「社会を変える」と研究

新学期から始まる「地方自治」の授業で学生のみなさんに勧める本ということで,NPO法人フローレンスの駒崎弘樹さんの『「社会を変える」を仕事にする』を読む。率直に言って,自分がいい本を選んだなぁと。趣旨としてはもちろん「地方自治」においてNPOがどのような役割を果たしうるか,ということを考えるときに,病児保育のNPOを立ち上げて今日まで運営してきた駒崎さんの経験から学ぶ,ということなわけですが,それを措いてもこの本はとても面白い。面白い,という言い方は微妙なのかもしれないけど,本の内容が素晴らしいとか駒崎さんが立派だ,というよりも,駒崎さんの経験やその時々の想いを書いているこの本が読んでいて興奮を覚える→面白い,と表現する方がなんとなくしっくりくる。
何といっても道のないところを切り開くパイオニアとしての面については本当に立派だし尊敬できると思う。わりと淡々と語られる様々な障壁,例えば当初からの資金であったり,地域の人たちとの関係性を築くところだったり,専門性だったり認知度の上昇だったり…そして一番重要な障壁として「どのように踏み出すか」,そういう障壁をどのように乗り越えてきたか,というところは特に後に続く人たちにとってとても参考になると思う。でもきっと駒崎さんのような人は本当はたくさんいるのではないかと思う。様々な障壁を乗り越えて,何千か何万分の一くらいの確率でキチンと成功できた人がいると考えて,この確率を少しでも上げていくような努力をしていく,ということが必要なんだろうなぁ,と。自分にひきつけて考えると,本の中にも何度も書かれている,行動の縛りとセットになった「補助金」というシステムが典型的で,地方分権がそれを考え直す契機になればと思うのですが。地方分権といっても,別に地方に任せたら地方が須らくマジメにやってよい帰結が生まれるというわけでもないでしょうし(本の中でも無責任な地方公務員が出てくる),例えば補助金を止めて児童手当に上乗せしてしまうというような議論まで含めて,ということですが。
しかしこの本を読みながら,僕のような研究者が何をすればいいのか,と思います。もちろん個人として参加したい活動に様々なかたちで参加する,というのはあるけどそれは置いといて。こういう共感できる活動をしているNPOを応援するような文章を書くということはあるのかもしれない。でもそれは単に宣伝というだけで,僕らなんかよりもマーケッターの方々の方がよっぽど上手いだろうし,ある活動を積極的に評価するという結論ありきで「科学的」な装いをまとった論文を書こうとしたとしても,それは研究者として欺瞞に満ちた行動なわけで,そんなことをするのはまさにひいきの引き倒し。結局のところ,いつもやっていることと同じように,可能な限りデータを収集・分析した上で,評価するべきところは評価し,問題だと思われるところは指摘していく,ということしかできないだろうし,きちんとそれをやっていくことが重要なんだろう。データを集める以前のリサーチデザインの段階で,駒崎さんの本のような問題意識を参考にするということも大事だと思うけど,そこでただその問題意識を被せるだけではなくてどれだけ相対化してリサーチデザインを建てられるか,きちんと相対化がなされている研究の方が,(対象となる)NPOにとっても意味があるものになるんじゃないか,と一研究者としては思ったりするのですが。ミクロデータに近いようなデータを集めるのがなかなか難しいのかもしれないけど,大学でゼミを持つことになったら学生の方々と一緒にそういう調査からやってみたいなぁ。

「社会を変える」を仕事にする――社会起業家という生き方

「社会を変える」を仕事にする――社会起業家という生き方