保険料値上げ

扶養控除廃止の一方で,国保の保険料は値上げになる。

厚労省、国保保険料の年間上限を63万円に引き上げ 10年度から
厚生労働省は4日、市町村ごとに運営する国民健康保険国保)の保険料の年間上限額を来年度から4万円引き上げて、63万円とする方針を社会保障審議会に示した。高所得層の負担を高め、これを財源に中所得層の保険料負担を軽くする狙いだ。政令の改正を進める。
国保には自営業者や失業者らが加入している。保険料の算定方法は市町村ごとに異なるが、高所得層の負担が際限なく増えるのを防ぐため、国が上限額を一律に定めている。現在の上限額は年間59万円だが、63万円にする。引き上げ幅は1993年度と並び最大。
国保の財政は景気低迷による保険料収入の減少や医療費の増大で悪化している。2008年度は一般会計から約2585億円が赤字の穴埋めに使われており、厚労省は改善措置を検討していた。保険料の上限を引き上げて国保の収支を改善し、中所得層の保険料を下げるように市町村を指導する。低所得層には税投入で保険料を軽減する仕組みがすでにある。
日経新聞12月5日

国民健康保険はずっと火の車で,後期高齢者医療制度を導入することで,現役世代においては多少の負担軽減を図ったものの,残念ながら値上げは避けられない(一般紙で報道されたこの方針自体は,時事通信が既に11月の頭の時点で「厚労省が方針を固めた」ことを報じている)。この方向性は自民党政権下で既に示されていて,以前のエントリでは時事通信の記事を引用している(エントリの「追記」参照,なお時事通信はなぜか介護保険料とあわせて国保の保険料と表示しているので上限額が10万円大きくなっている)。上限額の引き上げは,記事にもあるように,「保険料の上限を引き上げて国保の収支を改善し、中所得層の保険料を下げる」ことが目的だと考えられるが,まさに以前のエントリで書いたように,「限度額を超える世帯」の割合を見ると,むしろ現在中所得層の保険料負担が厳しいところでは,さらに厳しくなってしまう可能性も考えられる。
一方で,見落としていた記事ではあるが,11月17日の時事通信の記事では以下のような報道がなされている。

◎来年度保険料9.9%に=予想以上の財政悪化−協会けんぽ試算
全国健康保険協会は17日、中小企業のサラリーマンが加入する全国健康保険協会管掌健康保険(協会けんぽ)の2010年度の全国平均保険料率について、現在の8.2%(労使折半)から9.9%に引き上げる必要があるとの試算を発表した。10月時点では9.5%としていたが、保険財政の悪化を受けて見通しを修正した。 
9月時点では9.0〜9.1%と想定していた。しかし、不況の影響で保険料算定の基礎となる加入者の賃金が予想を超えるペースで下がり続けている上、9月後半以降の新型インフルエンザ流行で医療費が大きく膨らみ、10月に続いて修正を迫られた。
同協会の小林剛理事長は同日、保険料の大幅な引き上げを回避するため、国庫補助率を現行の13%から16.4〜20%に引き上げるよう長妻昭厚生労働相に要請した。

個人的には,健保に加入する被用者と国保加入者の公平という観点から現行制度に問題があるとは思うけれども,今回予想される引き上げはやはり大きい。たしか9月時点で9%くらいになりそう,という報道は見たような気がするけど,10%を伺うところになってくると,従来の水準を考えた時の引き上げ幅跳しては結構なものになる。まあそれでも被用者の場合は労使折半なので直接の負担は5%にも及ばず,国保加入者の負担感と比べると違いはあると思うけど。去年の後期高齢者医療制度導入から,特に支援金がきついということで多くの健保が政管健保協会けんぽの方に移ってきているが,この引き上げはそのような行動に影響を与えるのだろうか。時事通信の記事を見ると医療費の膨らみは新型インフルエンザの流行が効いているということだが,そうすると,相対的に大企業が多い(加入者の所得が高いし,結婚している若年層も多い?)健保組合の方でも医療費に跳ね返ってると思うわけですがどういうことになるだろうか。
念のため,ということですが,被用者が使用者と折半で払っているから負担が低いということを過度に批判したいわけではなく,使用者負担分は本来被用者が給与としてもらうはずの分であるということは理解しているつもり。しかし,もしその分を本当に給与としてもらっているとすれば,被用者は本来所得税・住民税額がその分上がるはずだし,全く問題がない制度というわけではないのも事実。その辺を念頭においたうえでも,やはり普通に感じる比較可能な「所得」に対して国保の保険料の割合が健保の保険料の割合に比べて高すぎるのは問題だと思うわけですが。僕がいまいち実感を持ってなくて,やはり問題になってくるのは自営業者の所得捕捉の問題だと思うわけですが,もうそろそろこれがどの程度問題なのかははっきりしていく方がいいように思われる。「どのくらい所得が捕捉されているか」を調べるのは,それこそ抵抗もあると思うし難しいかもしれないが,そもそも「所得捕捉が問題になる」人達がどのくらいいるのかすらよくわかってないのではないか。その数字によっては,保険料を定額制にしたうえで,定率制の人と異なる受益を提供することだって検討されてもよいのではないかと思うわけで。

追記

政管健保の状況を受けて公費が投入され,その穴埋めのために健保組合・共済からの負担が増えることについて批判が出ているらしい。たしか去年,負担に耐えかねて西濃運輸の健保組合が解散するという話が出ていたが,このエントリで書いたように,個人的にはこの流れは負担の平等化という観点から望ましいのではないかと考えている。ほぼ同旨の話が東京大学の岩本先生のブログで,「被用者保険による高齢者医療費の支援の仕方」としてまとめられていて,個人的には全く賛成のところ。