第49回会合(2008/5/28)

一週間ちょっと遅れましたがやっと追いつきました。ご案内の通り,第49回会合は一次勧告を決定する会合ということで,基本的にはずっと勧告本文の内容についての委員間討議が行われています(だから結構聞き取りは楽)。この勧告の決定過程を見ると,基本的には丹羽委員長と西尾代理(と事務局?)が勧告本文の案文を作り,各委員はそれに対して修正意見を述べて,最終的に委員長と代理に一任というかたちで修正案文が出てくる,というプロセスの繰り返しになっています。会合の中での代理の発言を聞いていても,代理が自ら省庁との調整に当たられているというお話が出てくるので,少なくとも重要案件については委員長と代理が中心となって案文を構成されているのではないかと思われます。
ということは,「アジェンダ・セッター」の役割はほぼ委員長と代理(特に西尾代理)が担われている,ということになります。まあ審議会っていうのはそういうものなのかもしれないですが,政治学者的にはここはやや困難な問題にぶつかるような気がします。何故かというと,アジェンダ・セッターが特定の個人に限定されてくると,その選好を分析することが難しくなってくると思われるからです。これまで多くの審議会というのは,各省庁に置かれてその事務局が基本的な案文を書くことが想定されていて,だからこそ「省庁の隠れ蓑」という表現があったわけです。最近増えてきた内閣府におかれる審議会でも,「内閣府」の選好がわかりにくいという問題はあるものの,実質的には各省庁からの出向者がいて,パートごとに主に担当する省庁がわからないわけではなかったような気がします。しかし,今回の分権委の場合は(実は前回の分権委もある程度それに近いような感じですが),どうやら委員長と代理が中心的に案を作り,それに対して省庁が修正を求めるという感じになっていて,省庁レベルで責任を持つところがちょっと見当たらないのではないかと。この場合,難しいのは調整がうまくいかないと全ての関係者(省庁,あるいは知事会なども含めて)が敵に回ってしまう可能性があるところだと思われます。どこかの省庁が責任を持つのであれば,省庁間の取引(ポークバレル?)の文脈で一定の妥協を得ることができるかもしれないけれども,責任を持つところがなければそもそも取引自体が成立しないわけで。たぶん郵政民営化なんかもそういう感じだったんでしょうが,あの時は総理がかなり強いコミットメントを発揮して,自らがアジェンダ・セッターの役割を買って出ていたわけです。逆に総理がコミットせずに比較的似たような状況だった道路公団民営化の場合は(まああのときはアジェンダ設定すべき委員会のほうが分裂したという問題はありますが),相手が国交省というひとつの省だけだったのに困難を極めてました。今回は相手が全省庁になるわけですから,それ以上に内閣のコミットメントが重要になるように思われます(が…)。
さて,会合の中身ですが,基本的に字句の修文ということで,(少なくとも僕から見て)実質的ではない話にもかなり時間が割かれてしまう印象が。最終的な修文箇所としては13箇所だと思いますが,重要だと思われるのは国保の話と道路の話の二つかなぁ,と。国保の話は露木委員からで,元の勧告案が「都道府県単位の再編」という表現を使っているのに対して,それでは現在の都道府県に限定しすぎではないか,都道府県を越えたより広域の再編の可能性に含みを持たせた表現に変えたということ。*1それから道路については,猪瀬委員が補助金を含めた道路関連歳入と道路歳出を比較した表を持ってきて,「現行制度を前提にすると財源へのインパクトが少ない」ことを示し,現行制度,特に国庫補助負担金の制度を見直すことを強調すべきだという提案をして,それが受け入れられた感じです。ちなみに本人も自画自賛されてましたが,この表は確かにわかりやすいし,なかなかインパクトがあるような。まあ授業で使えるわけでもないし,どこで使うんだといわれると難しいですが。

個人的にむしろ問題だと思われたのは,あまり議論されなかった二点。まず冒頭で西尾代理からご説明があった消費者行政についての案文変更ですが,これは前回のエントリで,以下のように書いたところがばっさり落ちてます。

