第79回会合(2009/3/26)

最近の分権委は週一回ペース(正確には月三回?)で進むので,フォローがなかなか大変に。これまでは夏休みということで8月は会合なかったけど,今年はどうなるんだろうか。会合があるとすると,動画もDLできない中では大変だなぁ,と。
さてまたしても前の話ですが79回会合。もうすでに議事録も出てるからあんま意味ないですけどね(苦笑)。この日は橋下大阪府知事が「メイン・イベンター」って感じですが,その前に出先機関改革に関する工程表についての確認(?)の読み上げと,国交省ヒアリングが。まず工程表についての確認,というものははじめに宮脇事務局長が内容を読み上げて委員の了解を取るというかたち。でもこれは「委員会の勧告・意見等」に収録されているわけでもないので結局どんな意味を持つのだろうか…。公式文書としては丹羽委員長席上配布資料というだけだと思うんですけど,他になんか形式をもつことになったのだろうか。

国交省ヒアリング

国交省ヒアリングは,公営住宅整備基準・入居者基準について。国交省の説明としては,第一次勧告を受けて,まず公営住宅法に基づく整備基準の標準基準化,つまり国は標準を示すにとどめて具体的には地方が決めるという制度改正を行ったということ。これは公営住宅等整備基準(平成10年建設省令第10号)の改正ということだそうです。具体的には,基準の特例ということで公営住宅の床面積にかかる上限(80平米)を撤廃したそうで。一応下限は19平米として維持しているそうですが,あくまでも国として示した標準で,それを下回るかたちでの住居整備も認めるとのこと。これに関して議論になったのは二点。ひとつは西尾代理から,どのようなかたちで地方が決めるのか,という指摘がありました。これは国交省が床面積については「事業主体の長が別に措置を定める」というかたちで説明していたからであり,西尾代理の指摘の趣旨としては,「長が定める規則」と「議会で議決する条例」は大きく意味が違う,というところ。国交省は,これは基本的に技術的な基準の問題として考えているということで長が定めるとしたということですが(議会が定めることを排除していない),西尾代理に加えて小早川委員・露木委員からは「長が定める規則」と明示せずに条例か規則かも含めて地方が判断するような形式にするようにという意見が出されます。正直なところ,議会が定めることを排除していないのなら,なんで文言を変えることができないのか,というのは聞いていて全くわからなかったのですが,同じ趣旨の質問を露木委員が聞くと,「理由はない,技術的な事柄だから」ということ。しかしながら実際に改正された公営住宅等整備基準を見ると,思いっきり「事業主体の長が別に措置を定める場合」になってますね。最終改正が3月30日だから間に合わなかったのか,既に大臣決裁が下りていたということなのでしょうか。次は露木委員から補助金との関係についての質問が出るわけですが,国交省の説明では補助金の対象となるのは19平米〜80平米までの住宅で,19平米以下でも出ないことはないものの「提案事業」という形で別扱いになるんだとか。一方80平米以上だと地方の「上乗せ」分と解釈されて80平米相当のところまでが補助金の対象になる,と。まああんまり議論はされてませんでしたが,結局補助金の制約があると地方の選択としては19〜80平米でモノを作ろう,ということになるような気がしますが。
次は入居者資格要件の緩和について。これまでは同居親族要件や所得要件があり,こういう要件があるために空きがあっても入れないという現状があったのに対して,これを実質的に緩和し,地域の実情を踏まえて地域のニーズに対応できるようにする(2月27日付け通知),ということ。具体的な方法としては補助金適正化法上の目的外使用ということで,本来はこの手の目的外使用であれば大臣の個別承認がいるものの,地域の多様な住宅ニーズへの対応ということから,大臣の個別承認ではなくて,事後的な報告を受けたうえでの大臣の包括的な承認で足りることにするそうです。これに対するコメントは,要するに「なぜ特例措置にするのか」という一点。委員からは公営住宅法の体系に手をつけて,資格に関する要件を原則のところから変えることはできないのか,という指摘が出ていますが,国交省としては,目的外使用という手続きさえ取れば,事実上入居は可能であり,公営住宅の入居倍率が全国平均で10倍くらいと非常に高い中では,同居親族要件や所得要件をつけた現行の法体系を変えることは望ましくない,ということ。結局倍率が高いところがある一方で低いところもあるわけで,その辺は地方でもいいのかな,と思ったりもするわけですが,国交省としては法の趣旨が住宅に困窮する低額所得者向けの住宅供給ということが目的なので,公営住宅を民間で一定以上の供給が見込まれる単身者向けまで広げて地域活性化を目指すということは,趣旨が違うのだ,と。まあここは完全にすれ違いですが,確かに法の趣旨を変えるということになるとそもそも国会議員の仕事なので,国交省が「法体系を変えます」というのも筋違いのような気はするのですがどうなんでしょうか(何かそれを言うかどうか,という感じで議論が進んでいたのも微妙ですが)。ちなみに,目的外使用のためには公営住宅の地域対応活用計画を策定する必要があるということだったので,これは新たな義務付けか?と思いながら聞いていたら,当然小早川委員がその質問をされていました。回答としては煩瑣なものではないし義務付けには当たらないということでしたがどうなんでしょうか。まあやりたい自治体が手を挙げるということだから義務付けとは違うのかな。

