第65回会合(2008/11/11)

分権委はそろそろ二次勧告に向けて佳境に入ってきた感じで,最近はだいたい週一回。ということなのでこの観察記録もやや遅れが目立つようになってきたわけですが…。第65回は国交省へのヒアリングと地制調の林宜嗣専門小委員会委員長・総務省へのヒアリング。
まず冒頭で丹羽委員長が麻生総理と会談して出先機関の原則廃止・統廃合という方針を確認したことの報告から。内容については以前のエントリでも記録しておいたとおりですが,まあ要は国交省の地方整備局と農水省地方農政局を具体例として挙げて,出先機関の原則廃止あるいは統廃合を確認したということです。この方針について,発言した委員のコメントを聞くとまあ基本的には高く評価するような感じで。委員会としてはこの方針を踏まえて12月に勧告を作成する,ということになります。あと,委員長によると,この方針の確認に加えて,二次勧告は総理が直接受け取るということになったそうです。この点について,西尾代理から,総理が勧告を直接受け取る意味としては,与党第一党である自民党に事前に勧告の内容を説明する必要がないということであり,出先機関の整理縮小に対して反対する省庁や族議員が事前に騒がれる状況を作らず,自分のところへもってこいということだという理解が示されます。そこで,勧告の直前までなるべく勧告の内容を秘匿するかたちで進めざるを得ないという意見が出されます。また,総理が決断するということでも,勧告を受け取った後の進め方を考えると,勧告のあとに総理を補佐する機構のあり方について,地方分権推進本部で主要閣僚による幹事会の規定を使うなどの方策をどのようにするかについて,どこまで勧告で踏み込むべきかを考えなくてはいけない,と。しかしこの意見に対しては露木委員が議論の内容を秘匿するのではなく,可能な限りオープンにすべき,という主張をしますが,「それについてはまた議論」ということで,今回の会合ではこれ以上の突っ込んだ議論はなく,いわばこういう論点が存在するのだ,ということが示されただけに終わります。

国交省ヒアリング:道路

国交省ヒアリングでまずとりあげられたのは,道路構造令関係の義務付け・枠付けです。具体的には道路構造や標識の基準についてということですが,国交省の主張としては,規範性と柔軟性をどのように担保するかが重要な課題であり,現在の基準は安全性・円滑性を確保する最小限の基準である,と。そしてこの基準についてはやむをえない場合の特例措置を柔軟に認めているものの,自治体によってこの柔軟規程が理解されていない傾向にあるという見解が示されます。ちょっと興味深かったのは,国交省の主張で,道路構造令の機能として土地収用との関係で厳しい運用があり,もし自治体があまり自由にできると,個々の道路整備で全ての道路管理者が全部説明しないといけなくなるという問題が生じ,土地収用の訴訟に耐えられないかもしれないという懸念があるというもの。確かに道路を新しく作るときには土地収用が必要になるわけで,これは個人の財産権に踏み込むところです。ここについて,現行では国のルールのもとにやってるんだというお墨付きをすることは重要な意味があるのだろうと思います。裏返していうと,自治体が国の威光を借りずに自ら権利関係を調整するか/できるか,という問題が浮かぶわけです。まあ例えばイギリスでは基礎自治体の主な役割として都市計画が与えられているわけですし,財産権を調整しながら「どういう都市にするか」を考えるのは自治体の本来の役割といえばそうなんだと思いますが。
さて国交省の主張に対する委員側の意見として,露木委員や猪瀬委員,横尾委員から,道路構造令が自治体の道路整備において障害になっている現状が指摘されます。これに対する国交省の反論は,現在では柔軟な道路整備が可能であり,あくまでも運用の問題である,とするもの。さらに露木委員からは,そもそも補助金交付金が張り付いていることが問題で,この部分について税源移譲をすれば道路構造令を参照せずに道路整備ができる,という話が出ます。この主張には猪瀬委員も賛同しますが,国交省からは明確な反論はなし,ということで。
まあ税源移譲をすると今度は(特定財源として補助金交付金を配るときと比べて)都市の方が実入りが増えることが想定されるわけですが,ここは特に地方部の自治体の側にとっても考えどころなのではないかな,と。極端に言えばより多くの財源を受けて,道路構造令などに縛られながら道路整備を進めるか,財源は減っても比較的自由なかたちで道路整備を進めるか*1。予算をハード化するという観点からは,財源をピシッと決めてしまってそこで自由にやって,というのが望ましいところでしょうが,まあ配り方を税源移譲(地方税or譲与税?)にするのか一般財源にするのか,あるいは道路だけの特定財源にするのか,という問題はあります*2。今の議論ではどうも交付金ということで落ち着く方向ですが,交付金というのは補助金に近いものから一般財源に近いものまで色々あるそうで,要するに決まってないということだと思いますが。

