第42回会合(2008/4/17)

出先機関シリーズは前回で終わり,今回からより高位の職位につく官僚の人々との「公開討議」。第一回目は幼保一元化,福祉施設の最低基準,生活保護に関して厚生労働省文部科学省から局長・審議官クラスが出てきて議論ということで。しかし駒崎さんの本を紹介した直後にこれを見ると正直何というか凹む。「何かをやってみる」ことが須らく好ましいとは思わないけれど,現行制度に問題があることを自らで認めていたとしても頑なに「変えるべきではない」とするのは一体何なんだろうか。
まず幼保一元化問題と「保育に欠ける」という概念の再検討という問題から。ここでは幼保一元化の話は余りクローズアップされず,「保育に欠ける」の話が中心となっていたかなと。この問題について委員側の指摘は,大体次のようなところ。

  • 制度の創設から社会経済環境が変わり,行政が利用者の優先順位などを判断してサービスを供給する措置制度が現状に対応できなくなっていることから,「保育に欠ける」という概念を見直して利用者と施設の間の直接契約方式も考えるべき
  • 概念を見直すと費用が増大し,財源の手当てが難しくなるという理由で結論を先送りすべきではない

現在のところ,このテーマについては社会保障審議会の少子化対策特別部会で検討されている,ということなのですが,厚労省の回答としては,この特別部会で議論されています,というもの。ただ,審議会なので積極的に議論の方向付けを行うということはしないそうです。やや不思議なのは,現状で保育所の供給が追いついていないし,多様なニーズにも対応できていない,と自ら認めていて,それに対して「毎年予算が増える中で戦力の逐次投入をしてきて解決できなかった」と言っているにもかかわらず,あくまで現状維持ベースの議論に終始するところ。予算の割り当てが今後ものすごく増えていくなら現行制度を拡大させるという方法もありうるのかもしれませんが,これまで何十年もそんなことができなくて,これから一気にできるとはちょっと思えない。その可能性があるならばそういう風に言うべきだし,ないと判断するならば,現行制度のコアである「保育に欠ける」に言及せざるを得ないのではないかと思うのですがどうなんでしょうか。
認定子ども園については,今調査中でこんな問題があります,というくらいのものだったのですが,次の最低基準の問題とも絡んでひとつ興味深いやり取りが。それは西尾代理が,認定子ども園制度で規定されている「参酌基準」というものについて質問したところです。西尾先生は,これは指針を参考にするという意味か指針に基づくという意味か,言い換えると助言なんでしょうか命令なんでしょうかその中間なんでしょうか,という趣旨の質問をします。つまり,参酌基準というのが省令その他で全国絶対に守らないといけないナショナル・ミニマムか,それともスタンダードか,ということは大きい問題で,スタンダードで,特段自治体が基準を定めなければこれに従いなさい,ということであれば,自治体の方が自分の判断で条例を作って基準を作るのは自由で,そうでないところならこの基準に従いなさい,ということならミニマムとは違う,そういう幅を持った概念だろうと指摘します。それに対する回答(文科省?)は以下の通りで,まあ少なくとも僕には西尾先生の言う「スタンダード」としてしか理解しづらいわけですが。

「幼稚園・保育所の認可については国が最低基準を定めているが,今般の認定子ども園制度においては,地域の実情に応じた対応を可能にする観点から,国が示すのは参酌基準としている。従って都道府県ではこの基準よりも厳しい認定基準も緩やかな認定基準も設定することが可能であることから,当該基準の策定においては議会における十分な議論を経ることが必要であると考える。」

