第41回(2008/4/8)

天下りをなくすべし,という主張はもっともだと思うけれども,天下りの定義と言うのは能力のない人が出身だけを頼りにして不相応なポジションに就く,ということなのではないだろうか。同じ政党の中で対象となる人の専門性を判断するように委任を受けた機関(同意人事小委員会)が専門性を認めているのに「天下り反対」といって同意を拒否するのは組織としての体をなしてないと思われる。もし能力関係無しにある人の出身だけを取り出して,そこからあるポジションに就くことを「天下り」と言ってるんだとすれば,二世議員に言われるのは本当に片腹痛い。せめて二世議員はもとより官僚出身議員も全くいない政党がそういうならわからんでもないけども(って共産党はそういう趣旨なのか?)。自分の研究をしている中で,(ちょうど100年くらい前のように)日本でも一度は選挙を通じた政権交代をすることは望ましいとは思うけども,それをこの政党に賭けなくてはいけないのかと思うとホントに悲惨な気分になる。この調子じゃ分権の議論だってまともに扱ってもらえるとは思えないし。
まあそれはそれとして,今回の分権委は国土交通省の道路・河川関係。あんま関係ないですが,最近分権委の動画の調子がよくないような気が。前回ははじめの方が砂嵐状態だったし(後で見たら直ってた),今回は1時間50分あたりから音声が切れてその後聞こえなくなるという感じ…ちょうど河川の意見交換が始まったところだったので,もう今回は道路でいいや,と思っては見たものの,試しにと思って一個バージョンが落ちるWindows Media Playerで再生したらブチブチ言うものの聞き取れる,という結果に。動画の調子が悪いのは最近視聴率が低いからでは…という疑いは持たないようにしましょう。
で,道路と河川ですが,これはほとんど同じ構造の議論をしているので極めて理解しやすいと思われます。両者の違いといえばは災害をどう考えるかというところくらいでしょうか。まあ議論自体が本当に理解しやすいものなのかはよくわかりませんが,並べられてるからわかるところもあるのではないかと。
今回の基本的な議論としては,現在地方整備局が行っている直轄の道路・河川の管理を地方(=都道府県)に任せることができないか,というところから出発します。ここで重要なポイントは,道路の「整備」と「管理」を切り離して,管理の方だけ地方に任せるということ。基本的な議論をまとめると,大体次のような感じになるのではないかと。

  • 分権委の主張:現在地方が都道府県道の管理や直轄区間外の一般国道の管理を既に行っている。だから,直轄部分の管理についても,ヒトとカネが移譲されれば地方で行うことができる。
  • 国交省の反論:直轄部分は複数の都道府県に跨る基幹的なネットワークを形成するものであり,そこからの受益は一都道府県の範囲を超える。便益のスピルオーバーがあることを考えると,都道府県に任せると管理水準が過小になる,実際に現在の国道と都道府県の管理水準は大きく違う。

あんまり明示的には出ていませんが,おそらく分権委側の根拠としては,範囲の経済があるから地方に任せた方が効率的だよ,というのに対して,国交省の側としては,スピルオーバーがあるので意思決定を地方に任せると,最適水準の管理が達成されないからそもそも管理の意思決定を任せることができない,というもの(法定受託事務にすればそもそも管理水準を国交省が決めるのではないか,という論点もありうるような気がしますが,たぶん法定受託事務であっても「地方の事務」というところにさしあたり力点を置いているということでこれはパス)。国交省の反論は,それなりに理屈が通っているような感じもしますが,これに対する委員の反論はだいたい次のようなかたち。

  • 基幹的なネットワークを形成する道路の管理水準を(基幹的なものとして)適正なレベルに保つことは地方にとっても利益がないわけではない,さらに,現在の管理水準の違いは単に機能の違いによるものであって,それを根拠に持ち出すことは適当ではない

国交省的に地方側が管理水準を過小にするとすれば,既にある道路でその都道府県が単に物流が通過するだけになっていて,他の地域ではちゃんと整備しているなら自分たちは手を抜いてもいいか,という話なのかもしれません。しかし一方で,管理水準が低いせいであんまりそこで事故が起きると結局批判されるのは当該地方自治体ということを考えると,別に管理をおろそかにするわけではないだろう,という委員の再反論もそれなりに理解できる気がします。ちょっとややこしいのは,これが「管理」に限定された話だからではないかと。もし「整備」であれば国交省が言うように整備水準を過小にするのは十分に予想できるわけですが,「管理」だけを切り離すといまいちイメージがつかめないわけで。
分権委側の整備・管理を分けると言う主張に対して,国交省は「直轄部分について国の役割を限定するかたちで見直す」ということを強調することで,「より正当な見直し」であることを主張します。これはちょっと前に日経新聞で「提言に沿っていた回答」とされてたところのようですが,それが具体的にどういう見直しなのかがよくわからない。とここで西尾委員のターンが始まります。長いですが,これまでの議論を踏まえつつこの話の現状を理解するのに極めて重要だと思いますので。

