第37回会合(2008/3/5)

今回は国土交通省のうち運輸関係の出先機関である地方運輸局関係のヒアリング。まず鉄道・自動車関係の許認可や検査事務などについて。国交省の主張は,現行の制度が利用者の安心・安全を確保するうえで最も効率的な制度であるからして変更する必要性がない,とのこと。まあ基本的にはいつも通りです。この中で,確かに鉄道についてはネットワークが極めて広範に及ぶわけで,その主張に合理性があるのではないかと思われます。それを考えると,問題としては道路の話によく似ていて,「基幹的なネットワーク」については中央政府が整備するということについては異論がないなかで,ひとつの都道府県で完結するようなネットワークについてどのように考えるかということが焦点になります。鉄道については乗り入れもあるので全て一貫したネットワークとして考えるべきだ,といわれるとそれはそうかなぁ,とも思うわけですが,逆に全く乗り入れもないローカル線やケーブルカー・ロープウェイなどであれば地方がやってもいいのではないか,という委員側の意見にもそれなりの説得力があると思われます。
一方で,自動車関係について,まず問題になるのは許認可関係なのですが,公共交通(バス・タクシー)についても全国的な安心・安全の確保という観点から国がやらないといけない,ということなのですが,参考資料の12ページ「路線又は主たる営業区域が都道府県内に留まるバス・タクシー事業者数について」によると,路線バスのうち路線が「一の都道府県に留まる」事業者は全体の57.2%,貸し切りバスのうち「複数の都道府県に営業区域を有する」事業者が6.8%,法人タクシーのうち「複数の都道府県に営業区域を有する」事業者が0.9%ということで,横尾委員からもツッコまれてましたが,まあ割りと都道府県に完結してるわけです。*1鉄道のうちローカル線やケーブルカー・ロープウェイなども同じですが,こういう一地域で完結しているものについては,地方としては,観光や産業振興との関係で主導的な立場で影響力を発揮していきたいものの,監督権限がないから十分に影響力を行使することができない,という主張になります。結局のところ,地方としては「地域経営」に必要な権限を集約して欲しいというのに対して,中央の方では特にそのうちの検査などに専門性・統一性が必要なのでダメだ,ということになります。
検査などで専門性・統一性が必要なのはある程度理解できるのですが,例えば運賃の認可なんかは地方でもいいのではないか,と思うところですが,これについてはなかなか面白い遣り取りが。

国交省:事業者間の競争条件の公平性という点をわれわれは重視しています。例えば,路線とか営業区域が一つの県に留まるバス事業・タクシー事業につきまして,その県に権限を移譲するということになった場合は,旅客運送事業者の営業エリアの所在によって,許認可権限が非常に分散化するということです。同一のエリアの中で許認可権限が国のもの,そしてまた都道府県のものということで,(許認可権限)主体が異なる複数の路線が共存するということがございます。そういう場合は運賃の認可だとか,行政処分,事故を起こした行政処分のときにも,権限の主体によって異なる判断が行われる可能性があるわけで,こうなると事業者間の取り扱いに不公平さが生じるのではないか,そういう意味では競争条件に歪みが生じるおそれがある,こういうことを心配しております。
小早川委員:かつての需給調整華やかなりし時代と違うと思うんですね。現在は安心基準・安全規制中心になっているわけで,料金規制なんかもありますけど,裁量の幅はきわめて小さいはず。ですから今のご説明は現状を踏まえて考えるとそんなに心配することはない。とんでもない法令の基準をはみ出したような処分があれば,事業者が不服を言えばいいわけであって,そこまで最初から心配して今の組織でなければないと移管ということはないと思います。
国交省:私どもはその点大変心配しております。また,例えばバスにつきましては,都道府県の公営バスとかもございますので,公営バスと民間バスが競合しております。そういう中で都道府県に権限が行くという話になると,そこでは公平な競争が担保できないのではないかと,そういう心配をしております。
横尾委員:そういうときは,住民代表の議会の代表者ですとか,事業者の代表が審査委員会を作って,そこで審査をして,透明性の高い議論をして,審査すればいいんじゃないですか
国交省:基準等については国がキチンと透明性を確保してやっております。
横尾委員:ですからそれを示していけば,何もおおやけがおおやけだけ優遇すればできないわけでしょ,チェックが入るわけですから。
国交省:ただですね,やはり昔のように機関委任事務というのがございません,これは廃止になりました。指揮命令系統というものがなくなったわけです。国と県との間は。対等なのです。その中で47都道府県の判断は違いますから。これはやっぱり一元的に業務をこなすという意味では,国が地方運輸局を使って本省と一体となってやった方が効率的であると思います。
小早川委員:公営交通の議論は偏った問題で,そこは本筋じゃないと思いますけど。