実はこれは次の福祉施設の最低基準の問題に関わってきます。福祉施設の最低基準については,厚労省の回答としては,「確保すべき最低限の水準は地域によって異なるものではない」の一点張りみたいなところがあって,委員側が最低基準を「参酌基準」のように理解するようにできないのか,という問いかけをするのに対して厚労省が「それはダメ」と言い続けるのが繰り返されます。僕にはよくわからないのですが,厚労省の回答の仕方というのは,「最低基準を各自で緩めてはダメなのか?」と聞いているのに,「全て市場に任せたら格差が出る」みたいな答え方になります。いやいや最低基準を完全に撤廃するような首長候補は選挙に負けるだろう,とか思ったりするわけですが,AERAの記事まで持ってきて最低基準はビタ一文負けられない,みたいな話になってます。小さい市町村はそんなの守れない,といわれても,そういうところは保育ママのような感じで供給の手法を拡げるという回答,とまあそんな感じで続くわけですが。確かに,再分配的な福祉政策は地方が一生懸命やるインセンティブは少ないと考えられるので,中央で一律の最低基準を作るのはそれなりに意味があると思うわけです。この点からすると老人福祉施設の最低基準をあんまり下にすると,地方政府が負担を減らすために安かろう悪かろうの施設を作るという懸念はなくもない。しかし,まず最近の保育所に関しては本当に再分配的といえるのだろうかと。保育所への入所にはもれなく税金を払ってくれる親がついてくるわけですから,地方政府にとっても高い基準で(競争的な価格設定の)より良い施設を作るインセンティブは十分にあると思うわけです。また,老人福祉施設についても,再分配という意味で安かろう・悪かろうの施設を作る可能性はあるものの,これだけ高齢化が進んでいると高齢者の票というのは大変なものなわけで,老人票を無視した施策が首長に可能なのかというとちょっと疑問ではあります。まあこういう理屈やその理屈に再反論する理屈も厚生労働省の答えにはあんまり関係ないわけですが…。
おそらく,次の猪瀬委員のコメントが重要なのだと思います。時間切れであまり深められませんでしたが…。しかしこのやり取りはちょっと面白くて,なかなか厚労省の考え方がよく出ています。分権を進める側から見ると,結局その「熱心か熱心でないか」は地域が決めることなんだよ,という話になるわけですが。とはいえ,駒崎さんの本でも指摘がありましたが,地方に任せたところで地方の方が無関心だったり国と同じようなことをすることもありうるわけで,不十分な水準の補助金で事業者の経営を縛って結局経営を立ち行かせなくしてしまうのであれば,補助金分対象者に還付したりすることも考えたっていいと思うのですが(イギリスのChild Tax Credit?)。

(猪瀬委員)
簡単な話で言えば,3000億円地方に呉れちゃえばあなた方が決める必要がないんだよね。3000億円だよね,だいたい厚生省が地方の保育所補助金を,3000億円持ってる。それを地方に渡してしまえば,東京の認証保育所じゃないけど,地方の基準で自由にやれるわけだから。サービス内容・建物の基準も含めて,結局補助金を3000億円握ってるからなんだよね。それを地方の一般財源に渡してしまえば話は終わりなんだと思うんだけど。
厚生労働省
自治体によって子どもの対策に熱心なところと熱心でないところも必ずある。みんな同じ熱心さではないんだろうと思います。そういう意味で,どこに住んでいても一定のサービスを受けられる形を日本全国について,ある意味で下支えみたいなルールがいらないかといわれると…全部お任せにしろといわれると,そこのところはもしかしたら特別部会でもそういう方はおられるかもしれませんし,そういう意見を頭から否定して国が全部仕切ると考えているわけではありませんが,そこはそういう枠組みが,国と地方が一緒にやっていくという枠組みが要るのではないかと思っております。

で,「公開討議」の最後は生活保護。露木委員がちょっと不快感を書かれていましたが,まあさもありなんというか。趣旨としては,地方の方が「再検討しよう」といってるけども再検討されると困るのはあなた方でしょ,というようにしか聞こえなかったのですが。それは町村で生活保護事務をしていないことに対する批判(皮肉?)や有期保護の考え方に対する市町村の実務者からの疑問の紹介,あとは医療扶助制度を医療保険でカバーしようとしたときの県・町村・国保(あと被用者保険も)の負担増などがある,というところですが。あとは首長は生活保護の負担率の話をしようとしない,ってのもありました。それで厚労省側と首長の委員がどちらも「見直しはやぶさかではない」と言い合う,みたいなまあなんともいえない議論が…。結局取り上げる論点がどれなのか僕にはよくわかりませんでした。しかしこれは生活保護に限らないのですが,厚労省の話を聞いていて不思議に思えて仕方がないのは,「とりあえず貴省内で何とかすべきじゃないの?」ということがたくさん出てくるところ。例えば生活保護では医療扶助を保険で見るときに「国保の方が適用除外にする」とか「国保財政がきつくなりますよ」ってそれは誰の所管だ,という感じの主張が平気で飛び出してくるわけで…。まあそういうものだと思われているのでしょうが。
「公開討議」終了後に例の「条例による事務処理の特例」がらみの話が。西尾委員長代理から,これまでの特例のプラクティスの積み重ねを踏まえて,都道府県から市町村への権限移譲を第一次勧告に盛り込みたい,という話が出てました。これから各省に照会をかけるそうですが…大変だろうなぁ。あんまり時間ないし。先に出してた「法令による義務付け・枠付け調査」の回答が一応返ってきたということですが,続けてこれというのは調べさせられる若手の官僚の人たちにとってはホントに大変だろうと思う。その努力が意味のあるような帰結に結びつくことを心から祈るわけですが…調べている官僚の人たちとしては,常に現状維持が好ましいと思ってるのだろうか。聞くところによると,とてもそうは思えなくて辞めていくという人もいるそうですが…。