橋下大阪府知事ヒアリング

続いては橋下知事の登場,ということですが,入場前にまずはカメラの大群が会議室に入って知事を迎えるというなんとも物々しい映像が(初めて映像が役に立ったのかも!?)。僕は知事が長く話をしているのを見たのは初めてですが(以前テレビ番組でちょこちょこあるといえばあるけど),話の細部はよくわからないことがあるものの,大筋のメッセージはきちんと発信されていて,周りの人々を巻き込む雰囲気のある人だなぁ,という印象受けました。まあ現状だと誰だって知事の人気に乗ろうという誘因はあるわけで,その辺差し引く必要はあると思いますが。
さて内容については,メディアでも報道されていたとおり,国による直轄事業負担金の請求を「ぼったくりバー」に準えて,こんなにひどい請求書を払えないはずなのに,国の職員も地方の職員もそれが普通だと思ってるところが問題だ,という趣旨。さらに現状を変えるためには地方から声を上げないとどうしようもないけども,地方から声を上げると(地方は陳情する立場であることも多いので)省庁にあとでいやがらせをされるのが困るから,何とか地方で一致して動くべきだ,という話になります。興味深かったのは,知事は単に直轄事業負担金と補助金を交換することで財源的に遣り繰りすることではだめだと言っていて,直轄事業それ自体を減らすべきだということを強調していたところでしょうか。多くの知事は直轄自体を減らすことを嫌がると考えられていると思いますが,橋下知事としては「直轄事業では国の利益だけ考えてもらって地方の利益とかせこいことを言わないでいい」ということ。これはとても機能主義的な議論で,基本的にはその通りだと思いますが*1,なかなかこれまではそういう議論は出てこなかったので。
本筋のところはほとんどそれで尽きていると思ったのですが,あと面白かったのは知事の現実主義的なスタイルでしょうか。就任当初は職員との対決姿勢(?)がメディアで報じられていましたが,今回の会合を聞いている限りでは,自分ひとりでできることの限界をきちんと理解した上で,職員や他組織との連携を考えながらやっていこうというスタイルに見えました。確か他でもこういう話が出ていたと思いますが,象徴的にはこの辺でしょうか。

今回の分権委の先生からいろいろ勧告が出されて,後退だという話がある。しかしとにかく進めないといけないという話と,一気に廃止なんてできないと思う。大阪でも今までのやり方を変えて進めようと思ってもそれはなかなか。大阪府内のちょっとしたことでも難しいのに,国全体の出先機関統廃合するという馬鹿でかい話は,いきなりできるわけがなくて,これも地方がもうちょっと考えないといけない。いきなり廃止にしなかったのはだめだとか地域振興局は危険だとかすぐに声を上げますけど,これはガバナンスの問題だと思うんです。47都道府県知事,いま分権委の先生方このメンバーでされてますけど,動かしていくのにこの人数では動かない,現在の大きい岩石をおおまかにでも砕いていただければ,一番重要なのは,正直僕のコントロールに入ってもらえるようなしくみにしてもらえれば僕やりますんで。ですから大きなかたまりをいきなりゼロにするのではなく,ちょっとづつの塊で分権に燃えている知事のところに送り込んでもらえれば,僕らがまた砕いていきますんで。地方側もいきなり廃止じゃないから分権委の取り組みが甘いんじゃないかという前に,大きな塊でもいいからよこしてくれ,と。あとはこっちでやるから,といわなくてはいけない。

全体的に,「じゃあどうしろと?」というようなテンプレートで批判をする首長やメディアと比べるととても現実的だと思ったのですが,そういう人たちも,こういう会合に呼ばれてしゃべると同じようなことをいうのかなぁ…と思ったり。まあ現実的だといっても,「ほかの都道府県で権限移譲を受けられなかったら大阪が受託する」とか「大阪の事業は大阪の業者で(→WTO的にどうか?)」みたいな話とか,ツッコミどころは少なくないのでしょうけども,それでも現実主義的かつ他の人のテンションを上げるようなかたちで議論をリードする姿勢を見ていると,現在の大阪でかなりの支持率を獲得している理由もわかるな,という感じだったと。普段自治体の関係者が分権委の会合に来ると,自治体関係者の側から分権委に様々な要望をすることが多いのですが,今回は逆で,委員の側から知事に対して「こういうこともある」みたいは要望?を連発していたのも,知事がリードする雰囲気の反映かもしれません。ただ難しいのは,橋下知事に限らず影響力のある知事のようなアクターの意向をどの程度制度設計にフィードバックできるか,ということかもしれません。制度設計の細かい内容を書くのは省庁ということになるので,いくら影響力のある人が声をあげても細部まで見るわけではありませんし。それを考えると,以前の小泉首相竹中大臣(−大田統括官),という組み合わせは,近年の日本では考えられないような絶妙の組み合わせだったのだな,と改めて思いますが。

*1:たぶん,国交省?が国の利益のみならず地方の利益を実現するエイジェントであったりすると複数プリンシパルに近いかたちになって,そこから生じる非効率もあるのではないかと。