我々の委員会が道路・河川について国と都道府県の役割分担の境界線を見直してもらいたいと申し上げている観点は地方分権を進めるという観点と行政改革を進めるという観点と両方あるわけですね。地方分権を進めるという観点から言えば,整備と管理を分けるというよりは,そもそも対象のものを,道路をきちんと国が管理するものと都道府県が管理するものと分ける,という方が本筋だと私思うんですよ。ただ,この問題については,自身が委員だったわけですけど,1995年からの地方分権推進委員会のときに,最後に当時の橋本首相から「重ねて第五次勧告を作ってくれないか」と,「自分は中央省庁の再編をやったけれども国土交通省が巨大すぎると批判され,出先である地方整備局が巨大すぎると言われている,それをもっと縮小するのが自分の考えとしては前提なんだと,その縮小策のひとつとしては国が直轄でやる事業を減らす以外ない,その案を考えて第五次勧告で出してくれ」という要請を受けましたので,道路・河川について言えば対象を限定したらどうですか,というのを出したわけです。そしたら猛反発を食らったんですよね。当時の建設省が反発しただけではなくて,自民党政調会の道路部会の人が強硬に反対されて,私のやろうとしたことは挫折に終わったわけです。
そういう歴史をもっているものだから,この委員会が改めてスタートして,委員会の委員の人も事務局の職員たちも,また範囲を縮小しろといっても抵抗するだろうと思ったんでしょうね,今度は別の角度から整備と管理を切り分けていただけませんか,こういう話が出てきたと思うんですよ,道路については。そして,整備を切り離していただければ,ということになると,それに従事している整備局の職員の部課はこれだ,ということがわかりますし,何人くらいの職員が当たっているかもわかるし,それに投じられている予算額も大体見当が付く。それが国から都道府県に移るということになれば行政改革ということになるよね,と。分権にとってどれだけ意味があるか,ないことはないでしょうが対象をキチンと分けたほうが分権にとっては意味がある。そのことを承知の上でこういう提案をしたんじゃないかと思うんですね,まあしてるんですね。それに対してみなさん(国交省)は,それを,整備と管理を切り分けるのは合理的ではないんだ,と明確に答えておられて,やるなら対象を分けるべきだとおっしゃる。そうすると対象を分けるのをどのくらいのことをお考えになってるんですか,というのが最大の問題なわけですね。この管理を移してくださればこのくらいの職員数・予算規模って検討が付いてるわけですよ,こちら側は。今度対象を分けるというときにどのくらいの規模になるかというのはちゃんと考えてらっしゃるんですか,そういうことが大問題なわけですね。そこを一切皆さんは示しておられないから,「分けます,これから検討します,関係のご意見も聞いて分けます」と言ってるだけで,どう分けるのかということについて,何も示してらっしゃらないから,これ乗れる話かわからないですよね。我々もこれから勧告までに何を言うべきか考えないといけないわけですけど,これではなんとも判断しようがないですね。
私が前の委員会をやったときは,ご承知だと思うけども,現在の道路法の前の旧道路法のときに,一級国道・二級国道とあったものが,一般国道になっている。旧道路法の一級国道に限定したらどうですか,といったわけです。そうすると二桁国道までですよね,番号にすれば。三桁国道からは都道府県に移管したらどうですか,とこう申し上げたわけですけど,そうしたら猛反発です。今度は「限定します」ってどういうことをお考えになってるんですか。
(もちろん強調は引用者)

国交省の返答は,いま道路特定財源問題でとても大変で,この問題の影響の大きさを考えると地方の意見をキチンと聞いてからじゃないと回答できない,というもの。これに対してまだ西尾先生のターン。

われわれはまだ整備と管理を分けて,これで受けろ,と言う主張を貫くのか,整備・管理は一貫で対象で分けると言うそちら側の提案に乗った勧告にするのか,これから真剣に考えなくてはいけないところなんですけど,今日みなさんが出してこられたものでは関係都道府県の意見を聞きながら考えていくと書いてある。ここが大問題なんですよね,実はね。私はあんまり国の方を信用していませんが,都道府県の方も信用していません,正直なところ。これまでなんでこんなに国道が増えてきたのか,都道府県側が国道への昇格を求めてきたからです。それで国道が拡大してきたわけです。災害が起こる,じゃあこれは国でやって下さいと県が頼んで,上がってくるから国の仕事が増えてきた。これからも,今でも知事会のこの件に関する意見は,総論はこう書いてありますが,知事会内で意見が分かれていることが付記されています。実際に47都道府県の知事ひとりひとりに聞いていけばかなりのばらつきがある問題だと思っています,その通りだと思います。これを各県ごとに,「○○県さんこれでよろしいですか」とやっていけば,「国でやって下さい」と言う意見が出るんですよ,これが現実だと思います。
そうではなくて,分権改革を進めていくと言うことであれば,知事会全体と国土交通省が協議する場を作って,そこに知事会が何人かの知事を代表で送り込んできて,詰めた議論をしましょうと。そのとき各県は「この範囲まで県に下ろしてもいい」と思うかどうか意見をアンケートで取ったりするのはいいと思いますが,ひとつひとつの県と交渉していくのは私は絶対止めていただきたいと思います。それをやったら下りません,仕事が,ほんとに。そんなことわかってらっしゃっていってるんですよね。各県ごとにやっていったらそんなに下りないですよ。全体的な協議の場でやっていただきたい。そこで各県がどう答えたかというのが完全にオープンになるという前提で,協議をしていくと言うやり方でやらないと下りません。私そんなに都道府県信用していません。だから,ぜひそこは,各県ごとの意見を聞いていきますと言うのはやめていただきたい。
(○○県っていうのは適当な名前が複数入ってたのですが,意味ないので○○にしました)

