監査の独立性

実は(?)僕の修士論文は地方政府の行政評価の話だったので,監査制度のよくわからん論文なんか読んでたなぁ,と思いつつ。

◎監査委員を議会選任に=独立性強化へおおむね一致−地制調小委
地方自治体の財政破綻(はたん)や裏金問題を踏まえ監査機能の強化策を検討している第29次地方制度調査会(首相の諮問機関)の専門小委員会は、監査委員の首長部局からの独立性を高めるため、首長が委員を任命する現行制度を改め、議会が選任すべきだとする意見でおおむね一致した。監査結果の報告や意見を委員の合議で決める方式を見直し、単独の委員でも報告などを出せるよう求める指摘も相次いだ。
現在、監査委員は自治体の財務管理や行政運営などに通じた識見者や議員の中から首長が選び、議会の同意を得て任命している。専門小委では、「長の選任だと身内に甘くなりがちだ」といった理由から、議会が選任する方法が望ましいという意見が大勢を占めた。
一方で、地方分権の観点から、複数の選任方法を自治体に示し、各団体が条例で選択できるような柔軟な制度を求める意見も出された。このため議会が選任する方法を軸に、どの程度の範囲で自治体の選択を認めることが可能か引き続き議論する。専門小委の委員からは、議会が監査委員を公募して適格者かどうか審査した上で選任する方法なども提案されている。
監査委員を現行通り行政委員会として置くか、議会の所属機関にするかという点については、「議会からも独立した方がよい」として行政委員会形式が望ましいとする意見が多かった。
(後略)
時事通信・官庁速報

地方議会が「チェック機関」だという議論にはいつも違和感を覚えて仕方がないのですが。もちろんそういう性格を一部で持っているとは思いますが,それを代表的な機能として位置づけるのはどうかと。地方議会だって(予算関連以外で)条例案を提出することはできるわけですし,逆にそもそも構成を考えたら中選挙区大選挙区で個別の議員からの歳出拡大圧力がどうしても大きくなる可能性は高いし,しかも予算の減額修正自体できないわけで。「チェック機関」としては監査委員がいるものの,議員と有識者有識者といっても職員のOBが多いということでチェックは甘くなり勝ちになるわけですが。
この地制調の議論はその監査委員の位置づけを変えようというもの。これまでの監査委員は,首長が議会の同意を得た上で選任するというものだったわけですが,問題意識としてはこれをなんとか独立させようという話で,こういう議論は今まで本当に何度もなされてきました。それで行政委員会という話もたまに出てくるのですが…,なぜか記事では既に「現行通り行政委員会」となっているのですが,行政委員会とは違って監査委員は独任制の機関であって,地方自治法75条・199条・233条・241条・242条・243条の2・252条の32・252条の35・252条の36・252条の38・252条の39・252条の43で個別に合議する内容が定められています。*1この合議が全会一致を求めるものになっているために(というか多数決の規定がないらしい),例えば一人の監査委員が一生懸命監査をして意見を出しても,他に一人でも反対がいれば採用されないということが起こります。
やや脱線しましたが,ここで考えるべきことは,監査委員がどのような正統性を背景に監査を行うべきか,というところにあるような気がします。現行の独任制の監査委員にしても,仮に行政委員会にするとしても,委員を一義的に選任するのは首長なわけで,監査委員が首長の正統性をひっくり返すことができるかどうかには疑問がもたれます。仮に選ばれた監査委員が極めて「公共心」のある人で,現在の制度は「一人の監査委員」が自らの「公共心」に基づいて行った監査の結果を採用しない可能性が高いということで問題がありますが,この問題は行政委員会にしたところで解決されるわけではありません。行政委員会の委員だって首長が指名するわけで。それを考えたらむしろ「一人」だけが「公共心」の強い行動を行う可能性のほうが,「委員会の過半数」が「公共心」の強い行動を行う可能性よりも高いと考えられるぶんだけ,現行地方自治法から合議の規定を外した方がいいだけではないか,と言えないこともないでしょう。まあもちろんその場合には,今度は監査結果の不安定性(委員によって監査結果が大きく違う)のような問題が出てしまうわけでしょうが。
それを考えると,正統性の源泉を首長から他のところに移してしまう,という提案の方がまだ好ましいように思われます。最も有力なのは地方議会が指名する,ということでしょう。言い換えると,地方議会が行政の仕事をチェックするために自らのエイジェントを作るということになりますが。ただし,現行の地方議会を考えると,はじめの方で書いたように中選挙区大選挙区で個別の議員からの歳出拡大圧力がどうしても大きくなる可能性が高いということで,歳出を抑制するような監査を行うエイジェントを選ぶかどうかは怪しいところがあります。地方議会の権限で減税を行うことができれば話が違うのかもしれませんが,今は交付税などのことを考えると地方政府はほとんど減税できないのでやはり「チェック」になるかどうかは怪しい。つまり,このような方法をとるためには,地方議会の「目的」を少し変える必要があると考えられます。蛇足ですが,僕のように理論の話に毒された人間にはここで選挙制度っていうのが重要になると思われるわけですが。
もうひとつは,もう選挙で監査委員(会)を選んでしまおう,ということもあり得るのではないかと思います。監査委員の「再選」インセンティブがあるとすれば,無駄な事業を減らして税負担を軽くしたり,他の「真に必要な」事業だけを残すことで有権者がもう一度彼らを選ぶ,というものになると考えられるわけで,これはぱっと見なんか魅力的な気もしますが(僕は一瞬そう思ったのですが…),よく考えたらそもそも議会がそれをできるようにすればいいだけの話だし,監査委員のほうを中選挙区制大選挙区制なんぞにしてしまったら,逆に「ぬるい監査」をやってくれる監査委員を選挙で通そうとする勢力が選挙を頑張るだけ,という話になるだけのような気がします。これもいまの地方議会に対する社会的な不満を見るとどの程度違うのか…と。そう考えたら,(とりあえず選挙制度のことは脇において)今の制度にしても「まともな」首長や議員を選ぶというか,その地域における代表的な利益(中位投票者の利益?)を代弁する首長候補・議員候補が選挙に立候補しやすくなるような試みを同時並行でやっていかないとどうしようもないんじゃないかなぁ,と思ってみたりするわけですが。

*1:だからまあ法で定められていない部分については合議なしでも監査委員としての職務を遂行することはできるわけで。あんまり余地は少ないでしょうが。