,かつ有力な得票源だと考えられている。また,市町村長も農地転用権限の移譲を求めている人が多く,確か17回の会合だったかで,第一次分権改革について町村会長が「農地転用権限くらい繰ると思ってたのに来なかった」ということをおっしゃっていたかと思います。小選挙区制の選挙制度になったときに,市町村長の支持っていうのは決定的に重要になってくるわけだから,彼らの支持を得ることができる農地転用権限の移譲というのは自民党がそんなに反対する政策ではないとも思うのですがどうなんでしょうか。
考えられる仮説として僕が思いついたのはみっつ。まずは自民党議員が国益(である農地の保護)を優先するというもの。まあアイデア政治学ってやつですな。次に農水省が強い,というもの。自民党議員が賛成に転じようとするところでも農水省がどっかにVeto Pointを持っていて反対できない,あるいは農水省出身の政治家がこの問題で大きな権限を握っている,という可能性。で,最後はむしろ現行制度から得られる利益の方が,権限移譲によって市長村長とか農家から支持を得ることによって獲得できる利益より大きいというもの。最終的にOKを出す前に政治家が影響力を発揮できる状態の方が望ましいということも考えられるし,また既に農家や市町村長から支持をかなり得ていて,権限移譲によって得られる限界的な支持がたいしたことないのかもしれない。まあ他にも仮説はいろいろあると思うのですが,まあ要は考え出すとよくわからんなぁ,と。