やや長い遣り取りですが,議論が少しずつズレながら進んでいく雰囲気がよくわかっていただけるのではないかと(苦笑)。まあ料金規制をしている人に「競争条件に歪みが生じる」から権限移譲できないとか言われても…というところもありますが,そこはとりあえず置いておいて。ひとつひとつの質問にはちゃんと答えてはいないのですが,全体を通すと両者の主張はおぼろげながら見えてくるのではないかと。つまり,委員側は,(1)許認可権を地方に委ねればいい,(2)国交省側が懸念するような問題が生じたときには,事業者が申し立てるしくみをつくればいい,(3)事業者から申し立てを受けたときには国の方がチェックを行えばいい,という感じで,これはよく言われるように事後的なチェックを重視する姿勢です。それに対して国交省側は,(1)基準は作っている,(2)その基準を履行するためには指揮命令系統が必要だ,という主張になってます。つまり都道府県が国からの事前のコントロールに従えばいいけどそれができないからダメだ,ということで。本筋で言うと国交省が回答しなくてはいけないのは,事後的なチェック体制がなぜダメかというところではないでしょうか。それに対して反論せず,機関委任事務がなくなって国と地方が対等だからということで何もできないようなことを言ってますが,少なくとも現在でも国交省自治事務でも「是正の要求」はできるわけです。確かにこれが無視されると困るということはわかりますが,それであれば西尾先生が本に書かれていたように,国地方係争処理委員会に対して国側から申し立てられないようにした制度設計が悪いわけで,そちらを直すことの方が筋のように思われます。最後の方でかなりキャラの立った某課長(技官だと思ったら事務官だった…)が自動車登録関係で盛んに機関委任事務がなくなったから何もできないといってましたが,これも基本的には同じ話でしょう。
しかし抽象論・制度論はどうも進みません。丹羽委員長が「組織維持じゃないのか」といったようなやや挑発的な投げかけをしてもどうもぬかに釘。それに対して,猪瀬委員が具体的に関東運輸局の一部の部課が何をしているのか,と問いかけたところは,説明者側もきちんとした答えはほとんどできておらず,「無駄がある」と印象付ける効果を持っていたのではないかと。この人が具体例から無駄だと思われるところを炙り出す能力は本当にスゴイなぁ,と思います。まあめちゃくちゃたくさんスタッフがいたら,それを一個一個炙り出して潰していくというのはアリなんでしょうがそれも難しい。そうするとある程度抽象論・制度論で全体に網をかけるしかないというのがこの委員会のジレンマなのかなぁ,と思ったりして。
長いですが,鉄道・自動車関係の次は,海事・観光・倉庫関係。ここではほとんどが観光関係の議論に集中します。話の元は日本観光協会という元運輸次官が長をしているという公益法人が,地方から寄付を要求してきた/いるという話。これは以前ホテルやレストランに課せられていた地方特別消費税の名残だそうですが,地方消費税に制度が変わってからというもの,地方政府からその分を募って国内向けの観光事業をしていた,という話。猪瀬委員はこういう観光政策が,中央の出先機関公益法人・地方政府の三重行政じゃないか,という批判をします。国交省は違う民間組織なので関係ない,との一点張りで,それで通る(と思ってる)ところはある意味すごいですが,西尾委員や露木委員からも観光庁を作るのはいいがグローバル化に対応して外向きの政策に限るべきだという主張がなされます。しかし日本観光協会については「国の機関ではないので」なんともいえないという対応のままで,露木委員からは最後に「そんな対応じゃ人来ませんよ」といわれていましたが…。
次回は知事会との意見交換ということなんで,当面出先機関シリーズは今回で打ち止めなのかなぁ,と。会合でも論点整理のペーパーが出ていましたが,またどっかで一度出先機関シリーズを振り返ってみようかなぁとも思います。

*1:しかしこういうところでデータの見せ方に微妙な操作をしようとするのは逆になんと言うか悲しいところだと思うので…。まあひょっとするとここにツッコませて他から目を逸らさせるという高等戦術なのかもしれませんが。