国交省ヒアリング:公営住宅関係

公営住宅関係は,冒頭に出てきた総理と丹羽委員長の会談でも取り上げられた重要なトピックだそうです。論点としては,まず既存の公営住宅を有償で譲渡したときにその対価を公営住宅の整備に使うという規定を緩めることができるか,という点から。国交省の主張は,現在も公営住宅へのニーズは根強いので,その整備のために,公営住宅を譲渡したときの対価は公営住宅の整備に使っていくべきだ,というもの。この根拠は国が補助金を出しているから,というものですが,横尾委員からは,国の補助は一部だから対価全ての使い道を限定するのはどうか,という主張がされます。なお露木委員の質問によると,その国の補助は現在では45%くらいということで。公営住宅の整備は自治事務だということなのですが,国交省憲法25条を踏まえて国民の居住を確保するということでやっている,通常の自治事務とは違うものだから,公営住宅の整備には国が積極的に関心を持ち,このような制限が必要だということでした。
次に都道府県が策定する住生活基本計画についての国交大臣の協議・同意について。委員は住生活基本法では供給目標量を設定していないので,全国的な総量規制には当たらない,という主張をするのに対して,国交省は,ナショナルミニマムの観点からセーフティネット機能を確保するために,厚労大臣と協議した上で同意することが必要だ,という立場。国交省の考え方としては,低所得で住環境が酷い,あるいは所得はそこそこでも住環境が低い,といった軸を設けて,その考え方に基づいて都道府県に具体的な供給目標量を設定してもらうことが重要だということですが,委員からはなぜその調整をしないといけないのかがわからない,と。確かによくわからないのは,国交省としては都道府県が公営住宅を確保することを担保するために計画に協議・同意を要するというわけですが,公営住宅の整備自体は自治事務であって,法定受託事務の処理基準とは違うわけです。とすると計画策定に協議・同意を必要とするような自治事務は実質的には法定受託事務と変わらないということなのだろうか。これは自治体の行政計画というものを考えるときに意外と示唆的な議論なのかも。あと,一次勧告で出された整備基準・入居者資格要件の見直しについては現在検討中で年度内には見直しを行うとのことでした。

国交省ヒアリング:港湾

港湾については前の某研究会で,このテーマでの報告があったので興味深く聞こうとするものの,正直よくわからないところが多いです。一応論点としては,港湾施設に関わる国交大臣の認定と重要港湾の入港料に関する規制について。国交省の主張を聞く限り,前者については普通は港湾と一体的に整備しなくてはいけないような施設は「臨港地区」とかの中で整備するのに,自治体が地権者など利害関係者の調整がうまくできなくて「臨港地区」を指定できないとき,例外的に国交大臣の認定を経て施設整備を行うという話らしい。この点については,委員が「港湾管理者である自治体が自ら認定すべき」という話をするのですが,どうも自治体による認定/指定がうまくいってないときに国が出てくる話のようなので,委員と国交省のやり取りがいまいち噛み合ってない感じ。結局のところポイントは,自治体が利害関係者の同意を得ることができるか,というところにあるようで,できていれば問題はないものの,それができない自治体をどうするか,という問題に落ち着くのかなぁ,と。わからないながら議論を解釈すると,自治体が調整できないときに,国が介入するのか自治体がある種の強権を発動するのか,というのが論点なのかと思います。ほんとのところ「調整できない」というのがどういう状態なのかよくわからないので何とも言いがたいのですが。
次に入港料については,国が港湾管理者が設定する入港料に上限を定めているのがどうか,ということ。話によると,もともと船主は入港料を取られること自体に反対で(トン税・特別トン税を取られるため),港を選ぶことができない船に対して港湾管理者が独占価格を設定しないように国が第三者的に介入する,ということらしい。その話自体はなんとなく納得できるのですが,後背地も含めて港湾が競争する,というのがどのくらい現実的な話なのかわからないので,独占という指摘が成り立つのかどうかもよくわからないわけですが…。かなり長期でみれば,独占価格を取っているような港湾(とその後背地)は集客力を失って衰退していくような気もしますが,短期的には船主が痛い目を見ることになるのかなぁ,と。どっちかというとより安いサービスを提供する値下げ競争が起こりそうな気はしますが,上限が問題になるということは,そこは問題じゃないわけで,「質に見合った価格」に割りと幅があるということなのだろうか…。

地制調林小委員長・総務省ヒアリング

さすがに2時間半は長い…。最後は林宜嗣先生と総務省へのヒアリング。地方自治法制の改革で,地制調は現在監査委員制度と議会制度の見直しをしてますよ,というお話。両者を改革するのはチェック機能の充実という観点なわけですが,そのときに自治体への義務付けを増やさないようにするのが難しい,と。少し議論になったのは監査の話で,監査委員事務局の(自治体間)共同設置という話に対して,露木委員がそれは重要だ,というくらいですが。確かに監査の独立性を考えると,複数の自治体が共同で監査委員事務局を設置している方が独立性は高まるように思いますが,後で少し出ていた外部監査との関係なども議論する必要があるのかもしれません。
あとは,林先生が地方財政の専門家でもあるので,分権委が直面する地方財政の問題について井伊委員が意見を求めたところ,補助金交付金や直轄事業負担金をどうするか,というのは当面の課題としても,そのあとで受益と負担の一致という観点から地方税をどのように設計するかという問題が残るだろう,と。地方税の議論には緊急避難的なものと構造改革的なものが混在していて,緊急避難が恒久措置になってしまうのは問題であり,格差是正も重要だが,地方税のあるべき姿・原則を踏まえて,その結果できた格差をどうするかというかたちで考えるべき,という指摘はそうだよなぁ,と。またこのコメントでも触れられてましたが,関係する審議会が分権委・地制調・税調と三つあって,どこで議論するにしてもすり合わせが重要だということは改めてそのとおりだと思うところです。

*1:まあそれに加えて上述の権利関係の調整に主体的に関わるという問題が出てくるわけですが。

*2:さらには特定財源でも道路構造令との関係をどうするのかとか,配り方をfomulaに基づいて配るのか国交省が配分するのかという問題もあるでしょうが。