第34回会合(2008/2/6)

今回は国土交通省(砂防・都市公園と港湾・不動産業関係)と法務省(登記事務など)についてのヒアリング。「ご説明」の方がそんな感じだったからなのかもしれませんが,今回はあんまり出先機関の整理・統廃合についての議論という印象は受けませんでした。去年の秋〜冬にかけてのヒアリングと同様に,「この仕事は地方でも出来る」「いや出来ない」という応酬が繰り返される感じ,といいますか。
やや恒例になってきた感もありますが,冒頭猪瀬委員のお話が。今回は空港会社外資規制の話について,民営化された空港ビルへの天下りの問題があるから外資規制をしたいんだろうという指摘です。なかなか頷かされるお話で,猪瀬委員曰く,羽田空港の駐車場管理は件の空港ビル会社と財団法人の空港整備協会がやってるのに,この二つがキチンと競争してないのは問題だということで,駐車場の売り上げに関するデータを要求していました。しかしこういう話って自民党が「しっかり」してたときはそもそも表で対立する話じゃなかっただろうなぁ,と思ってしまいます。小泉改革の手法から学習しているということなのかもしれませんが,落としどころのない対立を煽って最後にみんなが損をする,というのは良くも悪くも政治に手馴れた自民党の手法ではないなぁ,と。
さて本題。今回の議論の内容について僕は技術的なところはほとんどわからないので,かなり手探りのお話になりますが,まず砂防については国交省によると基本的には都道府県の仕事で,都道府県で出来ないような大規模な砂防関係の仕事を国交省(整備局)が行うという整理になっているようです。また,都道府県による砂防事業は法定受託事務になっていて,これを自治事務にすべきという主張に対しては,「国からの技術的助言,指示等による砂防行政に関する事務についての全国的なバランスが確保されず,災害からの安全を国民等が等しく享受できなくなる」というまあお決まりのフレーズで。都市公園についても,国営だからこそできるサービスがあるということで,それが何かといわれると地球温暖化生物多様性への対応だとか。これが国でないと出来ない理由はちょっとよくわかりませんが,その他に挙げられていた皇室関係とかはまあ理解できるような。
ここでの中心的なお話は,砂防にしても都市公園にしても,高度な技術力を持った「ナショナルセンター」的な役割をどのように機能させるか,ということになるようです。国交省の主張としては「ナショナルセンター」的役割は国にしかできない,ということですが,それが整備局(あるいは各公園)単位なのか,それともそれらを統合して国でひとつなのかはよくわかりません。この辺りがよくわからなかったのが,僕が今回出先機関の話に聞こえなかった最大の理由のような気がします。で,問題はその「ナショナルセンター」的役割というのがどれほど凄いもんか,ということなのですが,猪瀬委員や横尾委員が「結局随意契約で投げてるだけでしょう,それなら地方でもできる」(特に公園)と指摘するのに対しては,あまりきちんとした反論がなされていないように感じました。反論としては,例えば地方では管理が覚束ない,あるいは都道府県に任せたら県域しか考えない,というような趣旨なのですが,それって管理を下請けに出すんだったらあんまり変わらないし,また,都道府県が管理をするときに,きちんと人を呼ぶことに対するモチベーションを与えることができれば,別に県域を超えたPRくらいはするでしょうに,と。さらに,すごいな,と思ったのは猪瀬委員による砂防事業の追及のところ。雲仙普賢岳火砕流の跡に,国交省関連の「天下り財団」(by猪瀬委員)が管理をする記念館みたいなものがあるらしいのですが,ここがほとんどPRもせずに無駄になっていると。それで,国交省が「高度なサービス」の重要性を説いてるけども,出先機関が仕事をやる中で「天下り財団」を養うことが目的化しているのだ,と責めるわけです。いや,いろいろな評価があるものの,猪瀬委員はこういう細かい論点については驚くほどに鋭いと思います。一般論として,「ナショナルセンター」的な役割の必要性というのを否定することは難しく,国交省の説明者も,自分が砂防一筋のキャリアを送ってきたことを表明したりするわけで,必ずしも砂防一筋の専門家がいたりするわけではない地方の側にとって,どうしても批判の矛先が鈍るところではないかと思います。しかしこうやって個別の論点から切り込んで「無駄」が存在するとして批判するのは説得力があるなぁ,と(聞いてみてもらえればわかると思いますが)。ただし,これはあくまでも行革の話なんですよね。地方分権という観点からは,出先機関の整理・統合を考えつつどうやって「ナショナルセンター」的な機能を維持しつつ分権を進める,ということが必要になると思いますが,松田専門委員が突っ込んでいたものの,この議論はちょっと生煮えだったような。
