地方債二題

ミニ公募債

ボーっとJ-CASTを見ていたら,「飽きられた?ミニ公募債 好調債券市場の「負け組」」なる記事が出ていた。たまに硬めのネタもあるものの,J-CASTが地方債の話(しかもミニ公募債!)を扱うというのは,なんだか驚き。発売当初(2003年)は「流通性に乏しいなどのデメリットもあるが、地域の銀行や信用金庫、証券会社などで買うことができ、発売当初は銀行預金を上回る金利の魅力もあって、発売初日に完売するほどの人気だった」ものの,最近は売れ残りも出ていると言う話。まあ去年頃からボチボチ出てたみたいですが。ただその理由はどうなんすかねぇ。

自治体側の情報開示が甘かったり、個人向け国債のほうが説明しやすく売りやすかったりしたこともあって、販売する金融機関側の力の入れ具合が緩んできたことも影響している。
兵庫県は2008年度に発行を予定しているミニ公募債の総額を、07年度の250億円から200億円に減らす。売れ行きが鈍ったのは「金利の低下で他の金融商品との競争力の点で見劣ることが考えられる」(財政課)とし、「(発行額は)しばらくこの程度になると思う」としている。
ある自治体の関係者は、「金利は関係ない」と話す。たとえば07年夏のサブプライム問題の発覚以降、確実な投資対象として国債に資金が集まった。地方債の金利国債にほぼ連動するので、「金利が下がって売れないのであれば、個人向け国債なんかも、たくさん売れ残っていいはず」というのだ。
その関係者は「新しい金融商品が続々登場して、ミニ公募債はすでに飽きられている」という。ミニ公募債の特徴のひとつに資金使途が明確になっていることあるが、最近発行されたなかには「借換債」も含まれるようになった。

物によっては個人向け国債よりも金利低いのあるし,逆に今までなんでそういう国債より金利低いものが売れていたのか,というのを考えるのがむしろ重要なのではないだろうか。「金利が下がって売れないのであれば、個人向け国債なんかも、たくさん売れ残っていいはず」っていうのは些か乱暴すぎるような気がしないでもないけれども…。ただ,もし仮に,「借換債」が売れ残るということだとしたらそれは極めて興味深い。地域住民(?)が地方債の使用先を見て,若干商品としての魅力は落ちるものの購入している,ということならもっとその役割が見直されるべきだし。まあただ地方債協会で19年度の発行実績を見ると,借換債を出しているのは大阪市横浜市・北海道・埼玉県でそのほとんどが横浜市だから,まだ分析は難しいかもしれないが。

しくみ債

もうひとつは最近よく聞く(ものの実態はいまいちよくわからない)自治体のしくみ債について。時事通信の官庁速報によると以下の通り。

◎適切な金利設定や説明責任を=仕組み債導入の留意点提示−地方債協会研究委
財団法人地方債協会の「地方債に関する調査研究委員会」は、所定の条件に当てはまると金融機関への支払金利が上がる仕掛けが組み込まれた「仕組み債」などの特徴を自治体に紹介し、留意点を示した報告書をまとめた。ハイリスク商品も含まれるため、導入する場合、支払金利が変わる条件や金利の設定理由について複数の金融機関から詳しく説明を聞き、比較した上で契約するよう提言。また、導入目的やリスクについて、議会や住民への説明責任を果たすよう求めている。
最近、銀行等引受地方債では、固定金利の地方債だけでなく、(1)デリバティブ金融派生商品)を組み込んだ仕組み債(2)短期の指標金利などに連動して支払金利が変わる「変動利付債」―を導入する自治体も出ている。研究委の調査によると、2007年7月末現在、仕組み債は17団体、変動利付債は90団体が導入。仕組み債は9団体、変動利付債は7団体が導入を予定している。
仕組み債のうち、長短期金利差が一定値を下回ると地方債の支払金利が上がる「金利デリバティブ型」では、ほとんどが20年物と2年物の金利差を指標にしている。半年に1回など契約の際に決めた判定日の長短期金利差によって、金融機関への支払金利が決まる仕組み。導入団体の単純平均では、当初の支払金利は1.102%だが、所定の条件に当てはまると4.645%に上がる契約だった。
一方、為替レートに応じて支払金利が変わる「通貨デリバティブ型」の導入団体は、すべて円とドルのレートを指標に使用。一定水準より円高になると、金利が上がることになる。

地方債に関する調査研究委員会」がまとめた報告スライドでは,時事通信の記事でも書いてあるとおり,しくみ債のほとんどが2年ものと20年物の金利差を指標にしたものということ。この長短金利の差が小さすぎると金利が高くなり,差が一定以上の大きさであれば金利が安くなるということ。だからまあ現状では短期金利が上がったり,長期金利が下がりすぎたりすると金利が上がる,というわけで,最近の株安・債券高の流れの中で金利差は次第に縮小している中で,スライド22ページのグラフを見る限り,一部の自治体ではもう高いほうの金利にいってるような感じがする。あと,為替レートでトリガーを作るしくみ債というのもあって,こっちの方では一ドル80〜90円くらい(ドル連動だそうです)がトリガーだということで,さしあたりまだ距離があるかな,というところ。他には多くの地方自治体で変動利付債を導入していて,これは変動利付国債みたいな商品に銀行手数料を上乗せするものが多いようです(一部デリバティブを入れてるところもあるそうですが)。
こういうしくみ債に対する評価はすごく難しいと思われる。地方自治体としては,財政が厳しい中でなるべく利子負担を減らしていこうと思うのは当然だし,地域住民だってその方が有難い。しかしどの程度リスクを取っていいのか,もし見込みが外れて逆に高い利子を負担することになったときに誰が責任を取るのかという論点だって重要になる。もちろん見込みが外れて高い利子を払った分と,普通に固定金利でやっていた分の差額はコストとなって一般財源から出て行くわけで。報告では,金利が上がるときには税収も上がるから増収で対応できるし,納税者の極端な負担増ではないですよ,と言ってるわけだが(スライド20ページ)ホントにそれでいいもんなんだろうか,と思わないでもない。何よりこれって多くが証書形式も含めた縁故債でやってるわけで,その情報がきちんと公開されているかどうかよくわからない。やっているところがわかれば,議会の議事録でも見てみようかなぁ,と思ったりするものの,報告書にはどこがどういうしくみ債を扱っているかの類型すら出ていない。やましいことをしているわけではないはずなんだから出せばいいのに,と思うわけですが…。まあ都道府県のほとんどがやっているそうなので,適当にピックアップして地方議会でどういう議論されているかを見てみる,というのもありなのかもしれませんが。