直接審査

8月中旬からどうもスクランブル体制になっていて,ブログもほとんどほったらかしだったのですが,ようやく仕事にメドが就いてきて来週からは通常営業に戻れそうです。分権委も9月1日の56回はほとんど確認していて,あとは前回を見たら追いつくというところなのですが,22日に次の会合があるということなのでまた離されてしまう…。しかしこの期間に会合が少なくて個人的にはよかったなと。
さて日経でなかなか興味深いニュースが。

薬の診療報酬、健保組合が直接審査 トヨタ・NEC
トヨタ自動車とNECの健康保険組合は10月から、処方せんに基づいて患者に薬を出す薬局と直接契約し、薬の診療報酬明細書(レセプト)の審査や支払いを始める。レセプトを直接チェックすることで社員の健康管理や医療費適正化に役立てるほか、委託手数料などの経費を削減する。企業の健保組合が直接審査・支払いに踏み切るのは両社が初めて。
両組合はすでに厚労省に認可申請を提出しており、認可が下りれば10月1日から開始する。トヨタ自動車健康保険組合は全国約250の薬局と契約する。 (07:00)

今は基本的に健保組合・政管健保なら「社会保険診療報酬支払基金」が,国保なら「国民健康保険団体連合会」が診療報酬の審査支払業務を行っているわけですが,この記事ではトヨタNECはこの部分について直接審査支払をするということ。ウェブの記事は割とそっけないですが新聞の方を見るともうちょっと詳しく書いてあって,これまで厚労省が管轄する社会保険診療報酬支払基金に手数料を支払って審査・支払業務を委託していたのが,これからは健保組合が薬局と直接契約し,請求された調剤レセプトを審査して薬局に報酬を支払うことで,社員の服薬状況の把握や支払基金への手数料の削減が期待できるとされています。また,支払基金が独占的に審査・支払をしていたため,審査が甘くなるという指摘があったとして,直接審査が過剰投薬による過払いの発見に繋がるのではないか,という指摘がありました。なお両者の健保組合はそれぞれ24万(NEC)と22万(トヨタ)だそうなので,結構インパクトはあるのだろうと思いますが。
で,重要な点としてはやはり健保組合が直接「契約した薬局」に対して審査支払するということでしょう。これまでは全部社会保険診療報酬支払基金が審査支払してきたわけですが,この方法は,「国」が審査支払をしているのか「保険者」が審査支払しているのかよくわからないところがあったのではないかと思われます。もちろん建前としては「保険者」が手数料を払って審査支払をしてもらってるわけですが,支払の基準を決める診療報酬は「保険者」が決めるわけではなくて「国」が決めてるわけで,個別の「保険者」が薬局をモニタリングすることはほとんど想定されてない制度だったわけです。しかし,記事にあるとおりならば,「保険者」である健保組合と薬局が直接契約するということなので,健保組合は直接モニタリングすることができます。さらに重要なのは,これまで「どこに行っても基本的には同じ」だった薬局が必ずしもそうではなくなると。この場合,NECトヨタの健保被保険者はいける薬局が制限されて不便なところもあるでしょうが,その分かかる費用が安くなり,保険料も安くなるというメリットを享受することができると考えられます。政府・厚労省がどういう思想なのかよくわかりませんが,どんどん公費が投入されて良くも悪くも「国」としての平等化(「税方式」化?)が進んでいる国保政管健保とは反対に,こういう大規模な健保は高齢者医療制度などへの負担金を払いつつ可能な限りで「保険者」として効率化・自主運営の道を進む,ということなんですかねぇ。健保の「保険者」としての性格を強めるとなると,自前の価格(診療報酬)とか自前の病院(医療供給)もありうるのかもしれませんが,そうすると「国」としてやってる部分との連結をどう設定するのか,というのも結構難しい議論になっていくような気がします。