個別に知事の話を聞いたら知事としては自分のところだけは国で面倒見て欲しいと思うだろう,という議論。それはおそらくもっともなことでしょう。囚人のジレンマみたいなもんで,他の都道府県はみんな自前でやって,自分のところだけ国にやってもらえればそれが一番ハッピーなわけですから。しかしそれじゃあまずいだろう,全体として考えるべきだ,というのが西尾委員の趣旨。国交省は,知事会との折衝の経験がないということで,個別の都道府県と折衝したい,と言う話をするわけですが,最後にもう一押し。

現在国が管理してきたものを縮小して,少し都道府県に持ってもらいましょうと腑分けをしていくときは,国交省としてひとつの基準を立てて整理すると思うんですよね。それが私の旧一級国道と旧二級国道であるかどうかではないかもしれませんが,ここの線でというための基準をいくつか立てられると思います。,それをまず先に決めて頂きたい,そしてそれでいいかということを知事会と…出される委員会と徹底して議論することが必要じゃないか。しかし,その基準を個々の道路に当てはめていったときに,どこまで入るのかね,と言う問題はあると思うんですよね。そこで各県はどういう判断をするか,どう望むかを聞いていく微調整の問題は必ずある。その微調整のことを拒否しているわけではないんです。でも原理原則をまず全体に議論していく,そこが大事だと。この路線について○○県さんやりますか,と言うやり方をやったら絶対にこれ進みませんよ,ということを言っている。

で,国交省は原理原則といっても個別の事情もありますから…ごにょごにょ,という感じ。西尾委員のコメントは全くその通りだと思うのですが,見直しの時期や方法について,結局何の約束や決定もできなかった,というのは若干痛いのかもしれません。まあ決定権がないのでできない,という話になるのでしょうが,積み上げのない会議というのはやはり不毛なわけで…。また,河川のほうで小早川委員もコメントしていましたが,「直轄の見直し」というときに,道路/河川の直轄区間/直轄区間外の境界を見直すのか,一般国道都道府県道あるいは一級水系/二級水系の境界を見直すのかは必ずしも明らかではありません。河川局の答えとしては両にらみで見直していく,ということでしたが。
河川の議論も大体同じで,整備・管理と言う主張(分権委)があり,そうではなくて直轄の範囲を見直すべき(国交省),じゃあどの程度見直すのか(分権委),まだ答えられない(国交省),という感じ。ただロジックの部分で,国交省が災害に備えるには平常時の管理が極めて重要だ,というところを強調し,委員の側が災害についてはナショナルセンターのようなものを設置するべきだ,と議論するところがちょっと違うかな,というくらいかなぁ,と。しかしこの議論についてはまだいろいろと難しいところがありそうです。委員の中でも猪瀬委員や松田専門委員は「管理を国と都道府県がやってること自体がそもそも二重行政で排除すべき」という主張をされているので,基本的には整備・管理は一体でやった方がいいだろうという西尾委員の主張とは若干違うところがあり,委員間の調整も必要,というところでしょう。
あとは暫定税率の日切れを受けて,暫定税率を法定外税として地方で徴収して道路財源に回して事実上の税源移譲を行うべきだ,とする猪瀬委員の提案(猪瀬委員提出資料)は興味深く,検討されるべきではないかと思います。各都道府県できちんと税を取れるか(政治的圧力に負けて税を取らなくなるのではないか)という問題はあるでしょうが,都道府県の域内で都道府県が行う道路整備については中の財源でやるというのはそれなりに筋が通った議論だと思いますし(まあ県境のGSは気が気ではないでしょうが)。
それからヒアリングのあとに,土地利用関係を一本で考える前提として,森林計画法関係の質問を農水省に投げますよ,という報告が事務局から出ていました(土地利用関係)。これも西尾委員が元になっているようですが,ゾーニングを定める都市計画法や農振法,開発行為を定める各種の法律を省庁の縦割りではなく一緒に考えるという議論ができればとても画期的なのではないかな,と思うところです。次回から一次勧告に向けた議論ということだそうですが,その中で土地利用関係がどのように扱われていくかは結構注目してみたいところです。