従来型の国庫補助金(定率補助金)の新設は「国の仕事は国で,地方の仕事は地方で」というこれまでの分権の趣旨に反するということで問題があるし,交付税措置といってもいまや,どこかが増えている分どこかが減っているので地方が信じることができない,ということで国にとって必要なら全額直轄事業として進めるべきであるとされています。

この点については関係三省庁(どこだか明示的にはお話がなかったのですが,財務・総務・内閣府?)からの修正が相次いで,結局調整がつかずに落とすことになったそうです。うーん,国がやろうとすることで無闇に地方を使わない,という当初案の理念は良かったと思われるだけにちょっと残念なところですが…。まあその後段の,「複数の都道府県に跨る事務の処理」に関するところはそのままだったようなので,この点がこれからどのように梃子になりうるかを注目したいところです。
もうひとつは,土地利用関係です。一次勧告後の報道を僕がネットで見ている限りでは,この土地利用関係にキチンと触れている報道は皆無だったように見受けられます。触れるとすれば農地転用の話について農水省の抵抗が厳しい,って言うのとセットで書くだけ。しかし国交省が都市計画を所管して,農水省が農振計画を所管し,両者のゾーニングがかぶったりかぶらなかったりでぐちゃぐちゃになっているのを一本化して考えるっていうのは,これまでしばしば必要だといわれてきたのにできてこなかった話です。ややこしくてわからないのかもしれませんが,この点について全く触れないのはちょっと残念なお知らせだな,と。とはいえ,委員会の方の議論でもこの点について必ずしも深められているわけではありません。都市計画であれば都市計画審議会を経由した都市計画決定のプロセスがありますし,農業振興計画であれば農業委員会の位置づけは極めて重要なものになっています。土地利用をこういうかたちで「抜本的に」見直すようなことをしている一方で,農業委員会については現行の枠内で考えるというのはちょっと片手落ちではないかと…。神門先生の議論でもありましたが,理想的には商業地・住宅地・農用地等も含めて地域のなかで一体的に土地利用を考えるところがあり,そこで農業者も含めて土地利用を決定していくのが大事だと思われるのですが,そこの踏み込みはもう一歩だったような気がします。

日本の食と農 危機の本質 (シリーズ 日本の〈現代〉)

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しかし報道についてはどうなんですかね…。個人的には報道に対する疑問で一杯です。勉強しないというのはもう仕方ないとしても,何を言ってるのかよくわからない。典型的にはこの北海道新聞の社説毎日新聞の社説ですが,例えば道路の移譲で「踏み込み不足」という表現を使うのですが,どこまで行ったら踏み込みが足りているのか,そこに根拠はあるのでしょうか。個人的には基幹的なネットワークは国が整備するべきだと思うし,それを考えたら現状でも本当に国の部分が多いか疑問なしとはできないのですが,全く根拠無しに「踏み込み不足」なんて言っちゃう姿勢がいまいち理解できません。あるいは直轄事業負担金とかの話で踏み込み不足って言ってるのかなぁ…だったら僕もそうだと思うけど。
後気がつくのは,今回の勧告が「枝葉」だという意見が多いとこでしょうか。こういう識者の意見とかそうなんでしょうが,たぶん税財源の改革をしろ,ということなんでしょう。しかし地方の側がこれを言う理由がいまいちわからないところです…制度の体系とかよりも要するにカネが回ればいい,ということなのかもしれませんが,何を根拠にしてどういう税財政改革が望ましいか全くわからないところがなかなか怖いっす。最終的な目標のひとつである「義務付け・枠付けの緩和」は個別に見たらまさに枝葉にしか見えないけども,それこそが地方を縛る武器になりうるんだ,ということをこれから分権委がどのくらいアピールできるかというのも重要かもしれません。

*1:しかしながら実際,この点について勧告案と実際の勧告を読み比べて違いに気がつく人がどのくらいいるんだろうか…。