第68回会合(2008/12/2)

しばらく間が空いてしまったけれども68回の会合。もはや第二次勧告も出てしまったので,随分前の話のような気もしてくるわけですが。まあ観察を継続することに意味があるというわけで(しかし一回長文書いたのに消えた…(泣)。この回はまず前回の知事会代表との意見交換を受けての国交省ヒアリング,それから出先機関に関する委員間の意見交換と,義務付け・枠付け関係の勧告案について。

国交省ヒアリング

国交省によれば,都道府県との協議の状況については,

一級河川及び一般国道の直轄区間の移管に伴い、その整備等に必要な財源措置その他の措置が十分に講じられること
②移管の時期については、事業中の箇所があること等を踏まえ、今後、適切な時期を地方公共団体と協議すること

を前提として地方自治体と協議しており,今後は,「移管する方向で調整するもの」と「移管の可能性について引き続き協議するもの」の二つのカテゴリに分類して協議を続けていくということだそうです。道路の方は領域の広い北海道が大きな問題になっているらしく,移管の可能性について引き続き協議するものの2/3が北海道の道路だとか。率直にいって,この国交省の報告に対する議論は少なかったかなぁ,という印象。問題になったのは,一次勧告のときに県内でおおむね完結する河川が65あって,その4割方の移管というはなしだったのが,さらに調整するのが6水系,継続協議が11水系,あわせて17水系しかないということで,国交省から各県に移管の話を出したのはどのくらいなのか,というところでしょうか。この問いに対する国交省の応え方はちょっと興味深くて,おそらく総括審議官と考えられる方が早い段階であっさり「20」と応えてるのに,委員と担当次長が延々と押し問答をするという不思議な画が…。まあ要するに国交省としては,県内で完結する53(「おおむね完結する」のが65)のうち4割は出したよ,ってことなわけですが。その他には出先機関に関連する公益法人の整理や,出先機関の庁舎建替えの問題が議論されましたが,あまり体系的な議論にはならなかった印象が。

出先機関について

出先機関についてはまず事務局からの説明として,現行の出先機関から自治体への権限移譲を進めた上で,残存業務をまとめて府省を超えた総合的出先機関を設立すること,そしてその総合的出先機関のガバナンスの観点から地方自治体が出先機関を監視する「協議会」を設けてはどうかという提案がなされます。露木委員が指摘するように,この提案自体唐突な感じがするのは事実ですが,委員間の意見交換での論点としては,(1)総合的出先機関を設立したとして,その事務の増殖を防ぐこと,(2)総合的出先機関の企画と執行を分離すること,の二点が主な議論となっていたようです。まず(1)については,とにかくスリム化をしたうえで,以前の姿で残さない(=原則廃止)方向で進むべき,という議論でわりとまとまっていたような感じですが,(2)についてはよくわからず。
というのは,この論点として,丹羽委員長や猪瀬委員,松田専門委員などは,「協議会」が企画に関与していくようなイメージで話をされているように聞こえるのですが,西尾代理や小早川委員が指摘するように,出先機関はあくまでも国の機関なので,国会・内閣・各省大臣の指揮監督というのが基本的なラインになるわけで,その中で「協議会」がどのように位置づけられるのかが不明なわけで。「協議会」を企画にかませていくならこれまでの出先機関とは異なる制度設計が必要になるのではないかと思うのですが,そのような話はありません。一方,西尾代理の議論では,出先機関を企画と執行に分離することには同様に賛成で,このときの論拠は協議会云々というよりも,巨大過ぎる総合的出先機関を設立するのは問題だ,という主張にあるようです。現行の出先機関をベースに考えると,西尾代理が指摘するように,「協議会」という地方の代表?に対して出先機関に一定の説明責任を果たさせるということになるのではないかと思いますが,そうは言っても横尾委員がその前に指摘しているように,既に知事や市長会の代表,経済界の代表などが出先機関と意見交換する場があるわけで,そういう意見交換の場とは異なる実質的な意味をどのように持たせるかというのは難しいところではないかと思われます。

義務付け・枠付け勧告案

この部分は前回・前々回でも議論されているわけですが,今回新たに加わったのは具体的なメルクマール該当/非該当の話。結局のところ10057という膨大な条項を小早川委員を中心とするWGが精査し,そのうちの半分弱がメルクマール非該当という判断を下されることになったそうです。また,第二次勧告の本文にはこのうち知事会や市長会の提言で取り上げられた53法律184条項を載せていて,指摘があったもののほとんどはメルクマール非該当という判断だ,ということでした。しかし指摘があったものでも184条項しかないわけで,合計10057も精査するのは改めて頭が下がります。
ここでの主要な論点はやはり二つでしょうか。まずは露木委員から出されたもので,これから先に定められる可能性がある義務付け・枠付けをどう考えるか,というもの。自治体が関与しない間に国会の立法で義務付け・枠付けが増えてしまうというのは悩ましい問題です。連邦国家を中心とした他の国ではおそらく憲法のなかで地方が中心的に仕事をするべき分野が定められていることが多くて,そこには「義務付け・枠付けをしない」という整理ができる可能性はありますが,日本の場合はそういう憲法的な解決はかなり難しい,と。裁判所にしても国地方係争処理委員会にしても,現行の法律(=法律で定められた義務付け・枠付け)を元に,国の行動が正当かどうかを判断するので,法律が義務付け・枠付けを行うこと自体の正当性は判断しないわけです。議論の中にも出ていたように,内閣法制局的な義務付け・枠付けの一次的な審査というのは考えられるでしょうが,いずれにせよどのような義務付け・枠付けならば許容できるかということについては,実践を通じて慣習法的な判断基準を作っていくしかないような感じがします(その「場」がないわけですが)。個人的にはそういう積み重ねの判断基準こそが,「地方自治の本旨」を作っていくことになるのではないかと思うわけですが。
もうひとつの論点は,井伊委員から出されたもので,このブログでもたびたびとりあげるような,あやしげな地域間競争が懸念されるような義務付け・枠付けの緩和は如何なものか,という議論。これに対する小早川委員の応答はまさにそのとおりだと思うのですが,今回の見直しで委員会として判断したのはあくまでも「メルクマール該当・非該当」であって,やはり非該当については今後対応をしていくべきということになるわけです。ここで非該当と言っている場合は,(実は該当と同じように)全て法律で決定せよということもあれば,条例で一定の幅で規則を変えることもできるということで,対応の仕方は検討の余地がある,と。つまり,今回見たのは行政法学的な観点(メルクマール)から,義務付け・枠付けが正当性を持つかどうかということであって,他の観点(例えば経済学的にあやしげな地域間競争を懸念する観点)から見ると,必ずしも自治体に権限移譲することが望ましくないものもあるかもしれない,ということなのだと思います。今回挙げられたメルクマールは,前段で書いた「地方自治の本旨」を形成するのには非常に重要な役割を果たすのだろうとは思いますが,この手のメルクマールには該当しない(=義務付け・枠付けは必要ない)けども,地域間競争への懸念から何らかの制限が望ましい,というような性質を持つ事務というのは扱いが難しくなりそうな感じがしますねぇ…。