ダム反対

夏休みの宿題がまだ終わっていない関係で最近更新が滞っているのですが,これは記録しておかねば。

★◎国は白紙撤回を=川辺川ダム、蒲島知事が反対−着工への道のり険しく・熊本県
国土交通省が計画中の熊本県南部の球磨川水系の川辺川ダム(相良村)について、蒲島郁夫熊本県知事は11日の9月定例県議会で、建設に反対し、同省に計画の白紙撤回を求めていく意向を表明した。同ダム建設は国が行う直轄事業で、知事の同意を必ずしも必要としないが、関係自治体の一部や市民団体の根強い反対もあり、着工への道のりは険しくなった。国交省がダムを建設しない治水方法を含め、河川整備計画の見直しを迫られるのは必至だ。
蒲島知事は「人吉市長や相良村長ら住民独自の意思を尊重すべきだ。球磨川は将来に残すべき宝」とダム建設反対の理由を説明した。
川辺川ダムは1966年の建設計画発表から42年が経過した。国交省は、2007年に策定した球磨川水系の河川整備基本方針に沿って具体的な整備計画の策定を進めており、今年8月、「洪水調節施設として川辺川ダムを建設する」との基本的な考え方を示した。
策定に際しては、河川法で地元知事からの意見聴取が定められている。国交省は「熊本県知事の意見を重く受け止め、河川整備計画(原案)を作成する」としており、蒲島知事の意見がどの程度反映されるかが注目される。 
蒲島知事の決断の背景には、建設予定地の相良村の徳田正臣村長が事実上、反対姿勢を示しているほか、関係自治体の中では最も洪水が起きやすい人吉市の田中信孝市長も「ダム建設に疑問を持つ市民が多い。計画そのものを白紙撤回すべきだ」などとして、反対していることなどがある。
財政面での問題も重要な判断材料となったとみられる。川辺川ダムを建設した場合、県財政が厳しい中、国から求められる300億〜350億円の負担金のほか、年間4億円の維持管理費が重荷となる。
9月11日 時事通信

◎国や県議会と真っ向対立=知事のダム建設反対表明で−川辺川ダム
蒲島郁夫知事の反対表明を受け、ダム計画が見直される可能性が出てきた国営川辺川ダム事業。「洪水調節には川辺川ダムが必要」とする国交省の意向や、ダム推進の立場を示す県議会最大会派自民党と真っ向から対立することになり、県政運営の波乱要因となる懸念が出てきた。「五木の子守唄」で知られ、ダム関連事業費で地域振興策を進めてきた水没予定地の五木村にも影響が出そうだ。
蒲島知事は、ダム代替案の検討が求められそうだが、ダム以外の治水に否定的な国交省との交渉は難航が予想される。自民党を中心に議会との対立も想定され、議会から不信任の動きが出る可能性も否定できない。
(略)
9月11日 時事通信

正直いって意外,というのが感想でしょうか。基本的に自民党の支持を受けていた知事当選の経緯を考えると,ここで議会と対決するような姿勢をとることになるというのは。「研究者」という要因がどの程度効いているのかはよくわかりませんが,最も論争的(?)なテーマで県議会自民党を敵に回すということは,次回選挙で自民党の支持なしでも勝てると踏んだという解釈になるのでしょうか。これまでの経緯を見ると,知事は当初ダムに対して中立な姿勢を表明していたものの,8月に知事自ら選出した有者会議が建設を事実上容認する見解を提示したことで,知事は最終的には賛成すると見込まれていたということも,意外な感じを醸し出すひとつの要素になると思うのですが。こういうかたちでいきなり(議会に根回し無しに)ダム建設への反対を表明した前例としては長野県の田中康夫元知事の例がありますが,あのときは県議会の反発が極めて強く,不信任→知事失職→再選,となったわけですが,今回はどうなることやら。僕が見てる限りでは自民党熊本県連はわりと県で固まっている印象があるので,本格的に対立すると議会運営はかなり難しくなりそうな気がしますが。
ただよくわからないのは,この川辺川ダムの事業は直轄事業であるということです(ちなみに長野県の「脱ダム宣言」は基本的に県が建設主体としてやってる補助事業)。直轄事業なので,もちろん地元の合意というのは必要であるとしても国交省(旧建設省)が最終的には意思決定をすることになるのではないかと思われます。しかし,国交省のコメントを見ると微妙にモノワカリがいいというかなんというか…。

国交相「判断重く受け止める」=省内に代替案検討の機運も−川辺川ダム問題
熊本県蒲島郁夫知事が11日、川辺川ダムの建設計画に反対し、白紙撤回を求める意向を表明したことについて、谷垣禎一国土交通相は「知事の判断を重く受け止めたい」とのコメントを発表した。今後の方針については知事の意向を詳細に把握した上、「責任を持って判断したい」としており、国交省内には代替案を検討する機運も出てきた。
同省は川辺川ダム計画の事業主体。河川局幹部は「洪水対策にはダム建設が最も効率の良い方法だ」とダム建設の必要性を改めて強調した。しかし、別の同局幹部は「知事がどうしても反対だというなら、河川整備計画の策定に際して、代替案を検討せざるを得ないことになる」とし、下流での遊水池の建設など、ダムに代わる治水施設の整備の検討を示唆した。
9月11日 時事通信

なぜかもうダム以外の選択肢について言及してるんですよねぇ。いつもなら代替案なんて絶対言わずに直轄事業を粛々と進めていく,とかそういうコメントをしそうなものなのに。まあ1960年代から既に半世紀近くに渡って行っている事業なわけですから,常識的に考えてもう無理だと思っているのかとも考えられるのですが,直近で九州整備局長が「ダムを建設しなければ、流域住民は水害を受忍せざるを得ない」というちょっと脅迫のような発言をしていたということで,必ずしも国交省内が固まっているというわけではないのでしょうけど。なお,報道によると知事はこの発言に反発していたようで,「意外」な結論が出された背景にはそういう国交省への反発もあるのかもしれません。しかしこれからはかなり状況が難しそう。知事の反対を受けて国交省が建設継続とすれば,相変わらず事業はストップするでしょうし,国交省の方でも建設を断念ということになると県議会は収まらずに知事との対決姿勢を強めるんじゃないかなぁ,と。補償として何らかの事業を新たに引っ張ってくるといても,国の方は財政難でそんな原資はなさそうだし,なにより誰が事業を引っ張ってくるのか(知事か?地元選出国会議員か?),という問題もあるように思われます。事業規模が大きい直轄事業だけに,国政レベルの政治と地方レベルの政治を巻き込んだ,かなり興味深い動きになっていくような感じで,これからも継続的に観察する必要がありそうです。