二次勧告雑感

まだ会合の観察記録は作成途上にあるものの,昨日分権委の二次勧告が出たということでその感想を。内容についてはさしあたりこの記事にコンパクトにまとめられているように,国の出先機関の統廃合や自治体に対する仕事の「義務付け」の見直しを求めるものである,と(新聞各紙の報道については松井望先生のエントリをどうぞ)。両者について分権委は精力的なヒアリングを行ってきたわけですが,ここまでの記録からもわかりますように,義務付けの見直しについては勧告案が少し前から出ていたのに対して,出先機関の統廃合についてはギリギリまで案が出ず,結局12月4日に突然新聞が報道するということで全容(?)が明らかになったわけです。そのため,この出先機関の勧告案についての審議は12月8日の一回だけ(まだ見てませんが)というかなりの駆け足審議で,おいおい地方工務局ってなんだよ,って話になるわけですが。
内容についてはまた会合を観察していくとして,勧告とそれに対する反応について少し雑感を。まず勧告のうち義務付け・枠付け部分については66回会合のときにもちょっと感想を書きましたように,行政法の専門家集団であるWGの超人的な努力は素晴らしいと思うものの,これはあくまでも行政法の観点からの分析なので,今後は他の専門分野からの知見を踏まえた個別の検討が必要になってくるのではないかと思われます。特に,あやしい地域間競争が懸念される部分について経済学の知見を有効に活用する必要があるのだろうな,と。次に出先機関のところについては前のエントリにも書いているように,いわゆる内務省−府県体制から内閣−道州体制へという軸で見ればかなり大きな転換になるのではないかと思います。ただ正直なところ,なんで地方振興局と地方工務局の二つがあるのかがよくわかりませんが…。企画・調整(振興局)と公共事業の執行(工務局)って話だったと思いますが,出先機関ってそもそも本省での企画・調整をうけて執行を行うところじゃなかったっけ,と。特に公共事業の執行だけを独立させるのは,開発局が問題になったときの議論のように,うまく人事を考えないと閉じた独立王国のようになってかなりガバナンスが難しくなるのではないかと。
勧告への反応としては,マスコミ・地方自治体関係者ともにまさに判で押したテンプレートのようになっていて,義務付け・枠付けの部分は簡単に「高く評価」すると触れる一方で「出先機関については踏み込み不足」だそうです。出先機関についての批判としては,「もっと権限移譲を進めるべきだ」というものと,「巨大な機関が作られるのは分権に逆行する」というふたつで,別に分権委に肩入れする気はないですがこの批判はどうなのか,と。まず前者については第一次分権改革でも国の直接執行事務として整理されていたものを出先機関がやっているわけで,これを移譲するということになると,どうしても法定受託事務として縛りをつけたかたちでということになってしまうのではないかと思われます。もちろん,そこの義務付け・枠付けをも取り払って自治事務としてザックリ渡せばいい,という考え方もあるのかもしれませんが,そこまでの議論はとても尽くせていないし,そういう連邦国家的なノリに対するニーズがそこまであるとは思えないのではないかと…。格差云々の議論以前に,これまで国が一律にやるといっていたサービスの水準が,実際に地域によって変わってきたとき,それが本当に簡単に受け容れられるのかは疑問です。
また「巨大な機関が…」というやつですが,普段縦割り行政だと批判しているものが統合されると急にまとまって支配的な力を発揮するということなんですかねぇ…。むしろ,らっち先生が書いてたように「地方振興局(経済産業系)」とか「地方工務局(農林水産系)」そういう採用をしそうな方が問題で,統合された役所として統計部門やバックオフィスを一元化するとかいう効率化がきちんとできるか,というところがポイントになるように思うのですが。まあこれはどちらかというと内閣−道州体制を好ましく思う僕のバイアスかもしれませんが。あともうひとつ,あんまり議論されることはないですが,特に道路・河川など公共事業系を地方に移管するべしという議論は多く,国会議員が利益誘導に公共事業を使うのは好ましくないからこれを改革するべきだ,という論旨はわからなくもないですが,大量の公共事業を地方自治体に移管すると,今度は首長や地方議員といった地方政治家が利益誘導に公共事業を使う可能性があることも考慮しないとフェアとはいえないと思います。公共事業の話に限りませんが,分権後の地方自治体に対するマスコミ等の報道も含めたモニタリングが十分になされるのかどうかという点を考えると,やたらと「強大な地方政府」を作り出そうとすることの意味だって十分に考える必要があると思います。…なんて書くと空気を読めない研究者という烙印を押されそうですがorz
ただ,こういう批判ははっきりいって予想可能だったわけで,それを考えると出先機関再編というやや「分権」とは違う−少なくともこれまで委員会として重視してきた自由度の拡大路線とは違う−テーマに突っ込みすぎた分権委の戦略については,なぜこのような戦略をとることになったかを検証することも必要だと思います。出先機関から権限移譲を行っても,必ずしも自治体の自由度が拡大するということもないわけですし,このブログでもたまに強調しているように出先機関のガバナンスっていうのは分権の問題ではなく,国の仕事をいかに効率的に行うか,という問題なわけで。おそらく政治状況というのが背景にあるのだと考えられますが,そのあたりの審議会と政治の関係についての事例としても,今回の分権委は興味深いのではないかという気がします。

追記

新聞各紙の社説などが随分出てきたようで,Google Newで拾われて読めるものについては全部目を通してみたものの,ほぼテンプレートで作ったような社説のみ。もはや個別にリンクを貼る価値はないので止めますが,要は義務付け・枠付けの部分については簡単に「評価する」と書いて,出先機関の部分で「改革後退」と。くどいですが,これまで「国が直接執行すべき仕事」としてやってきた仕事をそのまま地方に渡すことが「権限移譲」だというのはどうかと。筋としては,少なくともそこで「権限移譲」される仕事についても同様に義務付け・枠付けのメルクマールに基づいて検討するべきでは?まあ今更ですが,要はマスコミにとっての敵(=中央省庁や政治家)が反対しそうなことは全て善であって,なんだかぎゃふんといってない感じがするからやだ,ということなんでしょうか…。
Google Newsで60件くらい見てるともう本当に判で押したような記事しかなくてイヤになってくるわけですが,その中で唯一全く違う論調の記事が。それはしんぶん赤旗この記事。まあこちらにもいろいろと立場はあるわけでしょうし,この記事に同意するかどうかは別として,単純に敵−味方の構図とは離れた議論をしてるように見えたのはこれくらいだったっていうのはどうなんだろうか…。