次は,港湾と不動産業関係。港湾については,委員の意見はいわば「選択と集中」を進めろ,というもの。つまり,国際的に競争できる港湾整備を国が中心に進めないといけないのに,地方の港湾まで口出ししている場合ではない,地方は地方に任せて国は重要港湾に集中すべきだ,という主張。まあわかるんですが,これをやると今度は「地方切捨てだ」といわれかねない国交省も慎重になるのはややわかるような気もします。それがあるのか知りませんが,港湾よりも不動産業関係で議論の時間がとられていました。不動産業関係というのは,建設業と宅建業に対する免許事務を国がやることがあるのはいかがか,というものです。複数の都道府県に跨って「営業所を構える」事業者への免許は国の事務だということですが,委員の主張としては,ひとつの都道府県が認めたら,他のところでも通用するということでいいじゃないか,というもの。で,国交省の反論は,都道府県のスタッフに問題があるうえに,業務停止命令を出したりするときなどに都道府県間の水平的な調整が難しいから国がやるんだ,というもの。スタッフについては「じゃあ人を移せばいいじゃないか」というのに対して「47に分散させずに整備局くらいで集約した方がいい」という回答があり,「いやそんな言うほど整備局のスタッフが充実してるのか?」「いえそれほどでも」という感じのよくあるパターン。人の問題は別とすると,「どこの都道府県が免許を交付したか」という責任の所在がわかって,問題が発生した都道府県と連携をとることさえできれば問題でないような気もするのですが,結局出来る/出来ないという主張を説明する根拠やデータ無しに,お互いに出来る/出来ないって言い合ってるというのが今の状態なのではないか,と思ったりしてるのですが。*1ただ,地方に下ろすと東京都の負担がめちゃくちゃ増えることになったり,業者に自分のところで開業して欲しい都道府県が審査(?)を甘くしたりするという問題が起きたりするかもしれない,という辺りは気をつける必要があるかもしれません。
最後は法務局の話。ここは主に登記事務についての議論で,登記事務っていうのは専門的だから地方には任せられませんという主張に対して,委員からは,地方でも十分に出来るという主張(by横尾委員)の他に,法務局が(電算化で)局の数をかなり減らしていることで窓口が少なくなり,地方の側としては分権によって自由度が上がるようなものではないが,窓口を設けて住民サービスの向上を図りたいのだ,という話。法務省は,登録事務をするのは司法書士や弁護士なわけだから,ある程度集約されていても問題ないという答えで,どうも微妙に噛み合わず。結局盛り上がりを見せていたのは,「電算化で局の数は減ったのに人の数が減ってない」から合理化が進んでないんじゃないか,というまたもや行政改革の話でした。
会合が終わってから,分権委の中間とりまとめに対する各省の反応が後ろ向きだ,「まじめにやれよ」という丹羽委員長のお怒りが表明される場面が。結局のところ政治的な関心がここに向いていない,というのが全てのような気もしますが,しかしこのテーマについて世論喚起をするのはかなり難しい。今回の会合のように,「行政改革」がらみのテーマで無駄をあぶりだすというのが一番簡単なんでしょうが,それはそれでまともな制度設計に繋がる保証は全くないわけで。今後もこういうかたちでヒアリングが続いていくことが想定されますが,前回の地方分権推進委員会以来使われてきたヒアリングという手法に限界が来ているような感じもしたりします。ただ現分権委の方もヒアリング無しに制度設計をできるほどに分厚い布陣でもない,というのが痛いところでしょうが。これは戦略レベルの問題というよりも,戦術レベルの問題,ということなんでしょうかね。

*1:斎藤専門委員によると,介護や産廃の免許については,二以上にまたがる事業者の免許も都道府県が交付しているそうです。この辺りのデータを使ってもう少し説得的な議論ができればいいのに,と思ったりもしますが。